麻婆豆腐
麻、辣、香、湯、色。
麻とは、花椒の舌の痺れるような辛さ。(※花椒:中国山椒)
辣とは、唐辛子の燃えるような辛さ。
香とは、ニンニクや豆板醤、花椒等の香り。
湯とは、鉄鍋のフチが焦げるほどの強烈な熱さ。
色とは、豆腐の白、辣油や豆板醤の赤、ニンニクの芽の緑、この3色の美しいコントラスト。
この5つの要素(味)が絶妙に合わさり、一体となる事を『(麻婆豆腐の)五味一体』と言う。
そう。
麻婆豆腐とは五味一体なのだ。
空腹と言うスパイスも加わり、私の口の中は唾液で今にも溢れだしそうだ。
まずは見た目。
唐辛子の赤いマグマには、純白の1口サイズの豆腐と、細かく刻まれたニンニクの芽。
お皿の中には、活火山の火口を覗き込んだ様な力強さと、3色の見事なコントラストが広がる。
見た目だけで心が踊り出す様な高揚感が得られる。
次に香り。
花椒の爽やかな中に少しの酸味を感じる香りと、私の食欲をこれでもかと掻き立てるニンニクの芽の暴力的な香り。
その香りは私の鼻腔を通り、脳へと突き抜ける。
私の理性の鎖に繋がれた食欲と言う猛獣が、その見た目と香りによって拘束が破壊され、表面上に現れる。
我慢出来る人間は居るのだろうか?
愚問だ。
居るわけが無い。
レンゲを掴み、豆腐を崩さない様にそっと掬い取る。
レンゲを目の前に持ってくると、目の前が真っ白になるほどの湯気が立つ。
ふーふーと息を吹きかけ、我慢が出来ないとレンゲを口に入れる。
熱い!
ハフハフと口の中に冷たい空気を送り込む。
そして豆腐の甘さと甜麺醤の豆の旨みが口に広がる。
そしてすぐにやって来るのは舌がビリビリと痺れるような花椒の辛さ。
舌が痺れて麻痺をしてしまったかのような辛さが舌を襲うのだ。
そして最後にやって来るのは唐辛子の灼ける様な辛さ。
口の中全体を、そして喉を灼き尽くす辛さが私を襲う。
唐辛子のカプサイシンの作用で汗が出てくる。
だが、手は止まれない。
痺れる様な辛さ、燃える様な辛さの中に、後を引く旨みとニンニクの芽の香りが私を次の1口へと掻き立てる。
そしてもうひと口食べた時に感じるのは豆腐の優しい味。
口の中の辛さを忘れさせてくれる。
豆腐の優しさが口の中に広がる。
あぁ、まさに純白の羽を持つ天使。
だがその後には舌を麻痺へと誘う花椒、そして全てを灼き尽くす唐辛子。
そしてその中にあっても主張し続ける旨味。
辛さと優しさと旨味が織り成す味覚の三重奏。
そこに花椒とニンニクの芽の香りと、3色のコントラスト、そしてとろみによって熱々の熱が封じ込められている。
五感の内の味覚、嗅覚、視覚、触覚が刺激され、まさに情報のオーケストラコンサート。
そしてその全てが『美味い』を私に与えてくれる。
止まらない。
止まらない。
手も、口も、そして汗も。
そして辛さが少し辛くなった時に食べる白米。
豆腐とはまた違った優しい甘さが口の中に広がる。
これでまた戦える。
第2ラウンドの始まりだ。
………
……
…
何ラウンド戦ったのだろうか?
気が付けば麻婆豆腐のお皿とお茶碗は空っぽになっていた。
汗を拭き、デザートに頼んでいた杏仁豆腐で口の中を癒す。
ふわぁぁぁ……
聖女の癒しの力や。
口の中があっという間に癒されていく……
元々四川省は暑く湿度も高いらしく、麻婆豆腐でいっぱい汗をかいて体調を整える効果があったとかなかったとか。(詳しくは知らんけど)
ただ少なくとも、麻婆豆腐食べた後って『また食べよ!』ってなるよね!
麻婆豆腐って定期的に食べたくなりますよねーw