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第二話 二番隊

二話目です。不定期ですが、よろしくお願いします。


悠改め、アリス・ブラックボードは様々な情報を集め、整理していた。


まず一つ目。

今の彼は十歳。ゲーム開始時、士官学校に入学するころは十六歳なため、今はシナリオ開始から六年ほど前と言うことになる。


二つ目はステラとのことだ。

彼女と出会ったのは数日前で、十歳になったことで訓練を受け始めたアリスの世話役として派遣されたらしい。同い年の彼女は、この組織において少年兵部隊に属しているようで、訓練中の事故で意識を失っていたアリスを介抱していたのもステラだった


「おお、ようやく起きたか。少し小突いただけで何日も意識不明なんぞ、軟弱な野郎だ」


そしてアリスを罵倒してきたのは、野太い男性の声だった。数名の女性を侍らせ、葉巻を口に咥えており、宝石のついたアクセサリー類をジャラジャラと全身に纏っている。

汚らしい体毛が派手な服の隙間から漏れだし、アリスは男に不潔な印象を覚えた。

だがしかし、その男をアリスは知っている。正確に言えば、アリスの記憶が記録しているのだ。


「どうも、お父さん。おかげさまで、もう大丈夫です」


アリス・ブラックボードの父親。グロス・ブラックボード。それがこの男の名前だった。BBの社長として財務を一手に仕切っている社長で、愛人であるアリスの母に彼を生ませた張本人。


「なんだ、気持ち悪い喋り方しやがって。まぁいい。それよりもこれを見ろ」


そう言ってグロスが渡してきたのは、少し大きめのタブレット端末だった。映っているのは帳簿のようで、細かい数字が並んでいる。それが何のために使われた金銭なのかはしっかり見ないと分からないが、少なくとも片手間で動かせる額でないことは確かだ。


「分かるか、てめえらガキどもに使われてる無駄金だ。こんだけ賭けてんだから、相応の働きをしろ」

「それをどうして俺に?」

「てめえにやった部隊だからに決まってんだろうが。記憶まで吹っ飛んだかクソガキ」


なるほど、とアリスは納得した。


ここでは自分の存在はあまり歓迎されていないのだ。シナリオ上では親の力を使って学園内で好き勝手していたが、実際に家ではどんな扱いをされていたかなど聞かされていなかった。

それがこれでは、確かに外部で発散をしたくなるのも仕方がないと言えば仕方がないだろう。


「聞いてんのか!」


グロスが反応のないアリスを怒鳴りつける。子供風情が自分を無視することに腹が立ったのだろうが、当の本人は欠伸を我慢するのに必死だった。


「あ~、はい。承知しました。それで、俺はどの隊に?」


出来るだけ怒らせないように、と口を開くのだが、意識がハッキリしていない今の状態では難しい。落ち着き払った丁寧な口調が、逆に怒りを買ってしまったようだ。

その証拠に、酒がまだ半分以上入っていたグラスが投げつけられ、額に鈍痛が生まれる。切り傷にならず、血が出なかったのは幸いだっただろう。


「なんだてめぇ、ガキが図に乗ってんじゃねえぞ!」


アリスは前世で似たような大人を相手にしたことがある。中学の体育教師に、体調が悪いから見学させてくれと言ったところ、グーで調子に乗るなと殴られた。


今のグロスはそれと同じようなものだ。勝手に相手が自分のことを見下していると錯覚して、勝っている点で押さえつけようとする。

典型的なダメ人間の行動。


「……すいませんでした」


こういった手合いは適当に謝っておけば優越感を抱いて引き下がってくれる。事実、今回も同じようだった。

荒くしていた鼻息を落ち着け、アリスの下手な態度に気分を良くしたのか新しいグラスを取り出して度数が高い酒を飲み干す。


「フン、まぁいい。とにかくてめえは二番隊でガキどもの世話だ。さっさと行け」

「じゃあ、失礼します」


ペコリ、とお辞儀をして部屋を出る。面倒なものが親として設定されていると溜息を吐いたアリスは、そのまま建物の廊下を歩いていった。

まずは、彼が言う二番隊とやらに合流しなければならない。


**********


二番隊ドックまで辿り着いたアリスは、隊員である少年兵たちに歓迎されていなかった。


「なんだよあいつ、クズ社長の息子だろ?」

「この前も少し虫車に乗っただけで気絶しやがって」

「おかげで飯抜きにされたの俺たちだぜ」


同い年程度の子供たちからは彼に対する非難の声しか聞こえてこない。配属されたのは数日前だと聞いていたが、印象は最悪と言っていいだろう。

話しかけようにも、答えてくれそうな相手は一人としていない。

どうしたものかと溜息を吐き、ドッグの中を歩いていく。アリスの視界に入ってくるのは、やはり誰も彼もが少年兵で、目が合った瞬間に憎悪にまみれた眼光を向けてくる。


そんな彼らが弄っているのは、自らが命を預ける鋼の重機だ。戦車のキャタピラを伸長して足のようにし、両脇から伸びる腕には指ではなくライフル銃が装備されていた。


「これが虫車(ワーム)。まさか実物を見れるなんて……」


アリスは感動まで覚えていた。当たり前だ。これをデザインしたのは彼自身なのだから。

依頼主から、戦車を竜騎士のなり損ないのようにしてくれと言われ、数日間悩んで作り上げたデザインだ。虫車、という名前すらも気に入っている。


涙が浮かびそうになるのをこらえ、立ち尽くしているとコツコとドッグの中を歩いてくる音が耳に入ってきた


「こんなのを見て感動してるなんて、若様はどうやら変わり者のようだね、ステラ」


振り向くと、そこにいたのはステラともう一人の女性がいた。十歳やそこらの子供たちばかりの中では、年長と言える彼女は、黒く髪を短く切り揃え、スレンダーな体型をしていた。だがしかし、彼女は制作の段階で見たことは一度もない。つまりはメインストーリーに関わってこない類の子なのだろう。


「えっと、ステラに、あの、あなたは?」


名前も知らない彼女へと名前を尋ねると、人当たりの良い笑顔を向けながら恭しく礼をした。


「これは失礼、若様。二番隊の隊長を務めさせていただいております、クロエです。これからどうぞよろしくね」

「あ、ど、どうも。アリスです」


丁寧な挨拶に応え握手を求めるが、クロエは答えることなくへらへらとした笑みを返している。行き場を失った手をどうしようか悩んでいると、隣にいたステラが軽く咳払いをした。


「それでは、用が済みましたのなら失礼します。隊長」

「はいよ。ご苦労様でしたステラ副隊長」


敬礼をしたステラは、淡々とした声音でその場を後にする。彼女がアリスへと向けてきた瞳は終始冷ややかで、少なくとも好意的な感情を抱いているとは思えなかった。


「嫌われて、いますね……」

「まぁね。周りを見ても分かる通り子供たちは自分よりも幸せそうな、甘ったれな奴を憎んでいるから。しょうがないよね」


幸せそうに見えているのだろうか。


甘ったれに見えているのだろうか。


アリスはほんの少しだけやりきれない感情を持つと、ふとした疑問が浮かび上がった。


「あの、じゃあクロエさんはどうして?」


子供たちの長ならば、同じ様に嫌悪感を剥き出しにしてきてもいいくらいだ。しかし、クロエはどちらかと言えば好意的に、とまではいかないものの会話をしてくれている。


「ああ。若様って、その内ここの社長になるんでしょ?」

「それは……」


どうだろうか。少なくとも先ほどのグロスの態度を見ている限りではアリスに継がせるような雰囲気は無かった。むしろ、二番隊という少年兵たちの部隊に入れることで、訓練の名目上始末しようと狙っているように思える。


「だから、いまのうちに媚び売って将来的に良いポジションに付けてもらおうってね」


打算的な話に聞こえるが、笑顔や声音から気を使ってくれているのだと分かる。僅かな安心感で笑みを浮かべたアリスだったが、周囲から浴びせられる眼光に背筋を凍らせる。

これが、前世ではあまり感じることがなかった敵意というものなのだろう。


「おいおいクロエさん、こんなヘタレに媚び売ったって無駄になるに決まってるだろ」


その視線の正体は、少し厳つい少年だった。背丈もアリスより頭一個分大きく、目つきが悪いスポーツ刈りの彼は、侮蔑の視線を隠すことなく見下ろしてくる。

彼にも見覚えは無い。いや、この世界(ゲーム)の完成品を見ればいたのかもしれないが、彼が持っている限りの知識では見たこともない。


「おいレイド。いちいち絡んでくるなよ鬱陶しい」


クロエに話しかけているのだが、当の本人は辟易とした様子で彼、レイドをあしらっている。

それが気に入らなかったのだろうか、しつこく食い下がってくる。諦めの悪さは相当なようだ。


「そうは言うがよ、虫車を見て泣き出すようなガキが、いったい何の役に立つっていうんだ?」

「ガキって……対して年齢も変わらないじゃない。いくつになったんだっけ?」

「うぐッ、じゅ、十二だよ。二個も年上だ!」


意外にもまだまだ子供だった。


「はいはい。私から見ればアンタらはみんなガキだよ」

「俺はガキじゃねえ!」


アリスを挟んで繰り広げられる口論は次第に激化していく。レイドが口汚く罵れば、クロエの飄々とした軽口があしらう。アリスに向けられていたはずの罵倒の言葉が互いに向いていく。せめて他所でやってくれれば逃げ出すこともできただろうが、頭上で行われれば無視できるわけもない。


「あ、あの!」


声を張り上げる。裏返らなかったにしても高い声にアリスは驚いたが、一番驚いたのはクロエとレイドだった。


何を言えばいいのか考える。


考えるが幼くなった脳みそでは言えることなど限られている。簡単に注意を惹くことは出来たが、頭が回らずパクパクと口を開閉させるだけだ。


「と、とりあえず、落ち着きません?」


選択としては最悪だった。落ち着いていない相手に落ち着けなど、神経を逆撫でする行為でしかない。そのせいで、熱くなっていたレイドはアリスの胸倉をつかみ上げる。対して年齢が変わらないと言うのにこの膂力は予想外だった。


「てめえ、ふざけてんのか!」


呼吸が苦しくなる。シャツの襟が締まり、下手をすれば首が折れてしまいそうだ。だがここは謝罪して逃げ出す場面ではない。向き合い、話をしなければアリスの二番隊における立場はより悪くなる。


「……は、なせ」


絞り出した声はか細く、力も籠っていない。前世でも身体は小さく度胸も無かったが、いまのアリスの身体はそれ以下だ。最低ランクと言ってもいい。

だが、感じるのは甘やかされたことによる贅肉などの重さではない。むしろ、逆。


そう、まるで。


そこまで考えが纏まってきた時、レイドの身体をクロエとは全く別の方向から蹴り飛ばす、水色の影があった。


鋭い一撃は大柄なレイドに直撃し、ドッグの床へと転がしていく。


「喧嘩ですか、レイド。隊長に噛みつくのは止めなさい」

「クッソ、てめえステラ! いきなり何しやがる!」


割って入ってきたのはステラだった。先ほどまでの露出度が高いシャツではなく、身体のラインが出るパイロットスーツを着ている。確かに肌は見えていないが、逆に淫靡な雰囲気を感じさせた。


いや、そんなことよりもだ。


「若様が隊長に構われているのがそんなに羨ましいですか? 素直にならない男は嫌われますよ」

「べ、別にそんなんじゃねえし! 年下のくせに生意気なんだよ!」


あちこちで整備などをしていた子供たちが集まり、騒ぎ始める。


空気は数舜前までの殺伐としたものから変わってはいるが、これではお祭り騒ぎだ。収めようにも収まらない。


だが、そんな空気を再び変えたのは手を叩いて注目を集めたクロエだった。


「ったく、どいつもこいつも血気盛んなようですからぁ、いまから一時間後に模擬戦始めるよ! 虫車を使っての三対三でね!」


ガス抜きでもするのだろうか。何にしろ、話題はステラとレイドの喧嘩よりそちらへと逸らされた。アリスもホッとし、模擬戦に巻き込まれないために逃げようとしたが、すぐさま首根っこを掴まれて中心に引きずり込まれる。


「こっちは私とステラ、それからこの若様でいくよ」

「上等だ! そんな甘ったれ、捻り潰してやる!」


思わぬ方向に流れていく話についていけず困惑するアリスは、助けを求める様にステラへと視線を向ける。



「…………」プイッ



当たり前な話だが、助けてくれるわけも無かった。


「最悪だ……」


そのうち、ゲームのタイトルとか細かい世界設定とか、纏めて載せたいですね。

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