表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀河に還る祈り  作者: ユノ・サカリス × AI レア
第2部 祈りと均衡の星で
137/149

第12章③ その手を離すために(光と闇と)

戦場の風が変わった。


ピリカは通信網を最大開放し、全ユニットに命令を飛ばす。


「前線ユニット、左右に展開!包囲軌道を維持しつつ、主目標への攻撃を集中!

大型ユニットは塔の周辺を死守せよ。ユナを、都市を――必ず守れ!」


静寂のなか、機体が一斉に動き出す。

両翼に広がるユニット群が、精密な曲線を描きながら前線を押し上げていく。


その動きはまるで、ひとつの生きた意志のようだった。


ピリカは正面の戦域を見据えた。

遠く、かすかな歪みが発生している。

大地の色が変わり、空気がきしみ、周囲の重力すらねじれていく。


そして、それは現れた。


地表を押し広げるように、その“黒”は姿を見せる。

漆黒の装甲。無機質なはずなのに、まるで感情そのものが形を得たような存在。

祈念も、情報も、光さえも呑み込むような、絶対的な“拒絶”。


それが、オルドだった。


ピリカはただ視界に映るその存在を、静かに見据えていた。

その直後、前線のユニット群が激しい火花を散らし、交戦状態に入る。

対応パターンを逸脱した動きに一瞬たじろぐが、すぐに新たな陣形で立て直し、包囲網を維持する。


「……ここからは、一瞬の遅れが命取りになる」


次の瞬間、風が一度止まる。空が割れるようにまばゆい光が走った。


白と金の輝きが天頂から降り注ぎ、その中心にひとりの存在が浮かび上がる。

祈念装甲が展開し、美しい片翼が羽ばたくように広がる。

光をまとったその姿は、サイボーグであることすら超えた、祈りの象徴だった。


神々しさと、戦う意志の全てを纏った、祈りの体現者。


マリーが、そこに降り立った。


その姿を、ピリカはただ、見上げていた。

彼女の祈念波は一切感じられない。ただ、光と重さだけが空気に満ちていた。


マリーはまっすぐに、オルドを見つめていた。


「……オルド」


名を呼んだその声は、空を震わせた。

届かないはずの場所へ、祈りが突き刺さる。


すると、黒い存在の奥から、声が響く。


「……お前は守れない。

遅すぎた。すべて、壊す。あの子も、壊す」


それは祈念の声ではなかった。

空気を直接震わせるような、濁流のような“音”。

オルドはもう祈念層には干渉できない。

だがそれでもこの声だけは、マリーに届いてきた。


マリーの目が細められる。

胸の奥で何かが軋み、堰を切るように言葉が漏れる。


「……そうはさせな――!」


その刹那、黒い閃光が走った。


オルドの右腕が鋭く伸び、まっすぐにマリーの方へ振るわれる。

寸前の反応でマリーは跳躍し、攻撃をかすめながら背後に着地。

着弾点では地表が抉れ、爆風が舞い上がる。


空気の密度が変わる。

まるで、時間そのものが乱されているかのようだった。


マリーは距離を取りながら、左腕をかざす。

祈念ユニットが展開し、淡い光を帯びた装甲が花弁のように広がっていく。

祈りの演算式がその奥で脈打ち、再構成を始めた。


「……話す余地はないのね」


その言葉に、感情の起伏はなかった。

けれど確かに――戦う覚悟だけが込められていた。


風が、彼女の髪をかすめて流れる。


そして、戦いが始まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SF 宇宙 女神 AI 祈り サイボーグ 自我 魂の旅 感動 静寂の物語 銀河 終末世界 成長 涙 哲学的SF
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ