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第6鯱 シャチニック

 皆が寝静まった頃、俺達は村の灯りとなっていた大きな焚き火の近くでマコトの腕の整備をしていた。

 どうやら敵も〈サラムトロス・キャンセラー〉の技術を持つようで、しかもこちら側の調整不足なのかこの腕を触媒にして行う魔法が通らなかった。

 だからこそ、何としてでも改良を加えなければシャチのプライドに傷がついてしまうシャチ!

 ちなみに、整備は1度義肢を丸ごと取り外して行う。

 工具については俺達兄弟の指は思い描いたドライバー、ネジ、トンカチ、ドリルなどに変形、製造する能力があり、それを使用する。

 

「外しても痛くないんですね、私の鯱腕しゃちわん

「当然シャチ。そんな欠陥機能はプライドに反するシャチ」


 今回は〈サラムトロス・キャンセラー〉対策として、魔法そのものをシャチに変換する機能を付けることにした。

 思えば、そんな根本的な部分をやらなかったのが失敗の原因なのは恥ずかしい限りだ……。


「その、手伝えることがなくてすいません」


 マコトは手を持て余してるようだ。

 なら、ひとつ雑談にでも付き合ってもらおう。


「それならその口を動かしてくれればいいシャチ。あの豚ヘビについてなんだシャチが、少し違和感があるんだシャチ」

「まさか、兄上も感じていたオルカ」

「ああ、早い話シャチが、ヘビの〈百年の指示者ハンドレッド・オーダー〉は実際に俺達の世界にいるシャチが、あんな野蛮で自らをヘビに改造する者ではなかったシャチ」

「なんと、そちらの事情は未だにわかりきってはいませんが、何を言いたいかは理解出来ます」


 ようは、あの豚ヘビは俺達の知るアマゾン川の〈指示者オーダー〉であるミス・スネーク(本名不明)では無いことが大きな違和感なのだ。

 彼女はヘビマニアであることを除けば心優しい人間であり、このような病によるパンデミックを起こすはずがない。そもそも声からして性別が違う。

 そんな話をしていると、マコトから意外な答えが返ってきた。


「もしかしてなんですが、そもそも御二方の言う〈指示者オーダー〉がサラムトロスに流れ着いた時代は本当にバラバラで、現在、本人が生きているケースは稀という可能性はありませんか?」


 考えたくはなかったことだが、鮫沢以外の〈指示者オーダー〉に10年間会えなかったのは確かにおかしいシャチ。

 素人ながら中々に冴えた疑問だ。


「であれば、あいつはミス・スネークの子孫ということオルカ? 彼女が残した技術を発展させた末に〈ヘビ吐き病〉が生まれたと考えれば確かに辻褄も合うオルカ」

「ですね、私が言いたいのはそういうことです」


 そうなると、同じように己の世界に好きな生物がいない事実に苦しむ〈指示者オーダー〉達を集めて魔王討伐軍を作るのは夢のまた夢かもしれない。

 悔しい。

 そんな会話が続く中、マコトは新たに話題を変え始める。


「ところで、昨日は聞き忘れていたんですが、御二方は何を目的にこの村に来たんですか?」


 まずい! 村を今後の活動拠点する侵略とは口が裂けても言えないシャチ!

 本来は暴力で皆を追い払うつもりだったのに、考えてみればもう善人として振る舞うしかない事態になっているのもよくよく考えれば大きなミスだ。

 返す言葉が本当に思いつかない、弟よ、本当に頼んだシャチ!


(兄上、任せろオルカ)


 すると、シャチ特有の念話が俺の脳裏に響いた。

 これは……行けそうシャチ!


「俺達の目的は、シンプルに言えばこの世界で最強になる為の放浪の旅になるオルカ。世直しをしようだとか、そういう考えではないオルカよ」

「ほう」

「それこそ、目指すは魔王を倒す! 本当にそれを成しえるその時まで、その歩を止めることはないオルカ」


 でかしたぞ弟よ! 余計な情報を入れないで真実だけを伝えるとは完璧シャチ!


「面白そうな旅をしていますね、同じ旅人として応援したいぐらいです!」


 おかげで、マコトも俺達の事を気持ちよく受け入れてくれた。

 そして、話をしているうちに腕の調整も終わり、改めて皆眠りについた。

 


***


 翌朝、俺達は村人達に改めて真実を伝えていた。


「ほんとうに申し訳ないことがあるシャチ」

「実は、特効薬こそ作れたものの、洞窟で出会った黒幕には逃げられたんだオルカ」

「なので、私達3人でその黒幕を今から探し、そして倒しに行きます」


 隠し事を正直に告ている状態だ、受け入れられるのだろうか?


「おお、それなら倒してきてくれ!」

「仲間達への復讐だー!」

「わしらの分まで頑張るんじゃぞい!」

「「「「うおおおおおおお!!!!」」」」


 いや、心配無用のようだ。

 村長を含めた村人全員が好意的に受け入れてくれた。


「なら、行きましょう!」

「シャチ!」

「オルカ!」


 こうして、俺達は豚ヘビ探しを始めた。



***


 実は、豚ヘビを探すといっても、やることはシンプルだ。

 俺は、奴と出会った直後に特殊な磁石を奴の体に引っつけておいたのだ。

 これは、ダウジングガーディアン・オルカの能力に対応したモノで、能力を使えば必ず本人のいる場所を示してくれるというモノ。

 それも、方角だけでなく距離感から場所まで1発でわかるのだ。

 なので、村外れで1発ダウジングガーディアンの遺伝子を注射し、変身した。


「兄上、回転してOKオルカ」

「またやるんですね……アレを……」


 鯱二郎も俺の肩に乗り、サーチトルネードを開始した。実質ダブルシャチアットかもしれない。

 回転している間、実は普通に目がぐるぐる回るので素直に気持ち悪いのだが、耐えて回転し続けた。辛い。

 それから4分と20秒後、回転が止まり、磁石の位置の特定に成功した。


「奴はここから徒歩で半日ほどの距離の廃町の地下にいるみたいシャチ」


 そこは、まさかの廃町。

 そんな場所を選ぶとは、荒廃した世界のモヒカンなのか?

 こうなると、小悪党なモヒカンモブと意識して戦えるのでもはや気楽になってしまう。


「おお、じゃあ早速行こうオルカ!」


 俺の変身が解除されると共に、元気な表情でそう発言した鯱二郎に反して……、


「少し、少し待ってください、どうしても心の整理をしておきたいのです。大丈夫でしょうか?」


 マコトはどうにも、ここから近い廃町と聞いてなにか思うことがあるみたいだ。

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