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~僕と海の底~

次に目を覚ましたら、洞窟のなかにいた。

洞窟の壁には青白い点が、いっぱいあって明るかった。

満天の星空のようだった。…とはいっても、こんな場所に見覚えはなかった。


「目が覚めた?」


ナゾのお姉さんは、僕のすぐ近くにいた。

ナナメにとがった三角形のサングラスをしていた。

うっすらと相手の色かたちを識別できた。

優しそうで芯のあるような声…でも、油断しちゃいけない。

まだ彼女を信用できない。


「だれなんですか? なんで肌が青色なんですか? ここドコなんですか? じいちゃんは? 妹はどうなんですか?」

「質問が多いわね…大丈夫よ。わたしはアヤシイものじゃないわ」

「いや充分アヤシイですよ!変なサングラス!夏なのにトレンチコート!」

「このサングラス、お気になんだけど…ランディアンには通じないのかしら?」


彼女はゆっくりとダサいサングラスを取った。紅蓮の瞳をしていた。

(あとは…うん、美人だ。そして、…いいにおいがしそう…。)

「わたしはカノン。よろしく。服装はカンベンして。日焼けしたくないの」


(まぁ、女の人が日焼けを気にするのはしかたない…かな…)


彼女に手を差し伸べられて、僕は身を起こす。

その手はヒンヤリと冷たかった。


(じいちゃん曰く、手が冷たい人は心が温かいらしいけど…)


子どもを知らない場所に連れてくる人を信用するなんてとんでもない!


「レイジです。質問に答えてください! なにか知っているんでしょ?」

「ごめんなさいね。言えないの」

「なんで?」

「そういう決まりなの」


まるで学校の規則のような言い方だ。

でも…決まりがということは、組織があるということか?

たった今、頭に思い浮かんだ疑問をそのままぶつけてみた。

「でも、『知らない』とは言わないんだね…」


彼女は押し黙った。これ以上、言及しても彼女の口数が減るだけか。


「質問を変えるね。なんで僕を連れてきたの? 」

「妹さんを助けるためよ。あの状態だと、妹さんはあまり動かさない方がいいわ」

「そんなにヤバいの?」

「動かさなければ大丈夫よ」

「…………」

「単刀直入に言うわ。わたしについてくれば、薬をあげるわ。どうする?」


(どうする…?じいちゃんのこともなにか知っているみたいだし…。大人しくしていれば、家には帰してくれそうだし…)


少し考えてから僕は答えた。


「…わかった。着いていきます」


あれこれ考えたけど、よく考えたら選択肢なんてあってないようなものだと思った。


「あの…家には帰れるんでしょうか?」

「ちゃんと帰してあげるわ。妹さんは動けないから、あなたに来てもらおうかしら。着いてきて」


僕はカノンさんの少し後ろをついていった。

知らない人にはついていくなと教わったけど、この場合はしかたがない…。

しばらくカノンさんのポニーテールを眺めて歩いた。 


「ここよ」


カノンさんが立ち止まった。目のまえには大きな水たまりがあった。

水面からサメの背ビレのようなものが見えた。それはこっちに近づいてくる。


「わわっ。サメだ」

「大丈夫よ」


サメは精巧に作られた機械だった。パッと見たら本物にしか見えない。


「さ、乗って。行くわよ」


言われるままにサメの後部座席に乗った。

目のまえにはジェット機の操縦席のようにたくさんのボタンやレバーがある。

何か面白そうだ。不安より、好奇心の方が強くなった。


「あっ、後部座席にもレバーやボタンがあるけど、勝手に触らないでね」

(バ……バレてる……!)

「あの…どこへ行くんですか?」

「海の底よ」

「へぇ~海の…底? ええええぇぇ!」


そして、僕は心の準備ができていないまま、お姉さんと海の中へ入っていった。

サメの乗り物は内部からは海中が上下左右ハッキリと見える。


(いったい、どういう仕組みなんだろう…?)


それにしても…綺麗だ。

オレンジのヒトデや、体を大きく広げておよぐ緑のカメ。 

黄色と黒のストライプ模様の魚。まるで水族館の海中トンネルのようだ。

上も、下も、右も、左も、いろいろな生き物が自由に泳いでいた。

上から降りそそぐ太陽の光がサンゴ礁や海中の生き物を煌びやかに魅せる。

そういえば、色で思い出した…。


「肌が青色なんて…はじめて見たよ」

「そう? ランディアン方こそまとまりがないわ。黒人、白人、黄色人種だもの」

「そっかぁ。あとコレ、よくできた乗り物ですね。はじめて見た」

「海中にはこういった乗り物がたまに紛れ込んでいるわ。治安維持のためにね」

「え? そうなの? 全然気づかなかった…」

「よく見ればニセモノだとわかるけど。水中にあるから、気づかないのね」

「あと、妹の病気は…?」

「あれはランディアンには治せない。でも、適切な治療を受ければ、大事にはならないわ。ただ、そのときの状況や症状を正確に聞かないといけないから…ついてきてもらうわね」

「はい。あの…この浜辺でじいちゃんがいなくなって…なにか知りませんか?」

「それは本当に知らないわ」


キッパリと言われた。


(じゃあなんだったんだ? あのもったいつけた言い方は…?)


海が水色から深青色に変わってゆく。かなり深く潜っているようだ。

目のまえでいろいろなものが点滅したり、メーターの針が動いたりしているが…


(まったくわからない…)


「あのこれからドコへ?」

「オルテンシアの街に行くわ。私はそこから来たの。まあ、行けばわかるわ」


まわりはだんだん深い青から紺色に変わっていった。

さっきまで周りにいた魚もほとんど姿が見えなくなった。

プールの中でみるチリのようなものしか見えなくなった。

そしてとうとう…真っ暗になってしまった。

暗闇を自覚した瞬間、僕はブルっと身震いをした。

夜のような暗さではなく、音も光も吸い込まれそうな闇のような暗さだった。

太陽の光すら届かない深海まで来てしまった。

このサメの目が照らす2つのライトだけが頼りだった。

カノンさんは目のまえのボタンをカチャカチャ押し、前方を確認した。

レーダー凝視し、それからゆっくり進みだした。


「…着いたわ。酔ってない?」

「大丈夫」

「あ、そうそう…これを付けてね」


彼女は黒い腕時計のようなものを僕に差し出した。

大人が着けている腕時計みたいだ。


「これを着けていれば、迷子になっても大丈夫よ」

「迷子って…あ、でも、ちょっとカッコイイ…何だろうこれ?」


僕は左腕の手首に着けた。いくつかボタンがついている。

僕を待たずカノンさんは話す。


「あとこれを耳に着けて。他の人と話せるようになるわ。他にも楽しい機能がついてるけど、それはおいおい説明するわね」


今度は赤いワイヤレスイヤホンのようなものをもらって耳に着けた。


「ん? でも、これ着けるまえからカノンさんとは会話できてたよ?」

「…その質問にもいつか説明するわ。じゃあ、着いてきて」


彼女はタメ息混じりに答えて歩き出す。僕も後ろをついていく。


薄暗い神殿のような内部をカノンさんと僕は歩いていく。

床は色ちがいの四角い石が交互に組まれている。

半球形のとても高く、大きな天井からボンヤリとさしこむ微弱な光。

壁には装飾がある。おそらくこの人たちが祀っている神々の彫刻なんだろう…。

彫刻の後ろの壁には何か文字がデカデカと書いてあるけど、読むことが出来ない。

歩くごとに次々とそれが視界に入っては消えてゆく。

いかづちを彷彿させる剣を右手で掲げ、天秤を持った険しい顔をした男性。

赤子を腕におさめて、慈愛の笑みを浮かべている女性。

背が高くガッシリした体格で、あごヒゲがモジャモジャの男性。

愛嬌良い笑みで酒とたくさんの金貨を手にして、喜んでいる躍動感あふれる若者。

弓を片手に、もう片手を妖精か何かに差し伸べる、美しく若い女性。

杖を持ち開いた書物を手にした頭の良さそうな老爺。


「まるで七福神みたいだ…」


たくさんの神がいるけれど、最後に見えた彫刻はわからなかった。

一言で表現するなら、死神のような彫刻だ。

他に比べてそこだけ背景は文字も何もない。

ローブを目深に身にまとい、性別も不明。

連想する言葉は闇とか負…。

特徴といえば、カンテラのような灯火を手にしていることだ。


(これらの像が意味するものは、信仰なのか戒めなのか…)


それとも、単に多神教なのか…といろいろ考察しながら歩いた。

けれどカノンさんは僕の考えなどおかまいなしにスタスタ歩いてゆく。

ほどなくして、カノンさんは立ち止まった。

蔓草の彫り込まれたアーチの下、重々しい鉄扉にカノンさんは手を当てる。


ギギイィィ…


軋みをあげる鉄扉の隙間から光が差し込んできて、ゆっくりと広がってゆく。

視界が一気に開けた。広大な湖に沿って石造りの都市が広がっていた。

古代か中世といった美しい曲線美の水道橋らしきのも見える。


「ようこそ、水の都オルテンシアへ」

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