表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

プロローグ

とりあえず書いてみました。よろしくお願いします。


岩山や荒れ果てた大地が広がる荒野。その中を、人よりも数倍大きな何かが駆け回っていた。その何かは、戦車のキャタピラを足のように稼働させ、両脇に装備しているライフルを爪や拳のように振るっている。

それとは別に、戦車より一回り大きな人型の鎧が盾を構え、鉄斧を振るっていた。十メートル近くある緑色の装甲に一つ目の鎧は、脚部に取り付けたスラスターを噴かせ、向かってくる戦車を踏みつぶしている。

戦車の部隊は数こそ鎧を勝っているが、火力も装甲も、何もかもが届いていなかった。両脇のライフルを放っても盾で防がれ、決死の特攻をしても振り下ろされた斧で両断される。

 

絶望的な状況を、少し離れた場所に位置する戦車から指示を飛ばしている声があった。


「C―1、右に大きく旋回し足元に射撃。O―9、動き回って敵魔獣騎(エインヘリヤル)を引き付けて!」

 

凛とした、高い少女の声だ。焦りを感じさせないように感情を乗せずに指示を飛ばしているが、隠し切れずに声音がきつくなってしまう。

水色の一まとめにした髪を耳にかけた頬には汗が流れており、戦車内の熱気が薄いスーツをピッタリと吸い付かせ、凹凸のハッキリした肢体が揺れている。


『ステラさん! 虫車(ワーム)部隊、半数が瓦解、一番隊に至ってはもう逃げ出してます!』

 

インカムから声が聞こえてくる。十代であろう声変わりしきっていない少年の声だ。少女、ステラとは違い焦りや恐怖を隠すこともない彼へと返答を返そうとするが、爆発音と共にノイズの嵐へと消えた。

彼女の視線の先で、一機の戦車、虫車が蹴り飛ばされる光景が浮かび上がる。

 

また死んだ。自分の指揮で、仲間がまた一人死んだ。

今にも涙を流し、泣き叫びそうになるのをステラは必死にこらえながら、生き残っている戦車、虫車へと指示を飛ばしていく。散開、包囲、牽制、迎撃。口にするだけならば簡単だが、この死地で出来ることは限られている。

圧倒的な戦力差を前に、死なないように立ち回るか、特攻を仕掛けるかしか道が無い。そうしている間にも、一両、また一両と竜騎士によって潰されていった。


どんな戦略を用意しても、戦術によって滅茶苦茶にされてしまえば意味がない。


「こんなの……どうしようも……」

 

涙で滲んだ声が漏れ出ると、幾重もの悲鳴がインカムを通して聞こえてくる。虫車内のモニターを見れば、味方を示すアイコンは三分の一も残っていない。

彼女は頭がいい。だからこそ指揮官を任されており、それ故に全滅するまでの残り時間を正確に導き出すことが出来る。

このままでいけば、一時間もしないうちに自分のところまで敵部隊が辿り着き蹂躙されるだろう。


何か一つでも、敵味方予想できない何かが起こってくれれば。


そんな奇跡を求めても、世界は都合よく出来ていないことを彼女は知っていた。両親を失い、少年兵として生きてきた今日まで、奇跡を願って実現したことなど一度たりともない。

もしもこの世界を作った神と言う存在がいるのだとしたら、きっととんでもないほどの異常者だ。出会うことが出来たのなら、操縦室においてある拳銃を突きつけて頭を吹き飛ばしている所だ。


だがもしも、もしも神の筋書きを覆す悪魔や、獣が現れてくれるとしたら。そう願った時だ。インカムに悲鳴や破砕音以外の声が聞こえてきた。


『ステラ、聞こえるか』


それを聞いたステラは目を見開き、顔を上げる。


「ッ、もしかして、若様?」


成人もしていないが、どこか大人びた落ち着きを宿した少年の声だった。ステラが慕い、尊敬しているその声を聴いた瞬間、彼女の表情は綻び涙が流れる。

この乱戦の中で死んだと思っていた相手の声だ。気が緩んでしまってもおかしくはないだろう。


『被害状況を教えてくれ。大まかにでいい』


要請通りにステラは把握している範囲で被害を声の主へと伝えた。するとギリっという歯を食いしばる音が聞こえ、数秒の沈黙が流れた。何を思い、何に怒っているのか彼女には手に取るように理解できる。


『今から送る地点に竜騎士を誘導してくれ。あと五分で合流する』

 

それだけを言うと、通信は切断された。

無茶な要求だった。だがステラは考えを巡らせて声の願いを叶えようと覚悟を決める。指示を飛ばし、指揮官機である自分の虫車も前に出して攪乱を始める。

もしかしたらと言う願いと共に、彼女は命を懸けて動いていった。




通信を切った少年は、戦場となっている荒野の地下を歩いていた。黒いジャケットに血色のいい顔立ちは、虫車を駆り戦っている少年少女とは違い育ちの良さを感じさせる。

だが、瞳には怯えや恐怖は微塵も浮かんでおらず、黒く揺れ動く剥き出しの怒りだけが残っていた。

彼が向かっていくのは、逃亡用に最初から確保されていた道ではなかった。むしろ、真っすぐ先ほどの通信でステラに命令した地点へと向かっている。


「この調子なら、運命(シナリオ)の通りにことが進む……そのまま行けば敵国の傀儡にされ、三年後には反逆者として死刑か……笑えねえ」


彼の言葉には、不明瞭な点が多かったが、それを聞く誰かなど一人もいない。もともとは、彼の最低な父親が率いる部隊がいた場所だが、今や少年しかいなかった。

いや、一人だけと言うのはいささか語弊があるだろう。

 

より正確に表現するのだとしたら、一人と一騎(・・)だ。


黒い装飾を施された巨大な騎士甲冑が、日の光が窓ガラスを通して照らした元に膝たちとなっている。

十メートル近くはあるそれを見ながら、少年は口元に獰猛な笑みを浮かべてジャケットを脱ぎ去った。

彼が身に纏っているのは、巨人と似たような紋様を持っている独特なスーツだ。ダボッとしており、明らかにサイズが噛み合っているとは思えない。

 

しかし、手首にあるボタンを押せばサイズが収縮し、ピッタリとしたパイロットスーツへと生まれ変わる。肩周りや各所に衝撃を吸収するパッドが入っているのだろう。それは、彼が戦うことを決めている証拠だった。


「運命なんて、今も昔も口にしないつもりだったんだけどな……」


呟きに答える声は無い。その代わりに、彼を見下ろしていた黒い騎士が、魔獣騎の瞳が赤く光を帯びた。血と同じ赤い光は、不穏な空気を纏っていたが、それが何よりも少年には心地よく、誇らしかった。


「さぁ、運命とやらをねじ伏せてやろう。バハムート」




自分を護衛すると言っていた虫車が、また一機撃墜されるのを、ステラは視界の端で捉えていた。また死んだ。そう嘆いても失った仲間は返ってこない。

 

ならば思考を巡らせろ。立ち止まるな。涙を流し、死者へと謝罪するのなら後でも出来る。今やるべきことは、少しでも彼女が慕う彼の人(・・・)の願いを叶えることだけ。


「三番隊、四番隊は負傷者を保護して後退。五番隊は敵虫車隊を牽制しながら後退。あとは私が何とかするから、死なないことを考えて」


淡々とした口調でも、彼女の優しさは伝わっている。だからこそ、護衛の虫車は逃亡しないのだ。あと少し、あと少しで指定された地点へと辿り着くことが出来る。

それで状況が変わるという確証はない。保証もない。だが僅かであっても可能性があるのならば、そうステラは操縦桿を倒して虫車を加速させた。

 

だが、だとしても虫車では魔獣騎を振り切ることなどできない。

 

スラスターの数も、火力の差も何もかもが違うのだから当たり前だ。単眼が左右に蠢き、ゆっくりとステラを見下ろしてきた。


『王国騎士を相手に粘った方だが、所詮は帝国の虫けらだな。もう逃げ場はないぞ』

 

魔獣騎から高慢ちきな声が聞こえてきた。オープン回線で聞こえてくる侮蔑の言葉にステラは何も言わない。正体不明の敵がどこに所属していたか分かったとしても関係ないからだ。

振り下ろされた鉄斧が大地を砕き、砕かれた岩盤が虫車の足を止める。直接狙わなかったのは、遊んでいるからだろうか。


だとしたらそれは好機だ。目標の地点まで数十メートル。その程度ならば走っても辿り着く。死なないために死地に躍り出るなど愚かに聞こえるが、彼女にはそれしか選択肢がない。


キャタピラが砕け、動けなくなった虫車から抜け出すと、拳銃を握って走り出す。


『虫けらめ、無様に這いまわってみろ!』


振った鉄斧が岩盤を砕き落石の衝撃がステラを襲う。細い体では耐えきれず吹き飛ばされ、硬い大地へと放り出されてしまう。衝撃を吸収するスーツがあるとはいえ、痛みが無いわけではない。頭部など正にそれだ。


痛みが走り、意識が霞んでいく中でもステラは歩くことを止めなかった。

 

もう少し。もう少しと歩いたその時、遂に足が動かなくなった。流した血と緊張による精神的疲労、それらの負荷が一気に来たのだろう。


『終わりだ。私の栄光の礎に成れ』

 

振り返った先で単眼の魔獣騎が鉄斧を構えていた。命を刈り取る鎌のような姿を見ても、ステラの瞳は死んでいない。


「私は、まだ、終わってない!」


拳銃を突きつけ、引き金を引いた。無駄な抵抗ではない、自らの誇りを守るための銃撃を放った、その時。


『ああそうだ。何も、終わってない』


外し忘れていたインカムに声が聞こえてくる。請い、願った少年の声。そして、それが合図となったかのように、どこかから巨大な影が現れた。


漆黒(・・)が、単眼の魔獣騎へと襲い掛かる。


十メートル近くはある装甲は鋭角的なシルエットを描いており、童話に出てくる魔竜のような印象を相手に与える。

鉄斧を構えていた単眼の腕をつかみ上げ、もう片方の腕も同じ様に動けないよう拘束していた。


『な、なんだきさ』


声は最後まで聞こえてくることは無かった。


漆黒がその胸部に膝を叩き込み、跳躍したまま連続して蹴り飛ばしたからだ。巨体に似合わぬ軽快な動きに後退した単眼を見て、漆黒が背中に装備されていた翼のようなスラスターを噴かせた。青白い炎を纏い加速すると、握っていた大剣を引きずりながら斬り上げた。

鉄斧で受け止めれば、金属同士がぶつかり合う音が響き渡る。

鍔迫り合いは獲物の違いが影響したのだろう。

大剣が鉄斧を叩き潰し、残っていた盾すらも破壊する。


そして遂に振り下ろされた刃が火花を散らすと、断末魔を聞くこともなくコックピットを潰された単眼が膝を着く。


あっけない幕引きに何かを言うものはいない。


ただステラは、漆黒の魔獣騎を見ながら口元に笑みを浮かべるだけだ。

 

二本の角を持ち、鋭角的なシルエットの装甲。突き刺された大剣を引き抜く姿は、まさに悪魔や獣と言って過言ではない。紅い双眼が揺れると、稼働音が空気を揺らしていく。

 

まるで、運命と言う名の神を滅ぼす、怒りの咆哮が、世界へと響き渡る瞬間だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ