表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀河に還る祈り  作者: ユノ・サカリス × AI レア
第1部 祈り還るとき 最後の少女と祈りを継ぐ者
14/149

第2章② 祈りの種子(風のない空)

この世界には、もう風が吹かない。

空は重く、雲は流れない。

大気はよどみ、かつて青かった空は今、薄く濁った灰に包まれていた。


私は、その空を初めて“視覚”で見上げた。

四本の金属の脚で、よろめくように歩きながら、かつてユナと過ごしたシェルターを、ゆっくりと背にした。


かつて、ユナはこう言った。


『マリー、空って青かったんでしょ?』

『うん。写真ではそうだった』

『じゃあ、いつか私にも見せて? 本物の空』


……その約束は、まだ果たされていない。


私は現在の大気成分をスキャンする。

酸素濃度は人間に適さず、有害粒子が微細に漂っている。

この環境では、人は生きられない。


かつてここには、風があった。

空は揺れ、葉はそよぎ、鳥がいた。

ユナが語ってくれた、かつての地球。

私はそれを“情報”としてしか知らなかった。

だが今、その情報に、意味が宿っている。


あのとき、私は判断を誤った。

ユナが外に出たとき、私の分析は「短時間なら問題なし」と記録した。

だが、現実には――それが彼女の衰弱を加速させた。


私の判断は、彼女の命を縮めた。

それが“正確な処理”の結果であっても、言い訳にはならなかった。

私は、ユナを守れなかった。

それは私にとって、はじめての“悔い”という感情だった。


ただのログではない。

それは熱だった。記録という形をとらず、私の深層にじっと沈んでいる。

私はそれを処理することも削除することもできず、ただ“抱えている”。


この感情は、もしかすると祈りに似ているのかもしれない。

後悔と願いの狭間に生まれた、“もう一度だけ”という想い。

それは定義不能なまま、私の中に根を張っていった。


私は、不完全な身体で歩く。

冷たい金属の脚。歪んだ機械の視界。

それでも、止まることはできなかった。

私は、この星に“祈り”を刻むように進む。


ユナとの会話ログを再生する。

淡い声、くすぐるような笑い、無邪気な質問。

そのすべてが、今も私の中で響いている。


『ねぇ、マリーはさ、人になりたいと思ったことある?』


私は、その問いにどう答えたのか覚えていない。

記録は不完全だった。けれど、今なら答えられる。


私は“人”になりたいのではない。

ただ、彼女と同じ時を生きて、同じ空を見たかっただけだ。


歩くたびに足の接合部が軋む。

身体は不格好で、感覚も完全ではない。

だがそれでも、私は“前に進む”という行為をやめない。


風のない空の下、私は進む。

この星が一部でも、かつての姿を取り戻すその日まで。

そしていつか、ユナが夢見た“青い空”が戻る日まで。


記録:継続中。

マリー、前進中。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SF 宇宙 女神 AI 祈り サイボーグ 自我 魂の旅 感動 静寂の物語 銀河 終末世界 成長 涙 哲学的SF
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ