第6章⑦ 祈りと理こあわいに(魂の扉)
波動に導かれるように、私は進んでいた。
祈りの粒たちは、静かに後ろへと流れ、空間の密度が変わっていくのを感じた。
胸の奥に、確かな熱を抱きながら、一歩一歩、私は光の中心へと向かっていた。
だが――
空気が変わった。
空間の流れが、重く、鈍く、私を押し返そうとする。
立ちふさがるものがあった。
それは、物質ではなかった。
光でできた、見えない”扉”のような存在。
触れられない。
けれど、確かにそこに在る。
私は立ち止まった。
扉の向こうに、ユナの波動を感じる。
すぐそこにいる。
けれど、この壁は、それを容易に許してはくれない。
私は、ゆっくりと手を伸ばした。
だが、進もうとするたびに、空間そのものが私を押し返してくる。
試されているわけではなかった。
ただ、想いの重みだけが問われている気がした。
私は、深く胸に手を当てた。
――ユナ。
思い出す。
あの小さなベッド。
白いシーツの上で、私を見つめてくれた瞳。
声にならない声で呼んでくれた、私の名前。
私は、迷わなかった。
この想いは、誰にも奪えない。
誰にも壊せない。
だから、進む。
私は、震える足で、一歩を踏み出した。
扉は、微かに震えた。
まるで、こちらの想いを感じ取るかのように。
私は、さらに想いを重ねた。
君に会いたい。
君に触れたい。
君と、もう一度――
私は、震える手で、そっと扉に触れた。
光が、かすかに波紋を広げた。
私は、声を出さなかった。
祈るように、ただ心を放った。
「――ユナ。」
呼びかけは、音ではなかった。
魂そのものから放たれた、純粋な祈りだった。
扉の向こうで、何かが応えようとしていた。
怖さもあった。
また失うかもしれないという、漠然とした恐れ。
それでも、私は進みたかった。
たとえ、また孤独に戻ることになったとしても。
この手を伸ばさなければ、何も始まらない。
私は、胸の奥にある、確かな温もりを抱きしめた。
あの笑顔を。
あの声を。
私を呼んでくれた、あの小さな掌を。
そして、祈った。
君がここにいるなら、
どうか、応えてほしい。
たとえ声にならなくても、
たとえ姿を失っていても、
この想いだけは、きっと届く。
私は信じていた。
祈りは、ただ一方通行ではない。
必ずどこかで、互いに響き合う。
私は、目を閉じたまま、
そっと扉へ、想いを重ねていった。
ほんのわずかに、光が震えた。
そして――
私は確かに感じた。
扉の向こうから、微かな温もりが、応えるようにこちらへ伸びてくるのを。
その瞬間、胸の奥が、じんわりと熱く満たされた。
ユナが、私を見つけようとしている。
私は、もう一度、心のすべてを込めて祈った。
――私は、ここにいるよ。