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緊急開催・放課後決戦

「頼もぉー!」


 威勢の良い掛け声とともに体育館の扉が開かれた。


「おい、最速でプランから逸れるな。職員会議で部活禁止の中、こっそりバレずにやっちまおうって計画だったろ」

「決闘なのだから派手にやった方が良いと思って……こういうのって舐められたら負けなんでしょう?」

「お前っ、本当に仲を取り持とうって気ある⁉ あちらさん、すっげぇ睨んでっぞ⁉ イタズラに焚きつけんな! つーか何で道場破り風⁉」

「花水うるさい、今更ジタバタしない」

「何でお前の方が肝据わってんだ、荒木ぃ!」


 やってまいってしまった決戦の放課後。

 通常、部活時の体育館は中央を防球ネットで仕切り、バド部やバレー部と使うものだが、今日はネットが収納され、男子バスケ部の全面貸し切り状態である。

 いつもの練習時間を使って「元部員と上級生の軋轢をワンオンワンで解消することで、新生バスケ部の新たなる旅立ちとしたいんですけどぉ」なんて監督に相談しても「オフの日に勝手にやってくれ」ってなもんだろう。休みの日に入江が俺とバスケする為に出かけるわけがない。よって、邪魔が入らず、かつ入江を強引に引っ張って来れる平日の今日が最適な日取りというわけだ。


 しかしながら、


「おい、ちゃんとあちらさんに話通してんだろうな?」

「えぇ、二年生の多くも入江さんと一年生達の空気が悪いことを気にしていたみたいだから、今回で決着できるならそれが良い、ってそんな雰囲気らしいわ、って篠山君が」

「あいつ、こんなところでも連絡係させられてんのか、可哀想に。……って、そっちじゃなくて入江の方だよ」


 決戦を直前に控えた昼休み、俺は篠山に聞いた。何故、俺と入江を仲直りさせようとするのか、と。

 篠山曰く、これは入江以外のバスケ部員全員の総意なのだという。

 俺がバスケ部を辞めたあたりから部内の空気が悪いのだ、と。特に入江は元々の粗暴さもあって一年生に恐れられていた。俺と入江の衝突の結果、俺が退部したことで軋轢は更に深刻化。どうも入江がユージンを苛めて退部に追い込んだ、という空気が醸成されていったようだ。また、それに伴い、見て見ぬふりをした、と他の二年生への不信感も生まれ、バスケ部の雰囲気は最悪らしい。


 俺は凶弾に倒れた活動家かよ、勝手に一年生の代表に祀り上げんな。


 今回、直接対決の場を設けることを計画したのは二年連中らしい。

 入江のコンプレックスを解消しないことにはバスケ部は前に進めない、と考えたみたいだ。

 結局、それって俺が犠牲になるってことじゃねぇか、と喉まででかかったが、もうどうにでもなれだ。


 二年生の数人が俺に近寄って来る。

 キャプテンが言う。


「ごめんな、ユージン。初めは良い感じに写真撮ってくれるって間宮ちゃんが言うから、面白そうってノリで決まったんだけどさ、相談するうちにユージンと海斗の話になってな……俺らもまさかこんな形になるとは思わなかったんだよ、嫌ならこんな勝負受けなくても良いんだぞ?」

「気にしないでください、俺としてもバスケ部に火種残した負い目がありますから、しっかり清算させてもらいます」


 俺が言うと二年生たちはいくらか安堵したように笑う。


 しっかし、あれだな、やっぱり間宮の暴走かこれは。

 俺が視線を向けると、間宮は俺の文句が分かったようで。


「バスケ部の空気悪いのよ、聞けばユージン君絡みでひと悶着あったって言うじゃない。これはもうスッキリ解決してからじゃないと、良い写真は撮れないでしょう」

「お前なぁ……俺が断ってたらどうするつもりだったんだよ」

「ユージン君は断らないでしょう?」

「……せめて事前に言えって」


 ここまで来たものの、それはそれとしてやっぱり間宮には抗議しておきたい。あと、空気悪いとかハッキリ言うな。


 俺は声を潜め、


「やると決まった以上ワンオンワンはやりますけど……その、大丈夫なんですか? 要の入江さんは了承したんですか? 言っちゃ何ですけど、計画性ゼロの企画ですよこれ、あの人は俺と仲直りしたいなんて思ってるわけないのに、どうやって引っ張って来たんです?」


 離れたところにいるバスケ部員に聞かれないように聞いた。

 先輩たちは顔を見合わせて、


「最初はな、俺たちもまともに説得したんだぜ? ユージンとのピリピリ感が一年生ズとの関係にも悪いからいい加減にしてくれってさ……、そしたらアイツ一層怒っちゃってさ、聞く耳持たねぇのよ」

「はぁ、それで?」

「間宮ちゃんがどうにかするから絶対に連れてきてって言うから……な?」

「お、おう……とにかく連れてくること優先でな、逆転の発想で……」


 何か、嫌な予感がする。

 先輩たちは入江にこう伝えたらしい。


『入江はただの初心者(ヌーブ)、今でも余裕で勝てる。もし負けたら何でもしてやる』と俺が豪語している、と伝えたらしい……。


「なぁるほどねぇ……」


 遠くの方でウォームアップに余念がない入江。やる気十分、前足で土を蹴り上げる牛を思い起こさせる。


「とりあえず、アップしますか」


 俺は屈伸運動を開始する。


「ちょ、ちょっと! さすがにヤバいんじゃないの? あの人ヤンキーなんでしょ?」


 事情が変わったと把握した荒木が柔軟を始めた俺を覗き込む。


「ヤンキーね、まぁ、そうっちゃそうかも」


 ヤンチャではあるかな、焼きそばみたいな髪型だし。


「負けたらとんでもないこと要求されるんじゃないの? ぶん殴らせろとか」

「何、荒木は心配してくれんの? お前だって見た目は相当ヤンチャなのにな」

「バカッ」


 ペシッと頭を軽く叩かれてしまった。荒木はぴゅーっと間宮の傍に行ってしまう。

 ぶん殴られるか……そうなるかもな。

 ま、やってみないことにはね。


 とんでもない条件を勝手に付けられたというのに、俺は自分でも意外なほどに冷静だった。

 負けた場合をリアルに想像できていないからかもしれない。


 この勝負の趣旨とは何か。

 俺と入江がバスケで勝負をすることで互いを認め合い、軋轢を解消するのが目的だ。


 では、そうなる為にはどんな条件が必要だろう。

 俺が入江に勝つこと? ダメだ、それでは入江のコンプレックスが解消されることはない。

 では、入江が勝つ? これもダメだろう。学年が上で現役選手である入江が勝つのは普通に考えれば当たり前の事。勝って当然の条件で入江が勝っても他の一年生達は納得しないだろう。それでは学年間のギスギス感は拭えない。

 では引き分け? そんな決着は誰も得をしないだろう、論外だ。


 重要なのは、納得できれば良いということだ。

 入江が先輩としてのメンツを保ち、同時に一年生の不満が無いような決着が必要だ。

 まぁ、具体的に言えば、時間制限いっぱいで引き分け、サドンデス勝負の僅差で入江が勝利。こんな展開が現実的なところだろう。


 幸い、入江の実力は嫌と言うほど分かっている。少し前まで神経を張り巡らせて気を遣いながらプレーしてたんだからな。接戦を演じるくらいはできるはずだ。


 うん、もうこれしかない。

 まともな脳みそを持っているなら、こんな展開、こんな勝負、こんな計画は馬鹿げていると見直し及び修正を要求するだろうさ。

 でも、これは間宮が立てた撮影プランなのだ。

 どうにかなるさ。


 どうやら俺もすっかり間宮のエキセントリックさに毒されちまったらしい。

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