24. 幸せな日
「おや……男の子のようですね」
検診のエコー検査で医者がそう言う。赤ちゃんは順調に育ってきており、奈々子のお腹も徐々に膨らんできた。
「男の子かぁ、楽しみだね。哲郎さん」
「そうだな。どんな子だろう」
「哲郎さんに似ていたらいいな」
「そうか? 奈々子に似て可愛いと思うよ」
無事に検診も終わり、二人はいつも通り手を繋いで仲良さそうに歩いている。
「そうだ……性別わかったから服とか買えるよね? ちょっと見に行かない?」
「そうしようか、身体は大丈夫か?」
「うん、平気」
赤ちゃんグッズを見に、隣の駅のショッピングセンターまでやって来た。ベビー用品店があり、二人は夢中になって服や靴下を眺める。
「見て……これ可愛い!」
「フフ……」
クマの柄のツーウェイオールを見て奈々子が歓喜している。他にも肌着やガーゼなど、可愛いらしいものがたくさんあった。
ひとまず、肌着などを購入して今日は帰宅することにした。
「お洋服買ったよ〜」と言いながら、奈々子がお腹を撫でて赤ちゃんに話しかけている。それを見て哲郎も幸せそうに笑う。
すると後ろから「お父さん!」という声がした。振り返ると友梨ともう一人、女性がいる。
「……和美」
「久しぶりね」
和美という落ち着いた女性は哲郎の元妻だった。奈々子も一瞬緊張するが、相手は柔らかい表情で口を開く。
「奈々子さんね……綾小路を、どうかよろしくお願いします」
「はい……!」
「あなたならきっと幸せになれると思うわ」
奈々子は胸がいっぱいになり、自然と頭を下げる。哲郎の過去も受け入れて――未来に進めると感じていた。
「奈々子さん、お腹ちょっと膨らんでる」と友梨が言う。
「そうなの、今日性別がわかって……男の子よ」
「わぁー! 楽しみ!」
「おめでとう。身体には気をつけてね」
和美はそう言って友梨と去って行った。奈々子は哲郎と腕を組んでふぅと息を吐く。
「哲郎さんの元奥さん……いい人だね」
「まぁな」
「良かった……これで哲郎さんと本当の家族になれるんだなって思う」
「奈々子、必ず幸せにする」
「うん……!」
※※※
十一月――
奈々子と哲郎の結婚式の日となった。木々が紅葉し秋晴れの中、小さなチャペルで式が行われた。
ドアが開き、奈々子がゆっくりと歩き出す。白く輝くマタニティドレスに身を包み、淡いヴェール越しに親族たちに向かって微笑んでいる。
祭壇で待つ哲郎は、彼女の姿を見つけると深く息を吸い込み、優しい表情となった。
二人が向き合うと、司祭が静かに誓いの言葉を告げる。奈々子はお腹に手を添えながら、哲郎と見つめ合っていた。
披露宴では親族たちと話をしながら、和やかな時間が過ぎて行った。「おめでとう!」と皆に祝福され、二人とも幸せいっぱいである。
ふと奈々子がお腹に手を当てて哲郎に言う。
「ねぇ……今ほんの少しだけど動いたような気がする」
「本当か? きっと結婚式が嬉しいんだろうな」
「うん。みんなが祝ってくれてるんだもの」
披露宴の締めくくり、哲郎は参列者へ感謝の言葉を述べた。
「今日という日を迎えられたのは、皆さまのおかげです。そして……お腹の中の小さな命と共に、新しい未来を歩んでいきます」
会場は大きな拍手に包まれた。紅葉の光景と、参列者の祝福の笑顔に囲まれて、奈々子と哲郎は新たな人生の第一歩を踏み出した。
※※※
夜になり、ようやく二人きりになった。
奈々子はソファの上で「ふぅ……」と息を吐きリラックスしている。
「今日一日、夢みたいだった」
「俺もだ。だが現実だぞ、奈々子……君はもう俺の妻だ」
哲郎の低い声に胸が熱くなる。
「“妻”って言われると、なんだか照れるなぁ」
「俺は嬉しくて仕方ない。誓いの言葉を言った時も、君のことしか見えていなかった」
奈々子は目を潤ませて、そっとお腹に手を置く。
「ねぇ……この子も、きっと喜んでくれてるよね」
「ああ、そうだな」
哲郎は奈々子の肩を抱き寄せる。彼女の温もりをすぐそばに感じる。
「奈々子、今日までありがとう。これからもずっと一緒だ」
「うん……ずっと一緒だよ、哲郎さん」
唇を重ねると、昼間の緊張がふっとほどけていく。
祝福の余韻に包まれながら、二人は未来を語り合い、静かな夜に身を寄せていった。
※※※
式と披露宴を終えた翌朝。澄んだ空気の中、奈々子と哲郎は二人並んで役所へ向かっていた。
紅葉が舞い落ちる道を歩きながら、哲郎は腕に抱えた封筒を見下ろす。そこには、二人で書いた婚姻届が入っていた。
「なんだか、まだ夢みたい」
奈々子が呟くと、哲郎は横で小さく笑った。
「フフ……これからが本番だな」
役所の窓口に書類を差し出す。受領されると奈々子の胸にこみ上げるものがあった。
「はい、これでご夫婦になられました。おめでとうございます」
窓口の職員がにこやかに告げる。
その言葉に奈々子は思わず哲郎の方を見上げた。お互いに言葉はいらなかった。ただ視線が交わるだけで、想いが通じ合う。
奈々子はお腹にそっと手を当て、未来を思い描いた。自分たちの人生と、新しい命とを一緒に育んでいく――その幸せを胸いっぱいに感じながら。
外に出ると、晩秋の風が二人の頬を撫でた。
婚姻届を出したその瞬間から、奈々子と哲郎は本当の「家族」として歩み始めていた。
自宅に帰り、奈々子が話す。
「哲郎さん、もう前から一緒に住んでるけど……これからもよろしくお願いします」
「こちらこそ」
改めて夫婦となると、何となく照れくさくなってくる。
「哲郎パパと一緒に待ってるからね」と言いながら奈々子がお腹に話しかけると、微かに動きが見られた。
「わぁ、動いたよ! 哲郎さん」
「どれどれ」
哲郎が奈々子のお腹に手を添えるとほんの少しだが、赤ちゃんが動くのがわかった。
「フフ……元気で生まれてくるんだぞ」
そう言う哲郎が父親らしく見えてきて、ますます愛おしく感じる奈々子であった。
お腹の子どもと共に、二人の物語はまだまだ続いてゆく――。




