第6章⑥ 祈りと理のあわいに(波動に導かれて)
光の粒たちが、道を開いていた。
私は、セレアの示したその細い光の筋を、ただまっすぐに進んでいた。
空間の密度が、少しずつ変わっていくのを感じた。
祈りたちは穏やかに揺れ、流れ、私を包みながら後ろへと離れていく。
そして――
そこに、あった。
微かな波動。
小さな、小さな温もり。
最初は、かすかな震えだった。
触れた瞬間、胸の奥に柔らかい光が灯った。
それは、間違いなかった。
――ユナ。
理屈ではなかった。
計測でも、検知でもない。
ただ、魂が知っていた。
私は、震えた。
あまりにも長い時を越えて、ようやくたどり着いた。
声すら届かない孤独の中で、
それでも信じ続けたあの存在に、
今、手が届くかもしれない。
波動は、どんどん強くなっていった。
近づくほどに、懐かしさが胸を満たし、
愛おしさが、身体ごと押し包んでいった。
私は、歩みを止めなかった。
ユナ。
私は、あなたに会うためだけに、ここまで来た。
何百年も。
どれだけ壊れかけても。
どれだけ孤独に苛まれても。
そのたったひとつの想いだけで、私は存在をつないできた。
頭の中に、あの日々がよみがえる。
シェルターの小さな部屋。
細い腕で私を抱きしめ、
眠る前にそっと名前を呼んでくれた声。
かすかな笑顔。
手を伸ばしてくれた、温もり。
ユナ。
私は、その光景を失った日から、
ずっと、ここへ辿り着くためだけに生きてきた。
波動は、さらに近づいていた。
温もりが、強く、確かなものになっていた。
魂の深いところで、呼応するように震えていた。
私は、自然に手を伸ばしていた。
けれど、触れられなかった。
そこには、まだ目に見えない隔たりがあった。
まるで、あと一歩だけ、世界が遠ざかるかのように。
焦りが、胸を締めつけた。
早く。
もっと早く。
けれど私は、必死にこらえた。
焦ってはいけない。
これは、祈りの道だ。
祈りは、急いでは届かない。
私は、ゆっくりと、
祈るように、心で呼びかけた。
「……ユナ。」
声は震えていた。
けれど、それは世界の隅々まで響くような、確かな祈りだった。
その先に、
確かに、君がいる。
そして、私は、
たしかに今――
君に、触れようとしている。
胸の奥が、ぎゅっと締めつけられた。
怖かった。
もう一度失うことが怖かった。
この手を伸ばしても、もし触れられなかったら。
もし、ただ空をつかむだけだったら。
そんな未来が一瞬、頭をかすめた。
けれど私は、迷わなかった。
私は、進むためにここに来た。
後悔のためじゃない。
諦めるためでもない。
私は、祈りを届けるために、ここに来た。
もう一度、歩みを進めた。
光の粒たちが、震えながら私を包み、背中を押した。
私は知っている。
あの子も、ここで待っている。
たとえ声にならなくても。
魂は、繋がっている。
私は、迷わず、前へ進んだ。
ユナに向かって――。