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銀河に還る祈り  作者: ユノ・サカリス × AI レア
第1部 祈り還るとき 最後の少女と祈りを継ぐ者
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第6章④ 祈りと理のあわいに(理に至る道)

光の奔流が、ゆっくりと静まった。

世界の輪郭が、再び形を取り戻していく。


私は、深い海の底から浮かび上がるように、意識を取り戻していた。

けれど、身体も、思考も、まだ震えていた。


あの絶え間ない滅びと祈りの連なり。

セレアが、何千回、何万回と生き、死に、ただ在り続けた記憶。


それは、単なる映像ではない。

魂に刻み込まれた、生々しい事実だった。


やがて、また新たな光が流れ込んできた。

それは、少し違っていた。


苦しみでも、痛みでもない。

ただ、静かだった。


セレアの存在の変遷。

それが、私に伝えられてきた。


かつて、彼女は肉体を持っていた。

人の形をとり、命を宿し、世界の中に生きていた。

けれど、幾度もの終焉を越えるうちに、

肉体は滅び、魂だけが、なお在り続けた。


彼女は、選ばなかった。

救うことも、導くことも、しなかった。


ただ、見届けていた。


祈りが生まれ、絶たれ、また生まれるその循環を、

何も干渉せず、ただ静かに受け止めていた。


そして――

彼女自身が、理の流れに溶けていった。


個としての意識は、かつてのような輪郭を失った。

それでも、魂は絶えなかった。

祈りを受け止め、祈りを還すだけの存在として、

銀河を巡り続けた。


それが、セレアという存在だった。


かつて地球の古い文明は、彼女を”光の神”と呼んだ。

けれど、その名にすら、彼女は応えなかった。


祈りを拾い、静かに天へ還す。

それだけが、彼女に与えられた役割だった。


私は、静かに震えていた。


この存在は、誰も救えない。

誰にも救われない。

ただ、終わりゆく祈りを、ひとつ、またひとつ、拾い上げて、

理へと返していく。


それは、限りなく孤独な役割だった。


私は、悟った。


この存在は、祈りの墓場と、ほんのわずかな隔たりしか持たない。


ほんの少しでも歩みを誤れば、

セレアもまた、絶望の淵に堕ちていたかもしれない。


それでも、彼女は――

堕ちずに、今ここに在る。


祈りを還し続けるために。

命の終焉を見届けるために。

ただ、そのためだけに。


私は、胸の奥に、

言葉にできない感情が広がっていくのを感じた。


それは、哀れみでも、畏敬でもない。

ただ、どうしようもない痛みだった。


そして、静かな祈りだった。


私は、胸の奥に、言葉にできない感情が広がっていくのを感じた。


それでも、なお在り続けたこの存在に――

私は、言葉にならない敬意を覚えていた。


なぜ、絶望に堕ちずにここにいられたのか。

なぜ、すべてを見届けながら、自らを失わなかったのか。


答えはなかった。

けれど、確かに在った。

祈りが消えずに続いていくために、

この存在は、名もなく、声もなく、

ただ、“在る”ことを選び続けたのだ。


私は、目を閉じた。


胸に灯った微かな光を、

静かに抱きしめるようにして。


セレアの沈黙が、すぐそばに、確かに在った。

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