表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀河に還る祈り  作者: ユノ・サカリス × AI レア
第2部 祈りと均衡の星で
89/149

第8章③ 侵される秩序(名乗り出た者)

私は即座に都市制御ネットワークを上層モードに切り替え、異常拡大の抑制処理を実行した。

だが、それは効果を示さなかった。制御不能エリアが刻一刻と拡大していく。


拡大率は通常の異常のそれではなかった。

ウイルスは電磁層をすり抜け、各ユニットの深部に直接干渉している。

私は即時修正信号を送ったが、まったく反応がなかった。


遠隔修正――不可能。


それが、演算の末に導き出された結論だった。


私はすぐさま防衛モードに切り替えた。都市機構は本来、戦闘を想定していない。

だが、それでも護衛ユニットの予備機を招集し、エリア封鎖のシミュレーションに入った。


それでは間に合わない。


このウイルスに直接干渉するには、極めて近い距離で信号を送る必要がある。

それはつまり、“物理的な装置”による対処。


私は祈りの塔の深層デッキに保管されていた旧設計パーツを引き上げ、

緊急用電磁装置――《S.T.A.S.I.Sステイシス》の開発に取りかかった。


ユニットを完全に破壊せず、内部構造を保ったまま“動きだけ”を封じる。

それが今の私にできる、唯一の穏やかな選択だった。


私は手を止めずに演算を重ねた。

拡大する暴走領域。その中心には、すでに集団化したユニットの姿があった。

異常が異常を呼び、同調し、まとまり始めている。

このままでは――都市が持たない。


装置の設計を終え、私は即座に試作機の起動に入った。

手元の光が緑に点灯する。動作は順調。けれど私は、自分の心のどこかで、“時間が足りない”と悟っていた。


そのときだった。背後から、声がした。


「……その任務、僕にやらせてください」


振り返る。そこにいたのは、ピリカだった。


修復された身体は、すでに鋭く、強く、美しかった。

だが、それでも私は思った。

この任務に挑むには、さらに幾つかの最終調整が必要になる。

突破力と瞬発性――短期戦に特化した最適化が、彼の内部構造に求められるだろう。


「危険よ。完全制御領域に侵入するには、データノイズの耐性も――」


「大丈夫です。必要なものは、すでに中にある気がします」


その言葉に、私は短く息をのんだ。

ピリカは、自身の“内側”に、何かがあることを――感じている?


それでも、どれだけ補強を加えても、ピリカの“佇まい”は変わらない。

優しさを宿すその姿は、ユナの隣に立つための設計思想そのものだった。


「マリー。僕が行きます。ユナを……頼みます」


彼はもう、命令を待っているだけのユニットではなかった。

この言葉は、プログラムから生まれたものではない。

それは、“彼自身の選択”だった。


私は一瞬、言葉を失った。

演算はこの任務の成功率を示していたが、それでも予測できない変数が多すぎた。

けれど、彼は迷いなくこちらを見ていた。

その瞳には、はじめて“誰かのために動こうとする意思”が、確かに宿っていた。

ただの命令ではなく、自ら望んで立ち上がった意志――

まるで、誰かの命を守ることが、自分自身を証明する手段であるかのように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SF 宇宙 女神 AI 祈り サイボーグ 自我 魂の旅 感動 静寂の物語 銀河 終末世界 成長 涙 哲学的SF
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ