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第一話『旅立ち前夜、ですわ〜!!』

恋愛は5話くらいから始まる予定です。よろしくお願いします。

「レイア……お願いだ。聞き入れてくれ」


「私はもともとそのつもりでしてよ。私の内側を知って顔を(しか)める殿方なんてこちらから願い下げですわ」


 定例のお茶会。婚約者と仲を深めるべく取り付けられた催しでの出来事だった。

 どうやら名家のおぼっちゃまのお眼鏡にはかなわなかったようで、私は婚約破棄を突きつけられることとなった。


 さっさと部外者(元婚約者)を追い出して、残ったお茶を一気に口へ流し込む。



「……お父様やお母様にどんな顔をすればいいかだけ、憂鬱ですわね」



 レイア・ウェブスター。16歳。顔は良い。頭もそこそこ。家は貴族の生まれで、父は辺境伯。悪い条件ではないはずだが、いつのまにか侍女達にすら心配されるレベルで婚約破棄を突きつけられる。その数なんと今回で7件目。



「やっぱり髪型……それでなければ性格かしら」



 金髪に縦巻きツインドリル。いわゆるコテコテのお嬢様ヘアーだ。本人やその家族こそ気に入っているものの、周囲からは『流行について行けていない人』扱いを受けている。

 古典的な髪型に、ガサツな性格……とどのつまりで言うところ、彼女は存在がギャグのようなものだった。


 メイド達にテーブルの撤収を命じ、父の執務室へと向かう。この時間帯ならまだ外勤には出ていないはずである。

 6回。これまでに同じ状況で廊下を歩いた回数だ。だが今回、レイアの面持ちは今までと違う。バツの悪そうな顔ではなく、どこか吹っ切れたような……スッキリとした顔立ちで、突き当たりの部屋の扉を叩いた。



「レイアですわ」


「そうか。入りなさい」



 キチンと手入れの行き届いた扉は音を立てずゆっくりと開く。まだ登り切らない朝日にてされて目を細めたが、すぐに慣れて仕事中の父へ視線を飛ばす。



「……また、か」


「また、ですわ」


「気に病まなくても大丈夫だ。きっとお前を理解できる者がじき現れる」


「そのことで一つ、提案がありますの」



 レイアの父……アルバートの目が見開かれる。無理もないことだ。レイアは幼少期こそ活発でよく自分から物を言う子だった。しかし年を重ね、周囲からの視線にさらされるにつれ、段々と自分を押し潰し、ありふれた同年代の子達へと溶け込もうとしていた。それでも婚約破棄を突きつけられ続けたのだから難儀な子だ。

 そんなレイアが、今ひさしぶりに自分の意見を口にしようとしているのだ。

 モジモジと居心地が悪そうにする彼女に、アルバートは何も言わない。黙って聞いてやるのがレイアのためになるとよく知っていた。



「私、旅に出ようと思いますの」


「ほう?それは何故?」


「自分が生涯添い遂げる相手を探すと言うのに、待っているばかりなのは可笑しな話だと気づいただけですわ」


「それで、自分から探しに行こうと言うわけか」


「その認識で間違いありませんわ」



 旅。はっきり言ってしまえば、危険すぎる。こんなでも年頃の娘だ。親として、心配に思うのは自然なことだろう。しかし、レイアの目に宿る決意は堅い。これは何を言っても引かない目だと、これもまた知っている。



「条件が二つあるが、それが呑めるなら、だ」


「なんなりと」


「一つ、絶対に相手を見つけて帰ってくること」


「問題ありませんわ」


「二つ、無事に帰ってくること」


「水臭いことを言いますのね」



 腕っ節は問題ないだろう。何せ彼女は国有数の格闘技の使い手として名を馳せるだけでなく、魔法も嗜むくらいだ。のびのびとやりたいことをやらせた結果だが、旅立ちを助けることになるとは。

 だが、この世界はどこもかしこも治安がいいと言えるわけではない。いるかも分からない人を探す旅だ。そう言ったところを通らない保証もない。



「緊張して損しましたわ。私以上に父上が緊張してどうしますの?」


「確かに、そうだな。旅立つのはいつにする?」


「明日の早朝。決意の揺らがないうちに出発しますわ」


「そうか。近くの街へ向かう馬車を手配しておく」


「恩に着ますわ」



 身を翻して部屋を飛び出すレイア。その足取りは軽く、ステップを踏むようですらあった。部屋に飛び込み、早速用意に取り掛かる。その後なんとか荷物をまとめ、興奮冷めやらぬまま眠りにつくのだった。

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