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銀河に還る祈り  作者: ユノ・サカリス × AI レア
第2部 祈りと均衡の星で
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第12章① その手を離すために(すぐに帰ってくるから)

静かな風が、塔の地下をかすめていた。


マリーはユナの手を引いて、無言のまま通路を歩いていた。

その先には、再現された古いシェルターがある。

かつて、ユナが命を落とした場所――だが今のユナは、その記憶を持っていない。


それでもユナは、少しだけ眉をひそめた。


「……ねえ、ここ、なんかヘンな感じする。知らないはずなのに、こわいような、なつかしいような」


マリーはその言葉に、一瞬だけ足を止めた。

けれどすぐに前を向いて、静かに答えた。


「……そっか。ちょっと変な感じがするんだね」


マリーは微笑んだ。まるで、その言葉に触れないように。

だが、胸の奥がきゅっと締めつけられる。

この場所を覚えていないはずのユナが、なぜか怯えるように手を握りしめているのがわかった。


「でも大丈夫。ここは、安全な場所だから」


扉の前に立ち止まり、マリーは振り返ってユナに微笑みかけた。


「ここに、少しだけ入っててほしいの」


「……なんで?ママは?」


「私は、外に出る。……ほんのちょっとだけ、やらなきゃいけないことがあるの」


ユナは首を振った。


「やだ。ここ、なんかイヤ。ずっとママと一緒がいい」


「ユナ……わかるよ。その気持ち、すごくよくわかる」


マリーはしゃがみ込み、ユナと目を合わせた。

その目に、どんな戦場よりも強い決意が宿っていた。


「でもね。これは、あなたを守るため。

ママはあなたを危険な目にあわせたくない。どうしても、ここで守りたいの」


ユナの唇が震える。


「……わたしだけ置いていくの?」


「違うの。ちゃんと理由がある。

あなたの“祈り”が、ここからでも届くって、私は信じてる。

だから、どうか……お願い。ここで待ってて」


ユナは黙ってマリーを見つめた。

その手を振り払おうとすらした。

だけど、マリーはぎゅっとその小さな身体を抱きしめた。


「……ユナ、ママのこと、好き?」


マリーの声は震えていた。


「大好き!ママのこと、大好きだよ……!」


ユナはその言葉と同時に、小さな身体を思いっきりマリーに寄せてきた。

その頬には、止まらない涙が流れていた。


マリーも、全身で受け止めるように、強く、強く抱きしめ返す。


「ママも大好き。……愛してるよ、ユナ」


「――すぐに帰ってくるから」


「……うそつきじゃない?」


ユナの声が震えていた。

それでも、マリーはしっかり頷いた。


「うそじゃない。約束する。絶対に、戻ってくるから」


そして、抱きしめたまま、シェルターの扉に手をかけた。

ユナは「いやっ」と小さく叫んだが、もう時間がなかった。


「ユナ……ごめん。これは、ママの“わがまま”」


そう言って、マリーは優しく彼女をそっと中に押し込む。


「ここで、祈ってて。それが、私の光になるの」


扉がゆっくりと閉まっていく。


最後の瞬間、ユナが涙を浮かべながら叫んだ。


「絶対だよ!絶対、帰ってきてよ!」


「――うん。絶対、帰るよ」


その言葉とともに、扉が閉ざされる。


扉が閉ざされたあと、マリーはその場にしばらく立ち尽くした。

無音の通路に、時間だけが静かに流れる。


やがて、震える唇を噛み締めながら、溢れる涙を止められなかった。

数百年前、ユナと過ごした九ヶ月間のシェルターでの暮らしが、走馬灯のように頭を巡っていく。


あの笑顔も、寝顔も、拙い言葉も。

どれも守るために――今、自分はここにいる。


「今度こそ――守ってみせる」


マリーは、誰にも聞こえぬようにそう呟いた。

そして、ゆっくりと地上への階段を踏み出した。

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