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女神様のミッションコンプリート。




 そして数日後、王子がお忍びでなぜか我が家に来た。


 王子の名はアレックス・カールトン。私と同い年。

 国王の一粒種で、周囲に甘やかされ、それはそれは大事に育てられている。


「グレイスは俺の嫁になりたいらしいな」


 開口一番そう言われて、私の目が据わった。

 いい機会だ。さっさと嫌われとこ。

 

「逆ですわ、殿下。そちらから持ち込まれたお話です。私を望まれたのは王家でしょう?」

「お、俺はお前なんか望んでないっ」

「そうですか、よかったです」


 私は胸に手を置いて安堵のため息をもらした。


「よ、よかった?」

「はい、殿下が望まれてないなら婚約の話は消えます」

「そ…うだなっ、だが、父上とお前の親が決めた話だから…」

「でも先程、本人同士の気持ちが一番だから気が向かなければ断っていいって国王陛下から親書が届きましたけど」

「父上がそんなモノをっ?」


 アレックスは驚いてる。知らなかったのか。

 どうやら頑に拒否する私の話をお父さまがしたようで、イヤなら無理しなくていいよときれいな筆跡のお手紙を頂いた。

 お父さまは私に甘いので、絶対拒否と言ったらあっさり頷いてくれたし。


「殿下の賛成もいただきましたから、この話は無しですよね。どうぞ私以外の方とご婚約を」

「お、お嬢さまっ」

「なぁに、コリンヌ」

「あのそういう大切なお話は立ち話もなんですし、ガゼボでお茶でもしながら、ゆっくりと」

「ゆっくりなんかしてられないわ。午後の鍛錬の時間だもの」

「鍛錬?」


 アレックスが私の言葉に首を傾げる。


「はい、なので御前失礼いたしますわ」

「待て、何の鍛錬だ?」

「剣を少々……」

「お前が剣だと?」


 フン!と鼻で笑われて、カチンと来た。


「私が剣を学ぶのがおかしいですか?」

「あぁ、令嬢はか弱いんだから、男に守られていればいいんだ」

「頭固いですねぇ」

「はぁっ?」


 鼻で笑われたお返しに私は小馬鹿にしてみた。

 ここまでのやり取りが険悪すぎてホントに笑えてきたし。


「俺の頭が固いだとっ?」

「はい、くだらない固定観念に縛られてますわ」

「よくもそんな口を…」

「あら、私不敬罪で投獄ですか? 国外追放ですか?」

「お嬢さまぁ、もう黙って!」

 

 コリンヌが私の口を塞ぎ、慌ててアレックスに頭を下げる。


「恐れ入ります、分を弁えず口出しをお許し下さい。グレイスお嬢さまは少し興奮していらっしゃるようなので、お休みになっていただきます。せっかくお越し頂きましたところ恐縮ではございますが、日を改めて……」

「コリンヌっ、もう!」


 いいカンジに嫌われてたのにっ。

 私は青ざめつつ長々口上を続けるコリンヌを振り払い、踵を返す。


「おい、どこへ行く!」

「私の家で私がどう行動しようと殿下には関係ありません」


 言い捨てて私は鍛錬場へ向かう。


 そこでは第二騎士団、副団長のセドリックがいた。


「お待たせしました、師匠」

「師匠っ?」

「おや、アレックス殿下も鍛錬に?」

「セドリックはなぜここにいるんだ」

「侯爵より依頼を受けまして、グレイスさまに剣の指導を」

「お前がか?」

「殿下、お前なんて呼ばないでくださいませ、私の師匠です」

「だが……」

「ぐだぐだ言って邪魔しないで」

「アレックス殿下、危ないのでお下がりを」


 訓練着の私にセドリックが模造刀を渡す。


「グレイスさま、走り込みは終わっていますか?」

「はい!」

「よろしい。では姿勢から」


 剣を構えて静止。

 体幹がぐらつかないよう意識しつつリラックス。

 

「うん、サマになってきましたね。ではそのままゆっくり剣舞を」

「はい!」


 剣舞は文字通り剣を持って踊ること。祭りなどで見せることもあるが、実際は剣の基本が織り込まれ、しかもゆっくり行うことで姿勢やブレを整えることが出来る。


 私はすべての動きに集中して剣舞を終えた。


「では、打ち込みを」

「お願いします!」


 模造刀を構えたセドリックと対峙し、間合いをはかる。


 セドリックは強い。

 私では到底かなわない。でも隙を作ってくれるので、そこを逃さず打ち込む。

 彼が私の剣を払う。

 すかさず第二打。あっさり避けられる。でも切っ先がわずかに彼の腕をかすった。よし!


 次々打ち込み、躱され、それでもめげずに次へ。

 

「そこまで!」

「は、いっ! ありがとうございましたっ!」


 汗をきらめかせながら礼をすると、セドリックはやさしい瞳で微笑してくれた。


「剣筋がだいぶ良くなりましたね」

「師匠のご指導のおかげです」

「いや…グレイスさまの才能です。明日は一太刀入れられるかもしれない」


 ほめられて、大満足。生きてるって感じがする。

 前世では味わえなかった充実感だ。

 こういう時間をたくさん過ごせばカスカスも治るのかなぁ。


「一体…どういうことだ」

「殿下、まだいらしたんですか?」


 せっかく気分良かったのに、聞きたくない声。

 訓練場の端に立ち、ジト目でこっちを睨むアレックスがうっとうしい。


「ふん…剣なんか習ったって無駄だ。どうせ男には適わないんだからな」

「では殿下、私と手合わせを」

「なっ?」

「殿下は男で強いのでしょう? 私に負けるはずがありませんよね?」

「当たり前だ! セドリック、それを貸せ!」


 セドリックから模造刀を奪い、私の前で構える。

 よぉし、可愛げのないところを見せればこれで完璧だ!


「生意気な口を利けないようにしてやる!」


 アレックスはそう言って私へ打ち込んできた。

 予想通り、セドリックに比べると鈍い剣筋。これなら負けない!

 あっさり見切り、身を躱して手元を打てば、アレックスは剣を落とした。


「なっ…」


 アレックスは呆然と私を見る。


「勝負ありですわね」


 悪役っぽく、小馬鹿にした目で見下ろしてやったわ!


「私は婚姻するなら、自分より強い方がいいです」


 これで婚約は無くなり、国外追放にもならずに済む。

 そう思えば高笑いも出るってなもんで。


「ふふふっ。婚約者にはか弱い乙女をお選び下さいね、殿下」


 私は気分良く笑いながら殿下を置いて屋内に戻った。




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