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女神さまのアドバイス。




 どうやらここは前世で読んだ小説『月光の乙女と七人の守護者』と同じ世界らしい。


 そして私はヒロインのお邪魔虫というか、いわゆる悪役令嬢グレイスに転生。


「現実なのかな? それとも神様が無理矢理作った箱庭みたいな世界? まさか夢の中ってことはないでしょうね」


 気分が悪いと自室に引きこもり、私は状況を整理した。


 まず年齢は十二歳。

 来月からアルドリッジ魔法学園に入学する。


 これまでグレイスとして生活して来た記憶もあるし、スカスカと呼ばれた前世の記憶もある。


「ホントに……夢みたいだけど……。でも現実だよなぁ」


 神様がどんな奇跡を起こしたのかわからない。

 神様にとって世界を捏造、いや創造することは朝飯前なのかも。

 でも私には青天の霹靂。

 過労死からの転生は「はいそうですか」と簡単に受け入れられるものでもない。


「お嬢さま、ご気分は……?」

「一人にして」


 ドアの外で侍女のコリンヌが心配そうに呼びかけてくれるのを居丈高に断り、また考え込む。


 確か小説では……月の乙女が月光に宿る聖なる力によって人々を癒し、魔物を倒す。

 武器はクリスタルの杖。杖に貯めた月光の力を引き出して戦う。

 月の乙女というだけあって挿絵では、銀の髪に淡い青のきれいな目をしていた。

 儚げで美しいのに魔物と戦う強さ、傷ついてもあきらめず人を救う姿にあこがれたのを覚えている。


 そして様々な男性との淡い恋物語。


 本命は王子。他に侯爵令息、伯爵令息、双児の騎士、魔術師、治癒師。

 彼らとのやりとりにも胸をときめかせた。

 ヒロインは苦難を乗り越え、彼らと手を取り合い聖なる力で国から魔物を一掃する。

 そしてその功績や心の美しさに国民からの支持も増え、王子妃へと駆け上る。


「そんなヒロインのライバル……絶対幸せになれないじゃん」


 私は月の乙女と違い、黄色みが強い金髪、紫の目だ。

 

「前世から見たら桁違いの美貌だし、家柄も良いから、王子の婚約者候補に上がるのも当然か」


 婚約の話はまだ内々にと、数日前に持ち込まれた。

 もちろん婚約者候補だから他にも何人かいるんだろう。

 でも父親の話し振りだと、ほぼ私に決定しているようだ。


「……悪役令嬢なんてなりたくない」


 候補すら辞退したい。


 思い出す前の私は父親から話を聞いた時点で、傲慢にも『私の美しさの前にあの王子もとうとうひれ伏したか』って胸を反らしてた。

 ってか、こんな素晴らしい私は、国で一番の女性になるのが当然って考えてたと思う。


 だけど今は……。


「絶対、婚約なんかしたくない」


 アレックス王子は小さいときから知ってるけど、女心とかまったく分からないやつ。

 表面上は王子っぽく振る舞ってるけど、本性はただの悪ガキ。

 そんなのと一生一緒にいるなんて無理!


「どうしたらいいのかなぁ」


 両親はその気だったから辞退してくれるとは思えない。

 こんなこと相談する相手もいない。


 あ! そうだ!


「コリンヌ! コリンヌ!」

「はい、お嬢さまっ」

「森へ行くわ」

「森へ? 裏の別宅ですか?」

「その奥よ。たしか神様が住むという泉があるでしょう? そこに行きたいの」


 そこで祈れば神様が出て来て、転生のやり直しをさせてくれるかもしれない。


 そう思ったら居ても立ってもいられなくて、私はコリンヌを連れて、屋敷を抜け出した。


「お嬢さま、奥様に言って護衛を連れていかないと」

「いやよ、お母さまに知られたら家の中でじっとしてなさいって叱られるわ」

「そうでしょうけど…」

「勉強ばっかりさせられて、もううんざりなの」


 前世でも今世でも詰め込み教育をされまくってる。

 しかも今は礼儀作法やらなにやら、やることが多すぎる。


 そこのところも一つ神様に文句を言わなくちゃ。


 森の奥に建てられた別宅。その裏にある泉。

 常に湧き水が出ていて、とてもきれいな場所。

 うん、これなら神様が住んでてもおかしくない。


「コリンヌはそこで待ってて! 来ちゃダメ!」


 到着するなりそう命じて、私は一人で泉のほとりに立つ。


「神様、私のためにって言いながらなんでこんな世界に転生させたのっ? こんなトコじゃ幸せになれないわよ!」


 そう叫んだが、泉から何の反応もない。

 けれど私は構わず続けた。


「しかも悪役令嬢ってなに? 不幸になるのが目に見えてるし! スカスカな私にはそれくらいで充分ってこと?」


 小説の悪役令嬢グレイスは追放され、表舞台から消える。行く先は隣国の修道院。


「せっかく小説の世界だっていうのに、そんなの惨めすぎるじゃないっ! ひどい! やり直して!」

「うるさいわねぇ」

「えっ……?」


 嘆いていたら泉から光り輝く誰かが出てきた。


「神様っ?」

「そうよ、いわゆる女神様よ。しかも絶世の美貌よ」

「光ってて何にも分かりません」

「なによ、失礼な……ん?」


 女神と名乗った存在は私を見て、首を傾げた。


「あなた、神と会ったことがあるのね」

「わかります?」

「わかるわ。痕跡が残ってるもの。でも私じゃない神よ」

「ちがう神様……」

「そうよ。で、何がどうしたのよ」


 面倒くさそうに問われ、私は女神様に事情を説明する。


「あの人もたいがい適当な仕事をするわねぇ」

「やっぱりそう思います? ってかお知り合いですか?」

「神様ネットワークってのがあってね、だいたい知り合い」


 神様ってそんなにいっぱいいるのかぁ。


 女神様の光で目がチカチカしつつ、私はもう一歩前に進み出て、こぶしを握り訴える。


「で、転生したのはいいけど、私はそのうち婚約破棄されて、国から追放されてしまうんです」

「あら気の毒」

「だからこれは抗うべきだって思うんだけど、どうしたらいい?」

「そうねぇ」


 女神様は腕組みして考えてる。


「なら、さっさと嫌われておけば良くない?」

「王子に?」

「そう。悪ガキなんでしょ? お互い嫌ってるのが分かれば婚約しなくても済むわよ」

「そっか、なるほど」


 でもどうやって嫌われたらいいんだろう。

 

「女神様、効果的な嫌われ方のアドバイスを……!」

「そんなの自分で考えなさい」

「そこをなんとか。女神様だけが頼りなんですっ」


 拝み倒せば気を良くしたのか、女神様が笑った。


「じゃあ、一つだけ。男は可愛げのない女が嫌いじゃない?」

「そう聞きますね」

「だから、例えば王子より強いってのを見せれば?」


 そう言われて私は首を傾げた。


「強いというと…ケンカとか?」

「この国では剣術が強さの指標よ」

「私、剣術なんかしたことないですけど」

「そうなの? あなたのデータに剣聖の素質ありってあるわよ」

「神様はそんなデータ見えるのっ?」

「うん、見える」


 あっさり言われて私は天を仰ぐ。


「知らなかった……超絶美少女の私が剣をふるう」


 ……いい!

 絵になる!


「分かりました! 私今から特訓してきます! 女神様ありがとう! 今度お供え持ってきます!」

「うんと甘いのにしてね」

「はぁい!」

「お嬢さま、今度はどこへっ? お嬢さまぁっ!」


 私はコリンヌの横を走り去り、屋敷の護衛たちが集まる部屋に飛び込んだ。




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