第8鯱 great sychipcae
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SIDE:鯱崎鯱一郎
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マコトが全てを語り終えた時、ポツポツと雨が降り始めたと思えばあっという間に大雨に大きな風が吹き荒れる……嵐が起きた。
これはマコト自身の心情が天と繋がったのだろうとも思えるが……正直こっちとしてはそんな話をされても困る!
ええい、弟に言われる前に兄である俺が思っていることを言うシャチ!
「そんなことを思い出してショゲられても困るシャチ」
「で、ですがこれは真実で……」
アニメとか映画でもこういうウジウジした奴を見ると本当に腹が立つ、こうなればあらゆる反論を無視して発言しないとキリがないだろう。
だから、大きく話を切るように、雨音すらかき消す大声でこう言ってやった。
「お前は俺達なんだシャチ」
こう言ってしまえば向こうも訳が分からなくて余計な言葉を間に挟んでこなくなるはず。
そして、追撃だ。
「お前は俺達を通りすがりの風来坊程度に思っているようだが、そんな綺麗なわけがないんだシャチ」
「そうだそうだオルカ」
「な、何を言って」
「俺達は、シャチがいないサラムトロスを憎んでいる。その結果、既に何十人という人間をシャーチネードという天災を起こして殺害した罪だって背負っているシャチ」
「……!?」
そうだ、本当にこんな世界はクソなんだシャチ。
その世界での虐殺者を特別悪人として蔑む理由なんてない。
「俺達はフレヒカ王都で虐殺行為を行ったシャチ。お前は復讐のために"敵"の暮らす町の住民を皆殺しにしたシャチ。そこに違いなんてないシャチ」
「だから、安心してここから先の気まぐれな善行にも付き合って欲しいオルカ。悪人と悪人が組んだところで何か問題が起きるとでもオルカ?」
「ハ、ハハ、ハハハ」
流石は我が弟、ナイスフォローシャチ。
マコトも笑ってくれているからこれは成功だろう。
「分かりました! 少なくとも貴方たちと共に戦う間は自分の罪について考えないようにします。ご心配をおかけして申し訳ございませんでした」
よし、大丈夫そうだ。
あとは雨に濡れないよう建物間を渡ってして移動しながら豚ヘビを探せばいいだけになった。
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「ところで、あの豚ヘビはお前が復讐したかった"敵"と似た部分があるシャチが、気の所為シャチか?」
「ハハハ、まさか、死んだ場面はハッキリこの目で見たんですよ、そんな訳があるはずないじゃないですか」
雑談を挟みながら前へと進んでいく。
そこで、改めてダウジングガーディアン・オルカに変身して場所を特定しようとしたが、どうにもこの街の地下部にいることが分かってきた。
「こりゃ普通に探していたら見つかりっこないオルカね」
「だが、答えは見えたシャチ、次に使う魔獣の遺伝子は……これシャチ!」
これは、モグドリルという、両手が螺旋状のドリルになっているモグラ型の魔獣の遺伝子。
これを首に突き刺して注射すれば、俺の姿は見事に変わる。
一見すると大きさにして3mの地底探査用陸上戦艦!?
船頭に装備された巨大なドリルにミサイル掘り進めるためのキャタピラは科学者心をワクワクさせる夢のような造形!
そこに、シャチをイメージした口や目のデカールが大きく貼られ、シャチの口からドリルが出ているように見えるのだから壮大だ!
2人乗りのスペースもあるぞ!
「魔獣シャチ6号"轟鯱号"シャチ」
「素晴らしいオルカ……」
「いいじゃないですか、荷馬車より乗り心地が良さそうです」
2人が乗り込むと、ドリルを回転させ地面を掘り進めていく。
本当は街のどこかに地下への隠し通路があるだとかそういうギミックなんだろうが、めんどくさい! 地底開拓の餌食にしてやるシャチ!
ドンガラガッシャッン!
その結果、掘り進めること3分も掛からずどこかの施設から繋がる地下の大部屋へとたどり着いた。
鉄製の壁にクリーチャーを試験運用するためにか奥行きが100mはあり、ここに豚ヘビがいなければ何がいるのだという雰囲気だ。
「な、なんか来たァ!?」
「オルカエントリーシャチ!」
「オルカ」
「お邪魔します、キメラさん」
予想通り奥にいた豚ヘビは驚いているが、この程度で済ませる気は無い。
お前をぶっ倒さなければ話が進まないからな。
変身を解除しつつ、次の魔獣遺伝子を選択しておかなければ。
「まさか、お前らは昨日の!? い、生きていたとは」
「あまりにもお約束な悪人のセリフ、まるで鏡に映る自分を見ているようだシャチ」
一方、マコトは彼にひとつ質問があるようだ。
「気になるんですが、貴方はどうして村を病で襲ったのですか? 回りくどい手を使っていたようで不思議だったんですよ」
確かに、言われてみれば回りくどい。
それに対して、豚ヘビはこう答えた。
「……復讐だ」
ん、待て、こいつも似た者同士なんて言うじゃないよな?
「ある日、自分が住む町の住民を全て毒殺したあいつを巻き込んだ"世界への復讐"だ」
め、めんどくせぇシャチ……。
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要約すると、蛇ブタは〈百年の指示者〉であるミス・スネークがサラムトロスに残した子孫のドン・スネークという名で、元々はただのブタ人種だった。
ある日、父が家の秘密を教えてやると秘密の地下室へ案内され、そこで彼女の残したヘビ技術を見るや否やとヘビの研究を引き継ぐことを決意。
そして、試行錯誤を繰り返した末に新たなヘビを生成する技術を身につけた。
だが、彼の性格は正真正銘の悪党そのもので、小さな村や森の狩人を狙った実験という名の狩りによって多くの被害者が出ていたそうだ。
もちろん、そんな奴に裁きが下らぬ訳が無い。
そう、マコトの復讐が行われた結果、自分の悪逆を知らずに接してくれていた街の者達は全員死んでしてしまったのだ。
彼自身はヘビ毒を研究していた事で仮死状態に一時的になるだけで済んだものの、自分だけが生き残ったというショックは大きかった。
もはや世界を滅ぼすための研究をするしかないと決心し、そこで生まれたのがあの〈ヘビ吐き病〉。
つまり、病による世界の破滅を企んだのだ。
そこから先は何となくわかる通り、手始めに実験としてラブコ村が狙われ……最終的に俺達が来たところに物語が繋がる。
全く、マコトのことを思うと因果が因果を巡りすぎていてなんとも言えないシャチ。
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「分かったか、これこそ俺が世界へ復讐する動機だぁ!」
元気良さそうにしているが、マコトからしたら溜まったものじゃないだろう。
実際、何か言いたげだ。
「つまり、私は貴方に復讐した。と思えば次は貴方の復讐に巻き込まれたという訳ですね」
本当に、不毛で残虐ないたちごっこシャチ。
「……クソ、気付かなかった。お前、あの時の毒使いかァ!?」
「ええそうです、ハッキリ言ってあなたが生きていると分かり、あの日の怒りが蘇ってきました」
「ええい、ここでお前を殺せば俺の復讐は半分終わったことになる、覚悟しろォ!」
豚ヘビはその場で指を弾くと、後ろから、身体中に赤く光る線のような傷が無数に刻まれ、10mはある巨大なヘビがニョロニョロと現れた。それと同時に、部屋の温度がぐんぐんと上がり、砂漠のように熱くなる。
「これはお前の村を襲ったボルケーノ・スネークゥ! あれから5年経ったが、より強化さら当然魔法を通らないぞォ!」
迷惑なヘビを残していたようだ。
対し、マコトもまた啖呵を切る。
「復讐VS復讐の終わらぬメビウスの輪を止めるための戦い。ならば私が戦わない理由はありません」
やはり、マコトはやる気のようだ。
……こうなってくると、俺達兄弟の立場は中途半端じゃないかシャチ!?
い、一応確認できることは確認しておこう。
「その、このシチュエーションだと俺達は邪魔なってしまわないかシャチ?」
「そうオルカ、少し気まずいオルカ」
だが、マコトはこう返した。
「何を言っているんですか? 私はシャチですよ。であれば、御二方と同一の存在。共に戦う理由なんてそれで十分です」
その一言に、何か安心を感じてしまうのは兄弟共に同じなようだ。
少しの間ながら、3匹目のシャチとして行動するのが楽しくなっていた。それが今お互いに認めれたのだから、嬉しいのは当然だ。
「……なんでしょう、これは」
――そう安心し始めた時、マコトの身体中にビリビリと紫色の電流が走り始めた!
少し待つと、それは俺達鯱人を象っていく!
その電流は、義手から想定されるシャーチネーターの姿を作り上げていき……シャチの頭部にオオカミの耳が生えて歪なものを形成していく!
そして、完成したその姿は、人に近い造形の四肢を持つが様々な機械の配線が入り交じり正しくシャチボーグ! 左右にバッサリ白黒で分かれた陰陽のごときカラーリング! その人ともシャチとも半獣人とも言えない姿は、もはやシャーチネーターではない!
鯱人の発展系鯱獣だ!
「ガウガウ! これは良い新機能ですね。ありがとうございます」
――こんな姿……腕の機能に入れていないシャチ……。