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第10鯱 オルカ・ガントレット

***

SIDE:マコト・シン

***


 今は全身がシャチであり、何も怖くはない。

 しかも、半獣人種としての野生の本能まで表に出てくる。

 であれば、私を私たらしめる姿こそ、シャチなのかもしれない。

 そう心の整理を済ませると、私は拳を振るいながら、魔法を唱えてドン・スネークに対して先手を取った。


「セカンド・アンペアストライク!」


 思いっきりドン・スネークの尻尾を殴りつけ、精一杯にこう叫ぶ。


「村の仇をとる時、直接殴れなかったことを後悔していたんですよ!」

「クギャアアアアアア!!!」


 全身に電流が流れるのは辛かろう。

 本当はじわじわとなぶり殺しにしたいところだが、そんな敵を舐め腐った攻撃は制限時間を前にすると許されない。

 ある意味、油断をしないで済むと好意的に解釈することも可能だが。


「だが、お前は蛇の強さをわかっていない!」


 もちろん、油断していなくともこちらが無敵になる訳では無い。

 ドン・スネークは体が痺れる中で気合いで耐え、己の尻尾で私の両腕と胴体を巻き取り締め付けたのだ。

 ミシミシと鉄で出来た全身にダメージが響くが、不思議と痛くはない。

 これが、鉄のシャチの力なのだろうか?


 もちろん時間が経てば経つほど外傷が増えるので早く振りほどかなければ消耗する一方だが……彼に即死させる意思を感じない。恐らく相手を痛めつけて倒したいという、それこそ私が今避けている行動をそのままやっているのだ。護身術として魔法を学んだ程度の私以上に、自分自身が戦う事に関してズブの素人なのだろう。

 なら、それを利用してやればいい。

 実は、この姿になってからだが、なんとなくながらセカンド級の詠唱省略だけでなく、本来習得していないはずのサード級の魔法すら唱えられるような感覚があった。

 流石に詠唱を省略することは不可能だろうが、今はその隙を敵自らが生んでいる状態だ。


「『我が魔の力よ、大地を焼き払う大いなる落雷を落とし給え!』」


 私の足元から、ビリビリと紫色の電流がぐるぐると魔法陣のようなものを描いていく。

 これは、指定した座標に落雷を落とすシンプルな魔法だ。


「き、貴様、何をする気だぁ!?」

「今更気づいたって遅いですよ! サード・ライトニングストライク!」


 その瞬間、()()()に向けてドン・スネークも丸ごと巻き込む規模の雷が落ちた。

 時間はそれこそ、まばたきする程の一瞬。


「ぐぎゃああああああああああしびれるううううううううう」

「流石に私もビリビリ来ますね」


 普通に使えばただ敵を一瞬で焼き払う攻撃魔法にすぎない。

 だが、少なからず鯱崎兄弟の言う〈百年の指示者ハンドレッド・オーダー〉由来の技術が元だと考えれば振りほどくのに火力が足りない気がした。

 だから、()()()()()()()()()()()、その鉄の体を伝って私を掴む彼を感電させる追加攻撃を行ったのだ。

 あの炎を耐えたのなら、サード級の魔法にも耐えられると賭けた甲斐があったというもの。本当に賽の目を歪ませるのがシャチなのを思い知らされる。

 おかげで、ドン・スネークは尻尾に巻き付けている私を放した。


「ふぅ、自由が効きますね。なら、次はあの手で行きましょう」


 続いて、腰の右ポケット……だった部分を叩くと ジー! と音がなり、ドアのように開いた。

 そこには、事前に聞かされていた私の鯱腕しゃちわん……いや、新たに名ずけよう、我がオルカ・ガントレットの新機能に関わってくるのだ!


「ポイズントリガーオープン!」


 その言葉を発すると、右腕がスライドするように小さく開き、何かを込める穴が出現した。

 そう、ポケットから取り出したのはここに入れるためのモノだ。

 これは私が持ち歩いている毒をよりオルカ・ガントレットに適合させて運用するための兵器であり、親指サイズの透明なケースに紫色の毒々しい液体が詰められた弾丸。

 まずは試運転に弱めの毒と行きたいところだが、時間は限られている、手加減は無しだ。


「ポイズントリガー・マグマベニテングタケ! 続けて、セカンド・サンダーショット!」


 弾丸を込めると、腕を手動で元に戻して装填は完了。

 その次は、距離を離して体制を立て直そうとするドン・スネークに向けて、空を突くようにストレートパンチを放つ。もちろん、全く拳の距離が届いていないが、問題ない。

 この拳が触媒である以上、魔法も拳の動作に依存して放たれるからだ。

 それは、シャチの頭部の形をした紫色の電流となりドンのスネークの元へと発射された!


「いかん、避けられねぇ!」


 その頭部はドン・スネークに噛みつき、一瞬にして全身が感電し体がデロデロに溶け始めた。

 加えて、右腕が自動的にスライドし、そこから空薬莢《空瓶》が排出される。

 これは、魔法による電撃に毒を加える事で元々護身用だった雷魔法と趣味の植物毒研究がシャチ技術によって合わさり一撃必殺のシャチ魔法に変わる必殺技なのだ。

 まさか、本当に魔法のエフェクトにシャチが加わるとは思わなかったが、どうにもカッコよく見えて気分がいい。


「ガウガウ! 私の家族を、メアリーを、全てを奪った責任を持って死んでください!」


 なお、今回は直撃した対象の体を溶岩のように燃やして溶かす毒だ。

 サイズに合わせて強い毒を選んだ、彼も即死を免れないだろう。

 

「ハァハァ、死ぬかと思ったぜ」


 ――だが、ドン・スネークはまだ生きていた。

 よく見ると、彼の足元にはデロデロに溶けていく皮のようなものが落ちている。


「脱皮……ですか」

「俺はいわばヘビ人間! 緊急で脱皮するのも容易なのだァ!」


 爬虫類が元ならやりかねないとは思っていたが、厄介な形でやってくるものだ。

 そうなると、脱皮させないで即死させるべきだが、さっきサード級の魔法を普通に耐えていた以上は安易に雷魔法を唱えても無意味。


「ブヒィィィィィ!!!! 」


 そう考えながら相手と距離をとっていたが、相手の行動は予想外!

 尻尾をバネにするように動かし、こちらに向かって飛びつきながら突進を行ったのだ!


「まずい!」


 落ち着いて横にバク宙を仕掛けたが、何故かその位置に向かって飛んできた。

 突進は見事に直撃。咄嗟にガードに使った左腕が途端に動かなくなる程の損傷を受ける。


「さすがにどの魔法を唱えるかとか具体的なことはわからねぇが、敵がとる次の行動やその移動位置は豚の嗅覚でわかるんだぜェ!」


 これは攻め手になった途端一方的に殴れる能力だ。

 私は思考を巡らしているうちに次は尻尾による薙ぎ払い、からの頭突き、更には腕で掴んで放り投げると連続した攻撃を受け続けている。

 本当に拘束攻撃は相手を舐めた初手に過ぎなかったのだろう。


「ブヒブヒ! 豚の嗅覚とヘビの体格、その全てを前に苦しみ死ぬがいいわ!」


 痛覚が弱くなっているおかげで立ち上がることこそ容易だが、精神面は削られる一方だ。

 それに、残り時間は1分。そろそろトドメを刺しに行かないと間に合わない。


「魔獣シャチ10号"エンジェル・シャチル・オルカソン"! これこそ究極のシャチ!」


 ……そう思った矢先、一瞬物音が激しかった後ろを振り向くと、鯱人オルカマンな鎧に大きな天使の羽根を生やしながら空を飛び、チェーンで紡がれたギロチンの刃をぐるぐる振り回すシャチ魔獣が視界に映った。

 その瞬間、ひとつの作戦を思いつく。

 今はあくまで二手に分かれて戦っているだけだ、別に敵共々合流してしまっても構わない。

 

「ブーヒブヒブヒ、トドメの一撃だ」


 そんな中、ドン・スネークは飛び上がって私の元へと落下し体重で圧殺しようと動いたようだ。

 匂いで次に移動する位置がわかるとは言うが唱える魔法までは分からない。自ら吐いたその弱点を利用してやろう。


「ガルゥ! セカンド・マグネットパペットォ!」


 唱えた魔法は鉄の磁力をコントロールする魔法だ。

 相手は鉄製の装備をしていない上に肉弾戦を仕掛けてきていることから明らかに無意味に思えるがそれは違う。

 

「体の自由が効かない!? 何処かへズルズルと引きずられている!?」


 私が狙ったのは鯱崎兄弟がドン・スネークに貼り付けた追跡用磁石。


「オールカッカ! これは2体まとめて一網打尽に出来そうオルカァ!」


 そして、もうひとつがあのギロチンの刃だ!

 どんどん刃の方へ……己が造り出したボルケーノ・スネークの元へと引きずり込まれ、そうしている内にギロチンの刃が直撃する回避不能な陣形が整う!


「ハメ技じゃないかァ!」

「俺達は元々正義のヒーローどころかただの悪シャチ!」

「そう、シャチは不意打ち上等卑怯千番なんでもありオルカ!」


 ところで、ポイズントリガーには弱点がある。

 それは、魔法側の詠唱をキャンセルしても手動動作が多くサード級の魔法を詠唱するのと大差ない時間を取られ、それこそ装填とサード級魔法の詠唱を合わせれば最短でも15秒は掛かる。なので、1対1ならセカンド級の魔法で抑えるのが手一杯だ。

 だが、この瞬間いまは猶予がある。

 今や長く伸びるギロチンの鎖はドン・スネークとボルケーノ・スネークをまとめてぐるぐるに巻き付けて拘束した状態だからだ。

 シャチの天使はギロチンの刃を直接掴み、羽根による加速力で突撃し一気に真っ二つにしようと企んでいる。実際、ふたつにくっ付いたヘビとヘビは脱皮による脱出も厳しいようで有効打だろう。


「熱いィ! ボルケーノ・スネークが熱いィ!」


 しかも、自分の造ったヘビと密着しているせいで身体がどんどん燃えていっているようだ。まさしく滑稽も言える。


「ポイズントリガー・フレイムカエンタケ!」


 さて、こちらも弾の装填が完了した。

 拳を覆うように紫色の霧が吹き出ている。

 これは、食えば死を免れない毒キノコを加工したモノ。そこに混ぜるのは……!


「『我が魔の力よ、この拳に大いなる雷撃を授け給え』」

 

 右の拳に雷を込める白兵用魔法。本来はリスキーな使い勝手だが、今回は火力を惜しまず一点集中でぶつけられる。

 挟み撃ちを狙うなら、これが最高効率だ。

 私の拳は紫色の鯱頭となりドン・スネークへ向かって放たれた!


「これで私の復讐は終わりです、サード・ライトニングハンド!」


 私が私でいられなくなった全てがこの一撃で終わる。復讐が完遂される。

 だから、拳に全身全霊全ての力を込めた。


「フランスシャーチ!」

「フランスオルカ!」


 そうして、ギロチンの刃はボルケーノ・スネークに、毒を纏った雷のシャチはドン・スネークの胴体に直撃した。


「ブヒィィィィィ!!!!!」

 

 全身が感電し、今にも死に絶えそうな悲痛な叫びが響き渡るのは実に気持ちがいい。

 更には、後ろ側から押し込む力が加わったことにより、ギロチンの刃はどんどんボルケーノ・スネークの体を引き裂いていく。

 そう、2つの力は重なる2体の敵を押しつぶすように合わさり、1つの力へと変わったのだ!


「ブヒィィギャァァァァァァアィ!!!!」

『キシャー!!!!!!!!!?????』


 そして、遂にはボルケーノ・スネークを真っ二つに引き裂いた! 更に続けてドン・スネークにも直撃! 豚人種の上半身とヘビの下半身の付け根から一刀両断だ!


成鯱せいじゃち!」

「この世にシャチを舐めた奴が栄えた試しはないオルカ」


 攻撃が終わり、変身を解除した2人は真っ二つになった2体の死体を見て背中合わせで仁王立ちになりそう呟く。


「これで、勝ったんですね」


 ドロドロと溶けていくドン・スネークの死体が、勝利を確信させてくれる。

 そう! これで、ドン・スネークとボルケーノ・スネークを倒すことができたのだ!


「ここからはどうしようシャチ」

「とりあえず死体を焼き払って復活しないように処置するのが安定そうオルカねー」


 ただ私はというと、復讐を完全に果たしたはずだが妙にスッキリしない。

 ……そうか、私の復讐は結局シャチであることを認めたせいで、私個人のモノではなくなったのか。

 結果、私は時間切れにより鯱な鉄の体が半獣人種の体へと戻った直後にこう叫んだ。


「御二方! 突然ですが聞いて欲しいことがあるんです」

「何シャチ?」

「オルカ?」


 聞いて驚け無頼鯱ぶらいしゃち共。

 私は今から本当に突拍子のないことを言うぞ!


「手を取り合い敵を倒したことで、こう思ったんです。私は鯱崎鯱三郎として鯱崎兄弟の1人になりたいと!」

「「!?」」

「いけませんか?」

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