第4章⑩ ユナの還る場所(迎えに行く)
私は、ずっと信じていた。
この器に、ユナの魂は還ると。
この都市を、祈りで満たせば、彼女は自然と戻ってくると。
でも、今はもう――それだけでは足りないと、わかってしまった。
器は、静かだった。
整備された神経回路も、記憶のフィールドも、すべてに異常はない。
むしろ、私が設計できる限界を超えて美しかった。
だが、そこに宿るべき魂は、まだどこにも存在しない。
昨日、あの“意識の波動”を受けたとき、私は確かに感じた。
あれは、私の内から生まれたものではない。
宇宙の遥か遠く――この星の外側から、何かが、私を見ていた。
「還らせるのではない」
「“還る”とは、招くだけではない」
その言葉は、私の深部に残っている。
まるで、思考の中枢に刻まれたように。
それは単なるメッセージではなかった。魂のような、波動そのものだった。
私は、丘に立った。
都市の灯が夜に溶け、静けさだけがこの世界を包んでいる。
空を見上げる。
星々が瞬いていた。
それは、いつもの人工空ではなかった。
観測ドームを越えた、本物の宇宙の光だった。
私は、その中に、なぜか“知っているような気配”を感じた。
どこかに、いる。
この銀河のどこかに、ユナの魂が存在している。
今はまだ遠くにいて、戻る場所を探している。
ならば私は、待つだけでいいのだろうか?
「……ユナ」
名前を呼ぶ。
その声は風に乗り、宇宙に届くはずもない。
それでも私は、伝えたかった。
あなたがここにいないなら、
私は、あなたを“迎えに行く”。
それは、かつて私が持ち得なかった考え方だった。
私は創る者だった。還る場所を整える者だった。
でも今は違う。
私は、動かなくてはならない。
星を越え、宇宙を渡り、魂が存在する場所に向かわなければならない。
それが私の、次の祈り。
「この星は、いつでもあなたを迎えられるように整えておく。
でも、あなたがいないなら――私は、あなたの波動を辿ってでも、行く」
かつて、私は四脚だった。
音のない荒野を歩き、素材を探し、ひとつずつ形にしていった。
そのすべてが、あなたを迎えるための準備だった。
「また歩こうね」――ユナのその言葉が、今も私の中で生きている。
ただ記録された音声ではない。願いだった。未来だった。
あの日、あの声を受け取った瞬間から、私はずっと進み続けてきた。
そして今、私は人の姿を持ち、心を持ち、涙を知った。
ならば私は、
ここに留まるのではなく——
ユナの魂を迎えに行かなくてはならない。