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02.(長期休暇と、)送迎依頼-1

ハルラックの街、若葉風通り。


青鳥の止まり木、の文字が躍る鳥を象った看板。その下の扉を、軽薄さを捏ねて作られたような青年が、茶髪を揺らしながら機嫌良く潜る。


「おっす〜……って、え、なんで出かける準備してんの?」


視線の先には5人の男女。皆、手入れされた武器を腰やら肩やらに下げながら、今まさに依頼のために出かけんと立ち上がりかけていたところであった。


「あ、マスダ」

「何って、これから依頼こなしに」

「依頼って、は? 俺は!? 俺も行く!」

「え、良いよ」


軽く断られ、堪らず絶句しかける口を何とか動かす。


「な、なんで……? ……え、まさか噂のパーティ追放ってヤツ……? 俺なんかした!? めちゃくちゃ役に立ついたら超便利ポジじゃね!?」

「お前の軽さと調子乗りなところとたまに見せる人でなしっぷりには呆れることもあるけど」

「リーダー!?」

「落ち着けってば」


リーダー、と呼ばれた女は、肩ほどで切り揃えられた黒髪を払いながら、凛とした穏やかな口調で続けた。


「今回のはそこそこ重い依頼だけど、マスダに頼るほどじゃないってだけ。お前は器用だし強いからつい頼ってしまうけど、頼りっぱなしというわけにもいかない。だから、自分たちの成長のためだと思って、今回は休んでいてくれ」

「リーダー……。……ちなみに、どんな依頼なん」

「遺跡調査の護衛依頼だよ。ゲイザーとか出る」

「そんな楽しそうなのに! 連れて行ってくれないの!?」


遺跡といえば、ダンジョンのような複雑な構成に仕掛けられた数々の罠が付き物だ。マッピング能力はもちろん、観察力や罠を解除する技量も求められる。ゲイザー、と呼ばれるのは「目玉のモンスター」だ。大きな一つ目であったり、球体に複数の目がついていたりと目の数に差はあれど、基本的な能力は変わらない。充填した強力な魔力による、一撃必殺とも言える石化能力だ。魔法防御力も高いので、次々と放たれる石化魔法を避けながら、物理的に攻める必要がある。

器用さに敏捷性。そして大胆かつ的確に急所を攻める物理攻撃。

どれもがマスダの得意分野だった。暗殺者みたいだな(笑)とはパーティメンバーの談である。


「喧しいぞマスダ」

「リッちゃん〜〜」

「リッちゃんと呼ぶな」

「痛っ」


長髪を一つに束ねた青年が、黒の手袋に包まれた指先でデコピンをかます。布ごしにそこそこに良い音を立てて、マスダは額をおさえた。


「今回のお前の役目は留守番だ。聞き分けろ」

「……依頼料は」

「…………帰ってきたら奢ってやろう。分かったな」

「はーい……」


テーブルに突っ伏すマスダの頭を叩いたり撫でたりしながら、一行は出発していく。どんよりと凹んだ様子を隠さぬマスダを憐れんで、青鳥の止まり木のマスターはそっとブランチを並べるのだった。



「なるほど。依頼料入ったし暫く来ないかも! なんて可愛らしい幼子のように飛び出した子が、その日のうちに戻ってきたと思ったら」

「置いてかれて拗ねてる、と」

「……亭主殿もシクストもさあ、慰めてよ。可哀想な俺を」

「パーティ追放じゃなくて良かったね」

「人でなしめ」


ハルラックの街、卓越風通り。

バーと冒険者ギルドを兼ねた白の薄氷亭のカウンター席で、マスダはまだ陽も落ち切らない内から管を巻いていた。隣に腰掛けるシクストと呼ばれた白髪(はくはつ)の男が、真紅の液体に満ちたグラスを呷りながら笑う。慰めの色は一切見られない。


「時間が空いているなら、君も依頼を受けたら?」

「えー、二人で受けられそうなのある?」

「なんで僕を頭数に入れてるの」

「寂しいから」

「めんどくさいから今日は嫌」

「俺がこんなに寂しがってるのに?」

「可哀想だね〜」


シクストには軽くあしらわれ、渋々と依頼書の並ぶ掲示板へと向かう。数杯のアルコールは、几帳面に並べられたそれらを読むのを阻害するには値しなかった。


「……お、変なの発見」


そのうちの一枚に、手を伸ばす。


〜子供の送迎願い〜

対象:子供一人

詳細は契約完了後、下部スペースに出力されます。

報酬:2000R

キャンセル:× 期限:今晩


「怪しさ満点じゃん。亭主殿、何これ」

「見ての通り。金払いの良いお客様でね」

「わーさすが金の亡者」

「ふふ、人聞きの悪い。これで受けるのは難しいとはお伝えしたよ」

「それ言わなかったら詐欺も良いところでしょ。……え、受けるの?」


依頼書へ迷いなくサインするマスダに、シクストが呆れた様子で視線を向ける。


「受ける受ける。一晩時間潰せて、2000R。金払い良いなら増額も狙えっかな〜」

「……拗ねてるマスダってめんどくさいな」

「うっせ。っつーわけで夜通し起きてなきゃだから付き合って」

「えー……まあ、日付変わるまでなら良いよ」

「……そろそろお店を開けるから、部屋でやってね」

「え、手伝うよ」

「お気持ちだけ」


酒瓶を数本とグラス一式を押し付けられ、マスダはのろのろと階段を上がる。冒険者達の寝泊まりする宿の役目は、上階に収められている。


「遠慮しなくてもいーのに」

「お前、バー似合わないからなあ」

「いや似合うでしょ」

「安っぽい酒屋でビールジョッキ持ってる方がしっくりくる」

「……まー、そういうの好きだけどさあ」


夜は更けていく。



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