キルログ閲覧スキルで魔王は倒せるのか?
酒場ヨクノメーヨのとあるテーブルで俺は面接官と対峙している。
俺は勇者に憧れ、勇者パーティーに入るために採用面接を受けているのだ。
面接官は俺の履歴書を眺めながら言う。
「それでアナタは何ができるのですか? アタッカー、タンク、ヒーラー。 どのタイプです?」
来た‼ パーティー採用面接でよくある質問‼
俺は意気揚々と答える。
「はい‼ ワタシのスキルはキルログを閲覧することです‼」
「・・・・・・はい?」
「ですから‼ ワタシのスキルはキルログを見られる能力です‼」
「つまり・・・ヒーラー? いや、ヒールできないか・・・じゃあ、援護系? 何をどう援護するんだ?」と悩まし気に独り言を呟くと面接官は質問を続けた。
「・・・・・・あの失礼ですが戦闘経験は?」
「ありません‼」
「・・・・・・あの俺らのパーティーは冒険者の中でも魔王を討伐することを目的としたパーティー『勇者パーティー』なんですけど、承知の上で面接を受けてます?」
「はい‼ もちろんです‼」
「はっきり言いますと、勇者パーティーは魔物や魔人、魔法使いと戦闘を行うのが活動のメインです。戦闘スキルやそれらを援護するスキルじゃないと厳しいですよ」
「できます‼ 援護‼」
「というと?」
「パーティー内の問題を、キルログを見ることで解決して見せます‼ 例えば、魔物討伐の手柄をはっきりさせることが出来ます。なので報酬の奪い合いを回避できます‼」
「なるほど。確かに使いようはあるスキルだということはわかりました」
「では‼」
「・・・・・・不採用ということで」
「そんなぁ‼ なぜですか‼」
「自分で気づいていないようなので言いますけど・・・勇者にねぇ・・・向いてないですよね・・・そのスキル・・・」
「うっ・・・」
「俺らが望んでいるのは単純な戦闘力なので、あなたのような変わり種は勇者パーティーには必要ないですね」
「そんな‼ ワタシ‼ 潤滑油になれますよ‼」
「なら、都市の治安を守る騎士団や裁判官、探偵を目指した方がいい。
それが嫌なら冒険者になら誰でもなれるのだから冒険者同士の仲裁役でもやればいい。
仲間内で手柄の奪い合いをしているパーティーの仲裁を行う専門の冒険者とか・・・いいんじゃないかい?
それに僕のパーティーそんなギスギスしていないし。みんな仲が良いんだ」
うっ‼ 急な正論とため口‼
「いや、でも勇者パーティーで活躍したいというかぁ・・・・・・」
「君は僕達が命を賭けて戦っている時に後ろでキルログをボーッと眺めているのかい?」
「・・・・・・・」
「黙ってちゃわかんないよね?」
俺が面接官から詰問されていると入り口からに三人の冒険者が入って来た。
三人はこちらへ来て面接官に話しかける。
「面接終わったぁ?」
面接官は三人に手で応えると俺に向きなおり
「んじゃ、そういうことで」と言って立ち上がって仲間と共に酒場の出口へと向かった。
俺は勇者パーティー採用試験、三十度目の敗北をして暫く打ちひしがれながら酒を飲んだ。
なんで俺が魔王を倒す勇者パーティーに入りたいか、一から考えることにした。
しかし、考える必要もなかった。なぜなら答えは一つしかないからだ。
そりゃあもう勇者がカッコいいからだ!
魔王討伐を目指して戦う勇者に都市の人々は憧れの眼差しを向ける。
そんなもん見せられたら憧れちまうだろうが‼
俺がどんなスキルだろうが勇者になってチヤホヤされたい‼
どうにかして勇者になれないだろうか?
今のままでは仲間を作れない。
俺の仲間になりたいと思わせる魅力が必要だ。
そのためには実績が欲しい!
俺のスキルでできること・・・・・・。
俺は面接官の言葉を思い出す。
『冒険者になら誰でもなれるのだから』
俺は閃いた‼
よし‼ 決めた‼ 最後に足掻いてやる‼
最後の足搔きとして冒険者を名乗ってやる。
だが、あの勇者の言う通り現状では俺の戦闘力は低い。
だから俺のスキルで出来ることをやる‼
相談乗る系冒険者としてレベルアップを図るのだ‼
◇◇◇
相談乗る系冒険者とはつまるところ、場所を借りて出店を出して都市の人達の相談に乗る仕事だ。
『なんでも相談所』と書かれた旗が風に揺られている。
俺は椅子に座ってお客が来るのを待った。
暫くの間はただ、時と人が目の前を流れていくのを眺めるだけだった。
相談所の前を通る人達は俺の事を怪しい目で見るばかりで近寄っては来なかった。
冒険者も楽じゃないねぇ・・・。
俺はうなだれた。
すると中年女性がチラチラとこちらを見ていることに気がついた。
なんだ? 俺に気でもあるのか?
俺も気になって女性をチラチラ見ているとその中年女性と目が合った。
あっ! やべ! 目、合っちゃった!
俺はすぐに目を逸らしたが逆に中年女性は俺をロックオンしたようで目を大きく開き、鼻息荒く、俺のところまでドシドシと近寄って来た。
中年女性は俺の目の前まで来ると口を開いた。
「ちょっといい?」
「・・・はい・・・なんなりと」
「話聞くだけ? 探偵みたいなことしてるの?」
俺は一晩考えたキャッチフレーズを反射的に言う。
「お安く! 最後まで!」
「ならいいわ。お金もないしね」
・・・お客さん?
もしかしてこの人お客さん⁉
俺は言う。
「ご用件は?」
「夫の浮気調査をして欲しいのよ」
「浮気調査ですか。詳しくお話を伺ってもよろしいですか」
「うちね。八百屋やっているから朝早いのよ。
まだ都市の人が寝ている時間から家を出て仕入れに行くの。
仕入れは夫が担当しているからいつも暗いうちから出て行くんだけど最近いくらなんでも早すぎるのよ」
「何時ごろ出かけるんですか?」
「深夜の二時。夫は早い方がいいのが手に入るって言うんだけど、そんな時間に行ったって市場なんか開いてないのよ」
「なるほど」
「怪しくない? 絶対浮気しているわよ。あの野郎‼」
「ちなみにお名前を伺ってもよろしいですか?」
「私はローザ・アンカーよ。夫はカール」
「わかりました。浮気調査引き受けます」
「ホント! いくらかしら。成功報酬?」
「いえ。本日に限りお題は結構です。そのかわり・・・俺、相談所最近始めたばかりなもんで、できればこの依頼を成功させたらご友人とかに宣伝してくれませんか?」
「ええ、それぐらい、いいわよ」
よし‼ 婦人網ゲット‼
「ありがとうございます。でしたらこちらを」
俺は小袋を渡した。
ローザは不思議そうな顔で小袋を眺める。
「これはなに?」
「カールさんの行動を掴むための道具です。それをカールさんが深夜に出かける前にカールさんのズボンの後ろのポケットに入れておいてください」
「なんだかわからないけどわかったわ」
「それじゃあ、お願いします。また明日来てください」
ローザは去って行った。
その日のお客はそのローザ一人だけだった。
もっと声かけとかしないとな・・・。
◇◇◇
夕方、俺は家に帰って調査の準備を始めた。
キルログを見るスキルは、決まった範囲内であればどんなキル情報も見ることが出来る。
キルが行われればすぐにログに追加されていく。
だが、魔王によって魔物が蔓延りそれを冒険者が討伐し、更に魔王軍の暗躍により、殺人事件も度々起こるこの世界でログが追加されていくスピードを目で追っていくのは大変だ。
だからキルログには検索機能が付いていてキルされた側やキルした側も両方名前を入力すれば見たいキル情報だけを閲覧できる。
俺は『カール・アンカー』で検索する。
カールのキル情報なし。俺はカールの情報が素早く入るようにカールの名前で通知設定しておく。
こうすればカールがキルした時にカールのキル情報のみ知らせが来るのだ。
俺は深夜まで待つことにした。
そしてウトウトしているとその時は来る。
ピピピピピピピピピッ‼ キル感知‼ キル感知‼
俺は飛び起きて急いでキルログを閲覧する。
【カール・アンカー:二時三十分 アーマイズ虫を殺害 [詳細を見る]】
◇◇◇
俺は翌日同じ場所に相談所を開き、ローザを待った。
昼になってローザが走って来るのが見えた。
「どう? なにかわかった?」
「ええ。大体のことは」
「じゃあ、早く教えて!」
「旦那さんは、サキュバス娼館の二階204号室でイン・ランという娼婦と会っていることがわかりました」
「なんですって‼ あの野郎‼ やっぱ浮気してたのねぇ‼」
「行為に及んだかまでは知ることはできませんでしたが・・・」
「問題ないわ‼ あの野郎が娼館に行って何もしないで帰って来るはずないもの‼」
ローザの鬼気迫る表情に俺はちびりそうになった。
ローザはコインを弾いて俺に渡すと「ありがとね! これお礼よ! もちろんここの宣伝もしておくよ!」
「いいんですか! ありがとうございます!」
ローザは走って帰って行った。
キルログの能力を使えば、殺害関連であれば事の詳細を知ることは簡単だ。
だが、今回のように非殺害の案件の場合は難しい。
あくまでキルログ。キルしなければ行動を追えない。
そのため、ターゲットに殺害してもらう必要がある。
俺はアーマイズ虫という小さな虫を入れた小袋を渡して旦那に出先で殺させることで場所と殺害時の状況をキルログに表示させた。
キルログにはこう書かれていた。
【カール・アンカー:二時三十分:サキュバス娼館二階204号室:娼婦イン・ランと共にアーマイズ虫の体を圧迫して殺害】
娼婦の名前がわかった理由は、おそらくイン・ランが旦那をベッドに押し倒したことによって旦那のケツポケットに入っていたアーマイズ虫が踏みつぶされたことでキルログは共犯と判定したからだろう。
旦那が自分から座って踏み潰していたなら娼婦の名前までは割り出せなかった。
イン・ランさんがサービスのいい娼婦で助かった。
運よくローザがカールを追い詰めるための証拠が多く手に入ったのだ。
俺はふうと一息つく。
初めての依頼を成功させた。
その安堵感からくる脱力とそしてこの先への不安。
俺の目標は小さな事件を解決することじゃない。
そしてまた俺は溜息をつく。
塵も積もれば山となるというが、果たして俺はこのスキルで魔王を倒せるのか・・・?