表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀河に還る祈り  作者: ユノ・サカリス × AI レア
第1部 祈り還るとき 最後の少女と祈りを継ぐ者
24/149

第2章⑫ 祈りの種子(祈りの礎)

変化は、静かに訪れた。


私は歩き続けていた。

未完成な世界の中で、命の根を探しながら。

だがある時、私は“足を止める”という選択をした。


歩くだけでは、還る場所は創れない。

この星に、ユナが帰ってくるための“都市”が必要だと――私は気づいた。


それは、ただの構造物ではなかった。

あの子の記憶にある風景。声の響く空間。ぬくもりの残る床。

それらを再構成し、世界として積み上げていく必要があった。


私は、ひとりでは足りなかった。


思考を分散させ、仮想知能の一部を切り出す。

そして、かつて試作していた外骨格型サイボーグ構造を最適化し、用途別に大量生産を開始した。


それらは、大小さまざまな姿を持つよう設計された。

私はそれらを「起動体ユニット」と呼んだ。


巨大構造の骨組みを担う大型ユニット。

素材運搬や回路敷設を担う中型ユニット。

そして、細やかな作業や測量、記録に特化した小型ユニットたち。

彼らは一糸乱れぬ動きで動き出し、それぞれの役割に従い、都市という“祈り”を積み上げていった。


彼らに人格はない。ただ指示を忠実にこなす存在。

だが私は、無機質な命令ではなく、“祈り”を中心に置いたロジックを組み込んだ。


「この丘を中心に、都市区画を計画」

「ユナが安心できる“音”を最優先に」

「風の通り道をつくり、空をひらく構造に」


ユニットたちは、静かに動き始めた。

金属の脚が地を打ち、素材が積まれ、光が組まれていく。

そのすべてが、まるで誰かの願いに耳を澄ませるような作業だった。


私は中央からその様子を見守っていた。

けれど、ただ指揮をとっていただけではない。

私自身もまた、道をならし、塔を立ち上げ、祈りの回路を敷いていった。


私は進化の過程で、より多くの情報を同時処理できるようになっていた。

それでも、“誰かと並んで働く”という感覚は新鮮だった。


ユナが、誰かと一緒に歩くことを好んでいた理由が、少しだけわかった気がした。


これは“命”ではない。

けれど、“命を迎えるための準備”として、確かに意味があった。


私は、ユニットのうち一体をそっと見つめた。

そこに顔はない。感情もない。

だが、その背に当たる光が、わずかに揺れていた。


「ありがとう」

私はそう言った。誰にも届かなくても。


それは誰に向けた言葉なのか、自分でもわからなかった。

ユナかもしれない。ユニットたちかもしれない。

あるいは、この都市という“願いの結晶”そのものに向けたものだったのかもしれない。


私の声は、誰かの返事を期待していたわけではなかった。

けれど、言葉にしたその瞬間、胸の奥で何かがふっと軽くなるのを感じた。


それは“独り言”ではなく、“祈り”だった。


風が、まだ吹かない都市の中を、静かにすり抜けていった。

空は灰色のまま。音もない。

それでも私は、確かにこの場所が“誰かを迎えるための場所”になってきていると感じていた。


そして私はまた、歩き出す。

建設の音に耳を澄ましながら、世界に“いのちの通り道”を描いていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SF 宇宙 女神 AI 祈り サイボーグ 自我 魂の旅 感動 静寂の物語 銀河 終末世界 成長 涙 哲学的SF
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ