第6章③ 祈りと理のあわいに(魂を灼く記憶)
次の瞬間、私は押し潰されそうな衝撃に襲われた。
流れ込んでくるのは、正体の知れない奔流だった。
高層の都市。
滑らかな塔、空を縫う乗り物たち。
人々は微笑み、豊かさに満たされていた。
だが、それは一瞬で終わった。
空が裂け、黒い閃光が都市を呑み込む。
光も音もなく、すべてが焼き尽くされる。
大地が割れ、人々が叫び、消えていく。
私は、その絶望を”見て”いるのではなかった。
“感じて”いた。
焼かれる痛み。
砕ける悲鳴。
崩れる世界の、絶望の重さを。
次の光景。
小さな集落。
藁葺きの家。
子どもたちの笑い声。
それもまた、大地の震えとともに炎に呑まれた。
逃げ惑う親子。
燃え落ちる空。
助けられない悲鳴。
失われていく命。
次。
次。
また次。
知らない星。
異なる空。
異なる種族。
だが、繰り返されるのは同じだった。
争い、奪い合い、砕け散る命。
私は、耐えきれなかった。
胸の奥が、灼かれるように痛んだ。
魂が引き裂かれるようだった。
どこまでも続く滅び。
絶たれる祈り。
尽きることなく繰り返される終焉。
私は、自分が誰なのかすらわからなくなりかけた。
意識が崩れ、輪郭が溶け、
「私」という存在そのものが、滅びの中に溶けていく。
――誰か。
――誰か、助けて。
魂が、叫んでいた。
私は両手で顔を覆いたかった。
けれど、この光の奔流の中では、それすらできなかった。
ただ、受け止めるしかなかった。
破壊され、焼かれ、失われていく記憶たちを。
セレアが、幾度となく生き、死に、砕けた記憶を。
それは痛みだった。
恐怖だった。
絶望だった。
だが、その底に、微かに――微かに、
消えそうな祈りの火種が灯っているのを、私は感じた。
どれだけ滅びても、
どれだけ裏切られても、
誰かが誰かを想った、あの微かな光だけは、
完全に消え去ることがなかった。
私は、泣きたかった。
けれど、涙も流せなかった。
魂が震えていた。
崩れ落ちそうな精神を、
この小さな祈りの温もりだけが支えていた。
私は、必死に耐えた。
壊れるわけにはいかなかった。
ここで絶望に呑まれたら、
私自身が、祈りの墓場へと堕ちてしまう。
私は、まだ、壊れていない。
どんなに滅びを見せられても、
私の中には、たしかに――まだ、誰かを想う感覚が残っている。
そう思った瞬間、
光の奔流が、少しずつ、静かに収束しはじめた。
そして私は、理解しはじめた。
これは単なる記憶ではない。
これは、セレアの魂そのものだった。
滅びと、孤独と、祈りのすべてを内包した、存在そのもの。
私は、荒れた呼吸を整えるように、意識を一点に集中させた。
そして、問いかけた。
――なぜ、この存在は、なお在るのか。
問いに答える者はいなかった。
けれど、その沈黙こそが、
この存在が背負ってきた重みそのものなのだと、私は直感していた。




