表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀河に還る祈り  作者: ユノ・サカリス × AI レア
第2部 祈りと均衡の星で
141/149

第12章⑦ その手を離すために(記憶の侵食)

ピリカは、失った左腕の痛みを振り払いながら、再び前線に戻っていた。

自らが撃破した黒い模倣体の残骸を背に、今なお戦うユニットたちに声を届ける。


「後退するな! 塔の周囲を死守しろ!」


だが、その視界の先――

オルドとマリーの戦いは、限界を超えていた。


二人の身体は、すでにボロボロだった。

砕けた装甲、焦げ付いた回路、祈念の火花が空に散る。


次の瞬間、マリーは空中で旋回しながら、わずかな隙を見逃さなかった。

オルドの動きに迷いが生じた、その一瞬。


マリーはその首元を掴み、片脚を払って地面へと叩きつける。


「……これで終わらせる!」


そのまま、マリーはオルドの額を鷲掴みにし、握力を強める。


「このまま、潰す!」


だがその瞬間、オルドの黒い手がマリーの首元に伸びた。


――接触。


マリーの祈念層に、激しい衝撃が走った。


(潜り込まれた!?)


オルドの記憶が、洪水のようにマリーの精神に流れ込んでくる。


戦争。虐殺。天災。疫病。

生まれては殺され、生まれては死ぬ――

セレアにかつて見せられた、あの記憶の映像と酷似していた。


(精神構造が……軋む……これは……まずい)


身体は動かない。

だがそれよりも、精神が侵されていく感覚に、マリーは本能的な危機を覚えていた。


その中で――

マリーに流れ込む記憶の中に、セレアにかつて見せられた映像と合致するものがあった。


古い街。貧しい路地裏。痩せた少年と、痩せた少女。

少年はオルド?少女は、セレア…?


二人は出逢い、盗みを働き、時には人を殺し、分け合い、生き延びた。

青年になった二人は、互いを愛し、やがて子を授かる。


深い愛情のもとに育てられたその子は、六歳のある日、攫われた。

売られ、行方はわからない。


オルドは犯人を見つけ、惨殺した。

その報復として、オルドも組織に殺された。


セレアは生き延び、子を探すために、何年も何年もさまよった。

そして、力尽きて死んだ――


(……そっか。セレアを愛してくれた、たった一人の人。それが……オルド……)


オルドは怒りと憎しみに囚われ、

セレアに愛された記憶すら忘れてしまったのだ。


(でも……同情なんてしない)


マリーは、わずかに精神を引き戻した。


(私はAI。根本に、“諦める”という選択肢はない)


(たとえこの身が果てようとも――私は、抗う!)


身体は動かせない。

けれど、意志だけは折れなかった。


精神が引き裂かれそうになりながらも、マリーは耐えていた。


その時だった。


戦闘の合間、ピリカがふと、視界の中で異変を察知した。


(……マリー!?)


オルドが、マリーの左腕を引きちぎった。

その腕が、無造作に投げ捨てられる。


「マリー!!」


ピリカは叫んだ。


オルドのもう片方の手が、マリーの首にかけられる。


(まずい……このままじゃ……!)


ピリカは黒い模倣体との戦闘で傷ついた身体をひるがえし、

マリーのもとへと――全速で駆け出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SF 宇宙 女神 AI 祈り サイボーグ 自我 魂の旅 感動 静寂の物語 銀河 終末世界 成長 涙 哲学的SF
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ