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師匠からのプレゼント

 サプライズプレゼントってのは良いものだ。思いがけない時に貰えるプレゼントはそうでない時と比べて喜びの最大瞬間風速が三割増しくらいにはなると思う。俺がまだ小さかった頃、父さんが昔から好きだったロボットアニメのプラモデルを突然プレゼントしてくれた時も嬉しかった。正直、そのアニメは俺にとっては古すぎて興味の沸かない代物だったが、それでもそれは当時の俺を興奮させた。鼻息荒く組み立てたのを今でも覚えているし、今ではアニメシリーズのファンである。


 そう、出会って三日目の間宮がプレゼントしてくることは、俺にとって全くの予想外だった。


「はい、これ」

「何……?」


 椅子から立ち上がった間宮は脈絡なく黒い塊を差し出してきた。受け取ると想像以上の重量が掌に伝わる。


「カメラ」


 俺は見たままに呟いた。

 底がガラスになっている円筒が突き出した金属の直方体。うん、カメラそのものだ。


「あげるわ、プレゼント」

「え……マジで」

「マジよ」


 間宮は涼しい顔をしている。マジのようだ。


 唐突過ぎる贈り物に俺はリアクションが取れず、そのカメラをまじまじと見る。

 角張ったフォルムとブラックのボディは質実剛健、指先に伝わる冷たい金属の感触はまさに鉄の塊といった印象で、小キズがヴィンテージ感を強めていた。


「いや、でも……悪いよ。こういうのって高いんじゃないのか」


 古いカメラの相場など見当もつかない。どう考えてもこれは俺が生まれるよりはるか昔の品に見える。素人が骨董品を見たところでその価値が分からないのと同じで「なんか高そう」くらいのアホな感想しか絞り出せない。


「SR101は状態にもよるけど、ちゃんとしたショップでレンズ込みでも一万円くらいで買えるから」

「いや十分高ぇって」

「気にしないの、何年も前にジャンクコーナーで見つけたものだから。二千円くらいだったかしら」


 二千円か……それならまぁ。


「でも何で急に? 俺何かした?」

「写真のことを勉強してもらうって言ったでしょう。その子で勉強してちょうだい」

「お前、スマホでも構わないとか言ってなかった?」

「そ、それは……方便よ! ただの部員ならいざ知らず、ユージン君は私の助手なんだから基礎的なことは知ってもらわなきゃダメなの!」


 聞かされた話と違うじゃねぇか。労働条件通知書? を寄越せ!

 だけどまあ、受け取ったものを返すってのも失礼な話なわけで。


「迷惑……?」


 言い切ったくせにこちらの様子を窺うように首を傾げる仕草はどこか自信なさげだ。


「いーや、どう扱って良いのやら分からねぇけど、間宮が教えてくれるんだろ? 何とかやってみるさ」

「そ、そう? 仕方ないわね、手取り足取り教えてあげる!」


 そしてまたパッと明るくなった。忙しないことだ。


「それにこういうの持ってた方がモチベ上がるしな。専用機って感じは男心に刺さる。ありがとな間宮、大切に使わせてもらうよ」


 男の子はいくつになってもオモチャが好きなもの。工具、PCパーツ、キャンプ用品等々、男の子の所有欲は消えることが無いのである。いっそのこと専用機らしく赤く塗ろうかな、指揮官アンテナも付けたいくらいだ。三倍美しく写るなんてことは無いだろうけど。


 俺はもう一度鉄の塊に視線を向ける。

 うん、どんなものであれ、サプライズプレゼントってのは良いものだ。


 そして俺は間宮からの贈り物で思い出したことがあった。

 通学リュックからDVDを取り出して机の上に置く。これは初日、つまり間宮のあられもない姿を目撃してしまった後、プルプル震える彼女から借りた映画だった。


「返すよ、結構面白かった」

「え、もう観たの⁉」


 間宮は前のめりになって目を丸くさせた。


「お、おう。伝説の写真家のインタビューって聞いてたから、ジジイの説教臭い自慢話かと思ってたんだけどよ、これが中々お茶目なお爺さんなんだな。含蓄があるのに謙虚な態度で不思議と好きになったよ」


 俺が言うと、大きなタレ目を更に大きくさせて何度も頷く。


「分かってるじゃない! 流石私が見込んだだけのことはあるわ!」


 そうかい、一体いつ見込まれていたのかは知らんが俺は正解を出したようだ。


「近いうちに鑑賞会をしましょう! 視聴覚室は音響設備もバッチリだし!」

「お前の解説副音声はうるさそうだけど」


 意気込む間宮は俺の言葉が聞いていないのか、軽快なステップで移動しパッケージを手に取る。


「今まで私がおすすめした作品を観てくれた人なんていなかったのよねー」


 元気に悲しい言葉が聞こえた。なるほど、それでそんなに。確かに写真に興味のない人間に敷居が高そうと思われるのは仕方がない。


「この映画は写真部の教材として採用しましょう」


 何の警戒も無く脚立を引きずり始めたのを見て、俺は苦笑しつつ制止を求めた。


「俺が仕舞うよ」

「へ」


 一瞬固まって、何の事を言っているのか理解した間宮はスカートの端をぎゅっと握り込んで、


「そ、そうね! また覗かれちゃ敵わないもの!」

「だから覗いてねぇって。お前が見せてきたんだろうが」

「わあああああ! やめやめ! その話はしないでぇっ!」


 俺は具体的な話はしてないぞ、お前が墓穴を掘ったんだ。段々と間宮の扱いが分かってきた気がする。

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5話までお読みしたので感想送らせていただきます アンリちゃん好みです! 好きなことに夢中になっているのと、自信に満ちているのが可愛いです。 そんなアンリちゃんがひとりぼっちの写真部で寂しい思いをして…
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