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桃果の残火  作者: 佐武ろく
壱章 鬼退治の同窓会
7/13

3

「久しぶりだな桃太郎」


 二人が部屋へ入ると、まずゆったりとしつつもどこか荒々しい口調が出迎えた。

 そこには部屋中央で座布団に座る人猿族が一人。白髪と顔に刻まれた皺、尻尾までも白毛で覆われており、傍には杖が置いてある。


「随分と老いたもんだな真獅羅」

「お前さんとてそうだろ。相変わらずと言うか、むしろ昔より体はデカい気もするが」


 久しぶりの再会に笑みを浮かべ合う二人。

 そんな中、真獅羅は入口で立つ有真へと視線を向けた。


「王国軍にでも入ったのか? 意外だな」

「いや。そんなものに興味は無い。ただ今はやる事があってな」

「お互い死ぬ前にって訳でもなさそうだしな。何だ?」

「こいつだ」


 そう言って桃太郎は内ポケットから写真を一枚取り出しては真獅羅へ。

 写真を受け取ると視線を落とした真獅羅だったが、すぐさま目を見開いた。


「まさか……」

「あぁ。王鬼が復活したらしい」

「復活? 確かに殺したはずだろ?」

「確かに首は刎ねたが、灰にはしてない」

「なんてこった……」


 顔を片手で覆い首を左右に振る真獅羅。もし現状を知らずともこの場面を見れば何か良からぬ事が起きていると十分に理解出来る。


「――お前さん正気か?」


 すると顔を上げた真獅羅は全てを理解したと言うようにそう問いかけた。


「そう急がなてももうすぐ死ぬ。俺もお前さんも」

「だがアイツは儂らより長生きするぞ」

「そもそも一体何が出来る? 歩くのすらコイツ頼りだ」


 そう言って真獅羅は杖を手に取り振る様に見せた。


「戦うなんて昔の事だ。王鬼なんざ猶更な」

「なら昔を取り戻せばいい」


 桃太郎は吉備団子の袋を取り出すと真獅羅へと投げた。

 初めは何を言っているのか分かっていないと言った様子の真獅羅だったが、袋を受け取り中を覗くと零す様に笑った。


「まだ残ってたのか」

「こいつが最後だ」

「ったく……。残りは優雅に暮らす予定だったって言うのに」

「似合わない事はするもんじゃない」


 真獅羅は吉備団子を一つ手に取ると顔の前で少し眺め始めた。


「確かに俺の伝説に傷が付くのは見過ごせんな」

「詰まらせて死ぬなよ」


 一笑に付すると真獅羅は少し大きめのその団子を口へ放り込んだ。栗鼠の様に団子を頬張りながら食べ辛そうに口を動かす。もぐもぐと真獅羅が食べるのを待つ間の謎の沈黙が始まった。


「うっ!」


 すると突然、真獅羅は苦しそうに胸を押さえ出した。そして悶え苦しみながらその場に蹲る。


「だ、大丈夫なんですか!?」


 苦しむ真獅羅に有真は慌てた様子。

 そんな有真を他所に依然と唸るような声を上げる真獅羅だったが――その体には異変が起こり始めた。全身が光に包み込まれ、と言うより体自体が光を放っていると言った方がいいのかもしれない。

 しかしその光は直ぐに真獅羅の体へと吸収された。同時に先程まで白かった毛はここまで案内した青年のように若々しい茶褐色へと変わっていた。

 そしてすっかり落ち着いた真獅羅がゆっくりと立ち上がる。


「ふぅー」


 息を吐きながら毛を掻き上げ立ち上がった真獅羅は先程までとは打って変わり別人のように若々しい。腰も曲がっていないお陰で背も伸びたように感じた。桃太郎より少し低いぐらいだ。


「何で俺はこんなに合わねーんだ?」

「繊細だからだろ」

「うっせー」


 呆れ顔でそう言うと真獅羅は杖を拾いドアの方へ。


「準備をしてくる。下で待ってろ」


 そう言い残し外へ出て行った真獅羅より少し遅れ二人も外へ。村全体が騒然としている中、下へ向かうと先に車へ乗り込み彼を待った。時間は然程掛からず村人に見送られながら降りて来た真獅羅は助手席へと乗り込む。


「それで? 次はどーすんだ?」

奇妓栖きぎすのとこへ行く」

「あいつかぁー。別の奴ってのは?」

「どこにいるか知ってるか?」


 真獅羅の言葉を無視し桃太郎はそう尋ねた。受け取られるとは本人も思ってなかったのか、真獅羅は自分の言葉を無かったかのように会話を進めた。


「さぁな。あんな奴の居場所なんざ興味ないね」

「それじゃあ遠回りするしかないな。とりあえず王国に戻ろう」

「分かりました」


 そして有真は車を発進させるとゴーラン王国へ戻る為、村を出た。


「プルウィア」

「何か言ったか?」


 すると村を出た所で助手席からボソッと声が聞こえた。


「プルウィアだ。そこにいる」

「知ってるなら先に言ってくれ」

「うっせぇ」

「それならプルウィアだ」

「はい」


 それから車はゴーラン王国からプルウィアへと目的地を変更し、真っすぐ走り出した。

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