悪手
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それでは、本編をお楽しみください。
地下に潜った俺は、所謂潜入のようなものをしていた。
地下に入り込んだ人数は5人……しかし、されど5人というもの。
どんな実力が秘められているのか未だ未知数……そんな状況で姿を曝け出して正面突破するほど、俺はバカじゃない。
元より、俺自身は異能を持ち合わせていない。
ただ、身体能力だけはお墨付きなのだ。異能無しの殴り合いで、俺に並ぶような人間はいないだろう。
限界まで自身から発する音を消す。
活発化していない心臓の音さえも煩わしい程に、俺は音を出していなかった。
そうして、黒いローブの集団は俺に気付かず進み続ける。
すると男達は謎の大きな扉の前で何かを話し、手印を結んだ。
瞬間、扉が反応し開く。その扉は何年も使っていなかったようで錆のせいでギギギと鳴らしながら開いた。
「……おお……!」
そんな感嘆が聞こえる。
俺も隙間からその様子を確認する。
……目を、見開いた。
驚きすぎて声が出ない……というのはこういうことなんだろう。
先程までの廊下はこの近代的な世界らしいものだったが、ここは古代文明の残骸、遺跡と言える場所だった。
そこには洞窟壁画のようなものが描かれていた。
『――よ――……』
『――……――!』
何かしらの詠唱をしているようだった。すると、壁画が動き出す。
瞬間、悪寒が走る。
――あれだけはさせちゃいけない。
そう理解した俺は四肢に力を入れ、飛び出した。
「――!?侵入者だと!?」
「遅いッ!!」
目の前の集団は、俺に光を向けた。
しかし数手遅れたアイツらが、俺に追いつけるわけもなく。
俺の拳は一人の頬を捉えた。
まずは一人。このペースで倒せばなんとかなる、か?
また、敵の数が増えた。思っていたよりもピンチかもしれない。
だが、それでも俺程の実力者はいないだろう……
「……かかって来いよ。」
奴らは、その煽りに乗った。
「殺せ!生贄が増えても構わん!」
司令塔のような人間が全体指揮をする。
俺は迷わずソイツの足元に踏み込み思い切り殴る。
しかし、謎のバリアのようなもので防がれる。その感触は『影呪』に近いモノを感じた。
止められたことへの驚きが俺を支配したその隙間を見逃す程、弱くは無いらしい。
一人が詠唱し、ビームのようなモノが接近する。
間一髪で体の主導権を取り戻し、回避する。しかし、完全に回避できず腕に軽く当たってしまった。
それから俺は凄まじい人数を同時に相手した。
瞬間移動系、光弾発射系、身体強化系……様々な種類の能力者が居たが、気にせず一人一人と倒していく。
しかし、俺だってチートと言うわけじゃない。ただ強いだけの人間には限界がある。
俺は連戦に次ぐ連戦で軽傷が多くついていた。
体力だって限界に近い。そろそろ決着をつけなくてはならないな……そう思った俺だったが。
「……ゴハッ……」
軽くせき込む。そこには血があり、血を吐いたことを察する。
まだ、数十人残っているのに体はもう限界に近い。
少し、鍛えておけば良かったな……と後悔するが時間とアイツらは待ってくれなかった。
突如空中に出現した複数の鎖が俺目掛けて飛来する。
それは、あの司令塔から出てきていた。
二、三本は弾けたが、疲弊していた俺には回避できない弾幕だった。
敢え無く捕まった俺に追従して何本も巻き付き、拘束される。
「……ッチ……」
「フフフ……我等の邪魔をするなんてなんと愚かなことを……」
そこまで言った男は踵を返し最初の詠唱文を途中から読み始める。
完全に拘束されている俺は、その行為を見ることしか出来なかった。
その壁画が光り出す。その光はどんどん光量を増していく。
その光はやがて天に届いた。
そうして、その光の中から一人の少女が召喚される。
――凄まじい悪寒が背筋を伝う。
アレは、俺が何とか出来るものじゃない。次元が違う。
見れば、俺を捕らえている鎖を持っていた男を含む、周りの生き残っていた奴が声にならない声を上げながら倒れていった。
俺はなんとか耐えていた。が今も耐え難い電流のような圧が周囲を支配している。
……正直、立っていること自体が奇跡と言えるレベルの重圧。
少女がゆっくりと目を開ける。
そうして少女は手を前に突き出す。その掌に光が集っていく。
まさか……!?ここ一帯を破壊するつもりか!?
そうして、少女は呟く。
『……protocol” Ἁρμαγεδών”』
瞬間、凄まじい轟音が鳴る。音は空間を歪ませ、地面を揺らす。
無意識のうちに、俺はその少女の元に駆け出していた。
少女へと手を伸ばす。何故だか助けなければと思ってしまった。
俺の手が、少女の手を掴んだ。
力の大本さえ抑え込めれば、何とかなるかもしれない……!
そう思ったが、悪手だったようだ。
「痛ッ!?……ぐっあぁ゛ぁ゛!」
その光が持つ破壊力そのものが俺の体に流れ込んでいく。
信じられない激痛だが、それでも俺が折れる訳にはいかない。
何故だ?なんで俺はここまでこの少女に固執しているんだ?
頭の九割が痛みにリソースを割いている中、わずかな理性がそれを思案する。
『またね……紫遠。』
『貴方がどれだけ忘れられようと、僕だけは――』
「――ッ!?」
今、何かの映像が頭の中に流れてきた。
あの映像の正体は、なんだ?
少なくともわかることは、今の現象は少女によるものだけだということだった。
物語は動き出す。




