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海の民

 その年、海沿いの街には彼方の島から海の民が来ていた。


 街のはるか沖に浮かぶ群島。そこを治める海の民。

 その長の息子・ナダンと側近達である。



 ナダンは以前から空のエルフと呼ばれる雲の民に興味があった。

 彼の乳母が雲の民の出身で、乳兄弟であるアナンとともに雲の民の話を聞いて育ったためだ。


 彼らは雲を操ることができるらしい。

 もしそれが可能なら航海も楽になる。

 雲の民を支配することができれば、兄を押し退けて自身が長になることも可能だろう。


 そう考え、雲の民がやってくるというこの時期に海沿いの街へとやってきたのだ。





 ナダンは雲の民が近づくと聞こえるというハープの音色を耳にすると、宿屋から飛び出した。


 そこには空を覆わんと広がる白い雲。


 その雲の上から次々と舞い降りてくる白い翼の美しい種族。

 早くに亡くなった、美しい彼の乳母によく似た姿。

 ナダンはすっかり彼らに魅せられてしまった。


 あれを、あの生き物を自分のものにしたい。


 支配して、閉じ込めて、頭を下げさせて自分を讃えさせたい。


 ナダンの頭の中はそんな欲望でいっぱいになった。






 そこで彼は、雲の民にまず取引を持ちかけた。


 雲の民と海の民はこれまで取引がない。

 雲の民はなぜか海上へは出ようとしなかったからだ。



 海の民にしてみれば、年に一度、大陸の街に、それもほんの何日かだけ滞在する民だ。

 昔から雲の民には手出し無用と定められていることもあり、その数日のためだけに海を渡って会いにいく気にもならなかった。



 ナダンはこれを、自らが毎年、大陸へと足を運んで交流を持とうと言ったのだ。


 一族の長達はこれについて、ナダンの為人(ひととなり)を確かめたいと宴席に招かれてともに食事をした。


 ナダンも側近も気持ちの良い印象ではあったが、どこか信用し切れないものを感じた長達は返事を保留した。


 




 2日後、いつもよりも予定を早く切り上げて移動を始めようとした一族の元へ、「次の町へ行かれる前に」とナダンから面会の願いが入る。

 無碍(むげ)にもできず数人の長だけで向かい、求められた答えには「また来年お会いいたしましょう」と伝えた。


 するとこれにナダンの態度が一変し、「雲の民は礼儀を知らぬ」と長達を怒鳴りつけ、剣を抜いた。

 ナダンが頭を下げて頼んだにも関わらず、これを一顧だにしないとは何事か、と。


 長らは自分達の命を囮に一族が逃げられるなら、と覚悟をしていたが、部屋の奥から連れてこられたのは一族の若者達だった。


 その首には奴隷の首輪がはめられていた。


 雲の上の安全な場所にいたはずの彼らがなぜ、と驚愕していると、その背後から1人の青年が現れた。

 アナンだ。その傍らには大きなハープが一台置かれている。


「なぜそのハープがここに!」


「申し訳ありません、長様。ササナの息子と聞いて、村に招いてしまいました」


 元雲の民であるアナンの母は、海を渡って嫁ぐことを決めたため雲の民としての力を封印された。

 そしてそのせいなのか体が弱く、数年前に重い風邪をひいて亡くなっている。

 アナンは母の力を奪い追い出した雲の民を憎んでいた。


 母から習った歌で雲の民に呼びかけ、村へ入り込んでハープを奪ったのだ。

 魔法のハープが雲の民のなにより大事な宝である事を、アナンは知っていた。



 ナダンは機嫌良く長に首輪を渡す。


 こうして雲の民は海の民の、いや、ナダンの手に落ちた。













 

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