邂逅
昔までの紅芽は俺にも優しかったのだ。笑顔以外の顔を見る方が少なかった程に。
本当に、この頃は仲が良かった。
しかし、そんな幸せはすぐに崩れ去った。
「……誘拐、された?」
「……あぁ。どうして、あの娘が…」
目の前の父は頭を抱えていた。
だから、そんな父を助けたくて。一人で紅芽を探しに行った。
場所は簡単に見つける事が出来た。
「何だコイツは……ゲハッ……」
誘拐犯は弱かった。それも、とっても。
いや、俺に戦闘経験がありすぎただけなのかも知れないけどな。
……でも、倒した程度で俺の怒りは収まらなかった。
殴った。蹴った。原型が留まらないほどに、繰り返した。
でも、それが良くなかったのかもしれない。
だって、傍から見たら俺が暴力犯だったからな。
「……手を挙げろ。それ以上動くのなら殺す。」
そう言った警備団は俺を狙った。
勿論、俺は違うと伝えた。
でもまあ、今になって冷静に考えるなら明らかに返り血の付着している男の言葉を誰が信用出来るのだろうか。
だから俺は救出した妹に助けを求めた。
でも、妹は一拍おいて、こう言った。
「……犯人は、この男です。」
「……紅芽?」
そうして、俺は捕まった。何も出来なかった。
でも俺はそこまで辛い訳じゃなかった。一殺人毎に神経を持っていかれてたらどうなるというのだ?
「囚人、お前の罪の判決が決まった。」
無情にも、看守は告げる。その、一言を。
「……死刑、だ。」
……まぁ当然だ。殺人だもの。
――二回目の人生、殆ど無駄になってしまったな、と俺は思う。
女神とかいう名前をしていた、アイツにも申し訳なさを感じていた。
人は、どうでもいいことは時間が遅く経つらしいが…それは俺には適応されて無いようだった。
まぁつまりは時間は早く経ち、もう処刑の時間であった。
「最期に言い残すことは、あるか?」
最期、か。
不思議と、走馬灯は無かった。
「……無ぇよ。」
「……そうか。」
死刑が、執行される。
次は、あるのかな?
などと、考えていた時の事だった。
〔……やっと繋がった。〕
そんな声が頭の中に響いた。
「……お前は、誰だ?」
〔クロでいいよ!それよりも、かな。〕
瞬間、泥のような何かで構成された世界に俺はいた。
目の前には、前世の俺と同い年くらいの女がいた。
「契約をしよう。」
「……契約?」
今更なんだというのだ。どうせ残り数秒の命なのに……?
彼女が次に言葉を発する数秒の間に俺は思案する。
コイツの言う契約とは何なのか、と。
しかしだ。彼女の契約内容は俺の想像できないものだった。
「私を、貴方に憑かせてほしいの。」
「……それだけ?」
本当に、何だというのだ。
俺には理解出来なかった。
「でももし、これを受諾してしまったら貴方は大罪人です……それでも、いいのですか?」
あぁ、本当に理解ができない。死に際の男にする話ではない……と、そう考えたが、もう一つの考えが頭をよぎる。
目の前の彼女は、俺を利用する気なのだ。
しかし、だ。それの何が悪いのだろうか。
俺は死ぬだろうが……彼女はどうだろうか。宙に浮いている以上は人ではないのだろう。
ならば……だ。
「契約成立だ。」
手を前に出す。彼女はその手を取り、周りに魔法陣のようなものが浮かび上がる。
「じゃあ……この状況を何とかしてあげる。」
「……貴方、名前は?」
俺はどうせ終わる命だ、と偽ることなく答える。
「紫遠だ。」
「それより、だ。ほら、こんなところで茶番をしている暇はないだろ。さっさと俺を使うなら使え。俺はここで寝てようかな……」
……なんて思っていた。
「貴方も行くんですよ?」
「……何故?」
「私と貴方の契約は貴方に憑くだけです。別に貴方の意識を奪ったりとかはしませんよ?」
「もしかして……期待しちゃいましたか?」
「んなぁっ……!?そ、そんなわけないだろ!というか急に何言って……!?」
「…正直、そんなに反応されるとこっちの反応が困るんだけど。」
いや、これに関しては俺は悪くないよな?
そんな会話をしつつ、俺は肩を回す。
「それじゃ、行きますか。」
「よろしくね、紫遠くん!」
意識を取り戻す。確かに俺の身体にはいつも以上に力が出ている気がする。
だから、俺は影と同化し、その処刑用の道具を一掃する。
「「さぁ、俺の目的を始めようか。」」
結局その場にいた人はほぼ殺した。
警備側はこの一連の事件の犯人を俺に仕立て上げた。
結果、俺は優秀な妹に嫉妬し誘拐した挙句失敗した無能な男という、嫌みが詰め込まれたその二つ名がついた。
時代を現代に戻そう。
目の前には俺に喧嘩を吹っかけてきた少女が倒れている。
勿論、俺がしたものだ。
「ゴホッゴホッ…ど、どうして……!なんで私の攻撃が届かないの……!」
クロの異能は便利だ。移動、攻撃、防御……なんでもできる。攻撃に関しては少し心許無いけど、そこは俺の身体能力と「異能」で対応可能だ。
でも、俺の異能はまだ使わなくてもいいだろう……まだな。
さて、だ。
「……別に、俺がどうこうされるのは気にしないんだよ……でもな?」
「妹に、手は出させねぇよ」
結局、俺という人間はどんな目に遭おうと、妹を嫌いになる事なんて出来なかったのだ。




