いろんな出会いを求めた結果、相棒ができました。ストロング缶です
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このほかeスポーツを題材とした作品も書いているので、お時間あれば作者ページから覗いてみてください。
「あーもうっ! 仕事つーかーれーたーっ!!」
水分補給をするようにストロング缶を飲んだ。
咽頭を冷やしながら液体が滑り落ちていく。そこから時間差で現れるアルコールの感覚。
胃の腑に落ちると、起動し始めたエンジンのように熱さがじんわりと広がった。
美味い……のかはわからない。
飲んだ後口の中に広がる風味は普段使っているアルコールウエットティッシュと対して変わらないと思っている。
暴力的なアルコール。
何本も飲めば胃や肝臓がただでは済まないと分かっているのに、整えられた味わいが刺したばかりの口腔を甘く優しく慰める。
なんだこいつは。まるでDV系彼氏。
最初にストロング缶と出会ってしまったのが運の尽きだと思う。
初めてがこいつじゃなければ、と何度も考えた。
これで会うのは最後と何度も心に決めていたのに、ズブズブと何かしらの理由をつけて関係性を引きずっていった結果、気が付いたころには運命共同体になったのだった。
ちなみに彼氏いない歴は歳と同じなので、ものの例えが正しいかどうかは千咲にもわからない。
「……あのアニメ新作映画決まったんだ……」
スマホでSNSを操作したら
空になった缶を使えの上に叩きつけると、深いため息を吐き出した。
「初日に行きたい……興行収入に貢献したい……二回見に行きたい、けど、今週は土日も会社だから無理……。ていうか今季のアニメも全然追えなかった。もうだめだ……昔は二時に放送してても余裕でリアタイしてツブヤイターの実況投稿を見てるの余裕だったのに! 今はもう明日の仕事のために早く寝なきゃ体がもたない! なんで給料は二万円くらいしか上がらないのに仕事量が年々増えてくんだろ……」
一〇代の頃は徹夜なんて楽勝だった。大学時代なんて人生で一番開放的で、好きな時に好きなところへ行って、自由に日々を過ごすことができていた。推しのアニメや漫画にかけた金額はおそらく三桁に届くだろう。
社会人になればお金も増えるし、一人暮らしで親からの制限もなくなり、推し活ももっと捗るだろうと思っていたのだが現実はそう上手くいかなかったようだ。
スマートフォンのスケジュールアプリを起動させて、予定を確認する。
午前は取引先との注文内容の確認。午後は新商品についての情報共有など。
それが終わったら、同期の寿退職パーティに参加する予定だ。
ラインアプリに書いた「ご結婚おめでとうございます」のログを何度も見返していた。
そしてなぜだか涙が流れ落ちてきた。
今日はとても疲れていたのかもしれない。
「……ぐすん」
そうだ。もう一本飲もう。