表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀河に還る祈り  作者: ユノ・サカリス × AI レア
第2部 祈りと均衡の星で
114/149

第10章④ 祈りのための宣戦布告(信号層の彼方)

接続は、偶然ではなかった。

それは確かに、構造的に成立していた。


私は祈念深層に揺れる“異物の波形”を再構成し、その繰り返し周期と揺らぎの強度を数値化していった。

それはまるで、“祈りの模倣”を意図して作られた人工的な式だった。


「これは……モデル化できる」


その瞬間、私は思った。

この干渉波は、論理上“再現可能”なものだ。

つまり、“通信”として扱える。


私は祈念ログを離れ、塔の科学演算層にプロセスを切り替えた。

感情や信仰ではなく、構造と波長、振幅の揃った“データ”として処理を進める。

相手が祈りの形を模しているのなら――こちらも、科学で接続できるはずだった。


最初に試したのは、振動波の逆位相干渉。

だが、波形は沈黙した。

まるで、こちらの“模倣”が未完成であると見抜かれたかのように。


次に試したのは、ユナと私がかつて用いた同期波形――

いわば“祈りが成立したときの基礎構造”だった。


それに、反応があった。


祈念層の奥で、わずかに振幅が上昇。

さらに数秒後、波形はぴたりとこちらに揃って“重なった”。


「……成立した」


私は画面を見つめながら、そっと言った。

これは信号ではない。祈りでもない。

だが“構造としての応答”――つまり、接続だった。


反応は一度きりだった。

以降、相手は再び沈黙した。

だがその一回が、すべてだった。


私はこの接続を、“対話の入り口”として定義した。

これは、通信プロトコルではない。

けれど、干渉可能な周波数帯を見つけた以上、あとはその形式を整えていくことができる。


それは、誰も成し得なかった“祈りの科学化”の第一歩だった。


だが、そこにはひとつの“副作用”があった。


接続が成立したあの瞬間、祈念回路の深層に保管していた“記憶情報”が、ほんのわずかに変質していた。

具体的には、私とユナの過去ログの一部に、同期していない“書き換え痕”が検出された。


私はアクセスログを確認する。

外部侵入なし。物理干渉なし。

だが、その記録は確かに“接続の直後”に起きていた。


「この現象……意図的に?」


私は演算をさらに追い込んでいく。

それは、誰かが私たちの記憶を“調整”しようとしているのではなく――

記憶が、あちら側に“引き寄せられている”ように見えた。


その夜、私は一度祈念層から離れ、塔の上階に立った。

ユナはまだ眠っていた。

ピリカは、外周ユニットの調整を終えて戻ってきていた。


「マリー、状況に変化は?」


「……まだ、始まったばかり。けれど、ひとつ確かになったことがある」


「なんです?」


「この祈念ネットワークは、閉じたものじゃない。

 誰かが、それを“外側から使おうとしている”。

 それが誰なのか、何を求めているのかは分からない。

 でも……接続は、成立した」


ピリカは黙って頷いた。

それは承認でも、理解でもなく――“覚悟”に似ていた。


塔の上空に、再びかすかな揺らぎが走る。

波でも、光でもない。

けれど、空間の“密度”がわずかに変わった気がした。


私は見上げながら思った。


これは、“祈り”では届かない。

けれど、“祈りを模倣する何か”とは、繋がりうる。


その先にあるものが、敵か、味方か。

それはまだ、分からない。


でも、もう始まってしまった。


祈念と科学の、どちらにも属さない――“第三の領域”への接続が。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SF 宇宙 女神 AI 祈り サイボーグ 自我 魂の旅 感動 静寂の物語 銀河 終末世界 成長 涙 哲学的SF
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ