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第11鯱 SYCHIBUKUROWESTORCAPARK

 何となく思っていた。

 この戦いが起きてしまった以上、勝った時点で私は真に復讐を完遂してしまい、空虚な人間になってしまうのでは無いかと。

 悪人になりたくてもなりきれる訳では無い中途半端な私はどうしたらいいのかと。

 なら、本当に悪たるシャチに……鯱崎兄弟の魂の三男になり、私であることを捨ててしまおう。そう決心したのだ。

 

「しょ、正気かシャチ!?」


 そう言われるのは無理もない。

 これは、狂気に満ちた言葉だ。


「いや、こいつは復讐を決行した時点でむしろ"こちら側"オルカ、話をちゃんと聞いてやるべきオルカよ」


 だが、鯱二郎の方がある程度の理解をしてくれた。

 なら、話を続けよう。


「私はもう人生でやることがないんですよ。復讐を思い出した以上旅医者なんて綺麗事を続ける気にもなれず、かといって帰るべき場所もない。そんな私でも、貴方達と一緒にバカをやるぐらいなら出来ると思ったんです」


 空虚な私を埋めるのは、シャチという悪の道。そう、私からすればシャチとは"思想"だ。魔王と己のライバルを倒すために力をつけて世界を旅する、気に入らない奴はしっかりと痛い目に遭わせる、そのための手段は選ばない。ここまで刺激的で楽しいそうな思想なんて、そう無いだろう。


「……なるほどシャチ」

「……オルカ」


 あとはどう答えが出るかだが、あまりいい表情ではない、期待はしない方がいいだろう。


「大歓迎シャチ!」

「俺に弟ができるとは驚きオルカ!」


 いや、そこまで答えを恐れる必要はなかったようだ。

 どのような形であれ、私は彼らのお眼鏡に適う人材……いや、鯱材しゃちざいのようである。


「俺達の目的や思想、それに行動まで肯定できる奴なんていないと思っていたシャチ。だから、素直に嬉しいシャチ」

「それに鯱三郎を名乗りたいとまでくれば、その意思をしかと受け止めるしかないオルカ」

 

 こうして、全てを終えた私はマコト・シンの名を改め、鯱崎鯱三郎となった。

 


***

SIDE:鯱崎鯱三郎

***


 それからは、敵の死体を焼き払った後地上へと戻った。

 どうやら戦っているうちに嵐が去ったようで、快晴の青空に綺麗な虹まで出ている。


「まるで私達を祝福しているようですね」

「そうシャチね、これは本当に戦いに勝った気分シャチ」

「そういえばマコト……じゃなかった、鯱三郎はあの村に一旦戻るオルカ? 別れの挨拶ぐらいはしていった方がいい気がするオルカが」


 この状況で鯱二郎に質問を受けたが、今の私にそんな綺麗な別れを告げるドラマティックは展開は似合わない。

 こう返しておこう。


「彼らにマコト・シンではなくなった私の顔を見せたくはありません。きっと心配して私のことを探すかもしれませんが、二度とめぐり逢うことはない。そうすることで、彼らにとっては『マコト・シンと鯱崎兄弟なる人物が村を救った』という都合のいい記録が残る……という物語を与えたいなと考えているんですよ」


 自分で言っていても気持ち悪い考えだが、この発想が出てくること自体が私はもう私ではいられなくなったという証拠なのだろう。


「おお、その自分勝手な考えこそシャチらしいシャチ!」

「まだ優しさが感じられてしまうオルカが、初心鯱しょしんしゃちにしては上出来オルカ」


 それに、その思考こそがシャチであると認めてくれた。

 ならば、これは私自身の新たな生き方としては間違っていないということだ。


「そうだ、どうせならチーム名を決めてしまおうシャチ」


 そうこう話していると、鯱一郎がよく分からない提案を始めた。


「おお、それはいいオルカ」


 彼らは双子の兄弟だ、鯱二郎の返事も当然そうなるだろう。

 なら、今はその一番下の弟である私が自分なりの案を出すべき場面ということか。


「なるほど、では兄様方が元々鯱崎兄弟を名乗っていたのですから、義理の弟が新たに増える事も踏まえて〈鯱崎三兄弟〉とするのは如何です?」


 何だかもう、立場が変わった途端思考がシャチに寄ってきている気がする。

 それに対する彼らの答えも、ある種の予定調和とすら言える内容だった。


「おお! 〈鯱崎三兄弟〉! 何だか頭にスっと入ってくるフレーズシャチ!」

「よし、これで決まりオルカね、俺達は今日から〈鯱崎三兄弟〉だオルカ!」


 これが兄弟シャチのシンパシーと言えるものなのだろう。

 あっさりと私が発案した〈鯱崎三兄弟〉の名で、新たにならず者のチームがこの世界に誕生することとなった。


「さて、ここから先の進路が特に決まってないし、ひとまずチーム結成記念にあの虹に向かって走ろうシャチ」


 そして、リーダーとしてチームを仕切ろうとする鯱一郎は訳の分からないこと言い出した。

 だが、今の私はそれを否定するどころか『素直にやりたい』とすら思えてくる。

 なので、鯱二郎と共にこう返事をした。


「うおおお! 1位は譲らないオルカよ!」

「ええ!? これ、レースなんですか!? ……まあいいでしょう、私も負けていられません、やってやりましょう!」


 元々故郷を滅ぼされたせいで宙ぶらりんな人生になってしまったのだ。

 その元凶と因縁も完全に断った以上は、彼らと同じ鯱崎兄弟として好き勝手に生きる方がよっぽどマシだろう。

 正直に言えば、我々鯱崎兄弟がサメとやらを、ましてやあの"魔王"アノマーノ・マデウスを倒せるとは思っていない。

 だが、考えてもみろ、目標など達成できなくて何が悪い。

 私はそう思いながら、皆と明日へ向かって足を踏み込んだ。

***

あとがき

***


 次の第3章3節の投稿は8月〜9月を目処に頑張ります。

 投稿できない月は何かしらの短編も用意するつもりなので、そちらもお楽しみください。

 一応予告だけしておくと、3章3節では鯱崎三兄弟が物語に合流し、鮫沢博士達がカジノに行きます。


 それと、もしよろしければ、評価、レビュー、感想などをいただけると、今後の執筆のモチベーションにも繋がりますので、よろしければ「おもしろかった!」の一言で全然かまいません、あるのでしたらお願いします。

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