詰み
相手の動きが手に取るようにわかるようになったのが大きい……とは思う。
私の目と彼女の正確な指示のお陰で、私達は完全にその場を圧倒していた。
目の前の男は明らかに狼狽した様子で攻撃を捌いている。
「〔取った!〕」
「――ッ!」
男の手にある銃を遠くに飛ばす。そうして私のタガーが男の腹に突き刺さり、男は苦悶の表情を浮かべる。
その瞬間を逃す程、私は弱くは無い。
私はそのまま、男の腹に穴をあけるつもりで力を籠める。
男の体がぐらりと揺らぐ。いける――!
男は逆上し、隠し持っていたのだろう拳銃を取り出し私を撃つ。
しかしその銃弾は当たることはなかった。
〔タイミング、かんぺき~!〕
私の異能と彼の異能である彼女は別物らしく、異能を同時に使えるらしい。
……代理演算を行ってくれるって便利だな……
そんな悠長なことを考えながら、異能を使用する。
「≪外界への乖離≫!」
「ッガァァァァ!」
男は抵抗をするが、私の異能は"当たった瞬間に発動する"。
だから既に刺さっている状態で私の異能を避けるなんて出来る訳もなく、私の異能が発動した。
もろに喰らった男の体がボコボコと音を立て異形に変化し、破裂した。
その戦いの終わりは、案外あっけないものだった。
あれだけの実力者は世界単位で見ても中々居ないだろう。
何せ私が世界の最高峰という扱いを受けていたのだ……そんな私を一方的に攻撃できる程、あの男は強かった。
だからこそ、不思議に思う。
本来この異能は彼のモノ。つまりあの防御力も彼のモノであって。
ということは――
〔うん、じゃあこれで終わりかな?〕
「あっ……」
感じていた全能感が抜けていく。それと同時に、その場にへたり込んでしまう。
考えてみれば当たり前だ。元々無理に動かしていたから、限界が来た。そういうことなのだろう。
しかし、だ。
そこで私は足に力を込めて立ち上がる。
まだ、彼は戦っているだろうから。七伝論として、クラスメイトとしてその加勢に行かなくてはならない。
ようやく自立が可能になり歩き出した、その瞬間の時だった。
グシャ、と。
聞きたくもない、劈くような音が聞こえた。
ゆっくりと振り向くとそこには。
破裂して死んだ筈の……あの男が立っていた。
悪寒。
今私を支配しているのは、圧倒的な恐怖。
そう、支配されてしまったから。
アイツから放たれた弾丸を、避ける事が出来なかった。
「……ッヅぁ……!」
右肩を撃たれた。それを理解した瞬間、信じられない程の激痛が体中を駆け巡った。
ようやく立てたというのに、また倒れてしまった。
まるで、今の私を表してるみたいだ――いや、考えてみれば昔からだったかもしれない。
「ひとりじゃ何も出来ない」
なんだか酷く懐かしい。
それは、誰から言われた言葉だっけ……
そうして、男がゆっくり動き出した。男がポケットから緑色の液体が入っている
小瓶を取り出した。
そうしてその小瓶を頭から被った。
「一体……何を……ッ!?」
「ヴヴァアアアアアア!」
男の気配が変わったと感じた時には、私の体に弾丸が貫いていた。
意識、が……
数分程飛んでいた意識が覚醒する。
グシャ、と。
聞きたくもない、劈くような音が聞こえた。
ゆっくりと振り向くとそこには。
破裂して死んだ筈の……あの男が立っていた。
――なんだ?違和感を感じる。
瞬間、目の前から強烈な気配を感じた。頭が理解する前にタガーで体を守っていたが、奇跡的に銃弾から守ることに成功していた。
しかし威力の関係か、それとも使い過ぎた為かわからないが、その一撃でタガーが壊れてしまった。
目の前の男はゆっくりと懐に緑色の液体が入っている小瓶を取り出し、自らにかけた。
瞬間、男の気配が禍々しいナニカへと変化した。
かつて、ここまで心の底から畏怖を感じたことはあっただろうか?
私がどう攻撃しようか悩んでいると、後ろから声が聞こえる。
「ちょっと!?何がどうなってるのよ!?」
「有空!?」
彼との戦闘以来から見ていなかった。そういえばそのまま放置してしまったことを思い出して、結構な時間一人にさせてしまったことも悟った。
「急に置いてくんじゃないわよ!私だって寂しさくらいは感じるからね!?」
「……ふふっ」
「何笑ってんの!!」
さっきまでの緊迫した雰囲気が緩和した気がした。
思わず笑ってしまったが今は協力を仰いだ方がいいだろう。
「……有空、アレを一緒に、倒そう?とは言え、私はもうボロボロだから……」
「勿論!やってやりましょう!……というか貴女、その状態でも私ぐらいなら倒せそうな気がするけど?」
流石に無理だろう、と私は苦笑いする。異能を扱う体力も後一つ創れるかどうか、そして得物も無くなった。
そんな私に出来る事は貧相な体を必死に動かす事ぐらいしかないから。
男は言葉も発さず、銃口をこちらに向ける。
その銃口から弾丸が放たれる。
――が、その弾丸は明後日の方向へ飛んで行った。
男からは有り余るほどの殺意が溢れ出ている。だからこそ、外すわけが無いのだが……
「今のって……」
「私の異能!対象に幻影を見せるのだけれど、何故かあの人には聞かないんだよねー……」
あの人、と言うのは恐らく紫遠の事だろう。今日の午前にした戦闘訓練の時に傍から見ていたけれど、あの時も異能を使用していたのだろう……
けれど、彼は全く気にせず有空を瞬殺していた。やはり彼は格が違うのだろうか。
――でもこれなら、勝てる。
私と同じく、今のあの男は疲弊している。有空も相当の異能持ちという事を知った今、勝率がグンと上がった気がする。
「じゃあ、私は後方支援をするから、前線は頼んだよ!」
「はい!!」
そうして有空は男に向かって駆け出す。私は息を整え、異能を使用する。
初めて創るモノだけれど、さっきから戦っていた男の銃をイメージすると不思議と出来る気しかしなかった。
体力に限界来てしまい、遂には後ろに倒れてしまった。が、生成する手を止める訳にはいかない。
そうして、私の手には一ペアの弓と矢が出来ていた。銃を生成した筈だが、体力が足りなかったようだ。
たった一つの矢。外すわけにはいかないが、果たして上手くいくだろうか?
いや、考えても仕方ない。やるしかない、か。
私はその弓を構える。立つことが出来ないから、かなり不格好だが飛んで届けばいいだろう。
弓を引く、そして狙いを定める。
戦場をこうして見ると、有空も中々に良い動きをする。
まぁ、撃った後は彼女に全部任せていいだろう。
「これで……詰みだよ。」
そうして、矢が真っ直ぐ飛んでいく。
私はその結果を見届けることなく、何度目かわからない気絶をした。




