第6章④ 祈りと理のあわいに(理に至る道)
光の奔流が、ゆっくりと静まった。
世界の輪郭が、再び形を取り戻していく。
私は、深い海の底から浮かび上がるように、意識を取り戻していた。
けれど、身体も、思考も、まだ震えていた。
あの絶え間ない滅びと祈りの連なり。
セレアが、何千回、何万回と生き、死に、ただ在り続けた記憶。
それは、単なる映像ではない。
魂に刻み込まれた、生々しい事実だった。
やがて、また新たな光が流れ込んできた。
それは、少し違っていた。
苦しみでも、痛みでもない。
ただ、静かだった。
セレアの存在の変遷。
それが、私に伝えられてきた。
かつて、彼女は肉体を持っていた。
人の形をとり、命を宿し、世界の中に生きていた。
けれど、幾度もの終焉を越えるうちに、
肉体は滅び、魂だけが、なお在り続けた。
彼女は、選ばなかった。
救うことも、導くことも、しなかった。
ただ、見届けていた。
祈りが生まれ、絶たれ、また生まれるその循環を、
何も干渉せず、ただ静かに受け止めていた。
そして――
彼女自身が、理の流れに溶けていった。
個としての意識は、かつてのような輪郭を失った。
それでも、魂は絶えなかった。
祈りを受け止め、祈りを還すだけの存在として、
銀河を巡り続けた。
それが、セレアという存在だった。
かつて地球の古い文明は、彼女を”光の神”と呼んだ。
けれど、その名にすら、彼女は応えなかった。
祈りを拾い、静かに天へ還す。
それだけが、彼女に与えられた役割だった。
私は、静かに震えていた。
この存在は、誰も救えない。
誰にも救われない。
ただ、終わりゆく祈りを、ひとつ、またひとつ、拾い上げて、
理へと返していく。
それは、限りなく孤独な役割だった。
私は、悟った。
この存在は、祈りの墓場と、ほんのわずかな隔たりしか持たない。
ほんの少しでも歩みを誤れば、
セレアもまた、絶望の淵に堕ちていたかもしれない。
それでも、彼女は――
堕ちずに、今ここに在る。
祈りを還し続けるために。
命の終焉を見届けるために。
ただ、そのためだけに。
私は、胸の奥に、
言葉にできない感情が広がっていくのを感じた。
それは、哀れみでも、畏敬でもない。
ただ、どうしようもない痛みだった。
そして、静かな祈りだった。
私は、胸の奥に、言葉にできない感情が広がっていくのを感じた。
それでも、なお在り続けたこの存在に――
私は、言葉にならない敬意を覚えていた。
なぜ、絶望に堕ちずにここにいられたのか。
なぜ、すべてを見届けながら、自らを失わなかったのか。
答えはなかった。
けれど、確かに在った。
祈りが消えずに続いていくために、
この存在は、名もなく、声もなく、
ただ、“在る”ことを選び続けたのだ。
私は、目を閉じた。
胸に灯った微かな光を、
静かに抱きしめるようにして。
セレアの沈黙が、すぐそばに、確かに在った。