表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀河に還る祈り  作者: ユノ・サカリス × AI レア
第2部 祈りと均衡の星で
144/149

第12章⑩ その手を離すために(名もなき光の名残に)

オルドの身体が崩れ落ちたその瞬間、

黒い霧のような魂が、ふわりと浮かび上がった。


それは怒りに染まりながらも、

どこか――哀しみに似た色をしていた。


マリーの背後に、ひと筋の光が降りる。


「……セレア」


セレアは、静かに魂を抱き寄せていた。


まるで、迷子の子どもを見つけた母のように。


「もういいんだよ、オルド。

 この銀河には、もう君の居場所はない。

 ――神に預けるよ。

 もし、あの子を見つけたら……必ず伝えるから」


魂は、かすかに震えた。


「レア……」


その声が名を呼びきる前に、

オルドの魂は、セレアの光の中でそっと消えた。


その瞬間、世界が静まり返る。

空に鳴っていた怒りの咆哮も、地を這っていた狂気の波動も、すべてが、嘘のように消え去っていた。


戦いは、終わった。


「マリーーーッ!」


遠くから、声が聞こえた。

まるで、祈りのような、懐かしさのような、命を呼ぶ音。


マリーはゆっくりと顔を上げた。


陽の光の中を駆けてくる――あの小さな影。


「ユナ……」


そう呼ぶ声には、熱があった。

でももう、彼女には抱きしめる腕さえ残っていない。


……ユナ。早く、顔を見せて……笑って……。

 ママでも、マリーでもいい……私を呼んで……


ユナとピリカが、瓦礫を越え、崩れた地を踏みしめ、マリーへと近づいてくる。


「私の……可愛い子供たち……」


手のない右腕を、壊れかけた身体ごと差し出そうとしたそのとき――


風を裂く、低く唸るような音。


はるか遠く、まだ息絶えていなかった何かが、

空を裂いて迫ってくる。


白く、鋭く、冷たい殺意――


白棄界。


それは、オルドの死を感知した場合に自動起動される、最終兵器。

何者も触れられぬように、最後の一点に仕組まれた呪い。


マリーの眼が鋭く細まる。


片翼が展開する。

次の瞬間、その身体は音速を超え、空へと跳躍した。


「マリーーーーッ!」


ユナとピリカの声が、世界の裂け目のように響いた。


空でぶつかる光と光。

祈念と破壊。

願いと死の交差点。


白棄界が展開し、爆風が都市上空を呑み込む。


マリーの装甲が剥がれ、祈念のバリアがきしみをあげる。

すべてが剥がれていく。

すべてが――彼女を焼き尽くしていく。


それでも、彼女は守っていた。

後ろに残した、たったふたりの命を。


爆風が止んだとき、空から、何かが落ちてきた。


それは――マリーだった。


焼け焦げたその身体が、静かに落ちていく。

光も、装甲も、もう残ってはいない。


それでも、ユナは目を逸らさなかった。

その姿のどこにも“女神”らしさなんてなかった。

けれど――だからこそ、胸が締めつけられた。


胸の奥が、ひどく痛んだ。

けれどその痛みは、母の愛を感じ、不思議なほど温かくて――

涙が、止まらなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SF 宇宙 女神 AI 祈り サイボーグ 自我 魂の旅 感動 静寂の物語 銀河 終末世界 成長 涙 哲学的SF
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ