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第4鮫 スカイシャチ

 この洞窟はどうにも入り組んでおり、加えて先程のヘビの大軍が至る所に配置されているという始末だ。

 その度に駆除はしたが、流石に骨も折れるというもの。(単純に手持ちの毒薬が尽きそうだ!)

 

「本当にこの奥にあるんですが……病原菌が……」

「あるったらあるシャチ!」


 とはいえ現状としては、鯱崎兄弟を信用するしかない。

 なので、目印を残しながら地図を作り、通っていない道をひとつずつ埋める事で建設的な解決を図ることにした。

 結局、洞窟探索は間で休憩なども入れて合計半日は時間を費やすこととなったが……


 ただお陰で……というのも何か変だが、『そもそも彼らが言うシャチとは何なのか』

、『その魔獣に変身する力は何なのか』、『病原菌があるとは言うが、それの正体とは』という疑問について尋ねることが出来た。


「なので、シャチがいないこのサラムトロスは正直に言って嫌いなんだシャチ」

「右に同じくオルカ」


 1つ目については、そもそも彼らは異世界から来た人間であり、シャチというのはその世界にしかいない最強の海洋生物でありそれを愛している兄弟と解釈すればいいみたいだ。


「力? この力は〈百年の指示者ハンドレッド・オーダー〉という天才的頭脳で生み出した魔獣の細胞シャチ。それを体に打ち込めば、シャチであるこの肉体と混ざりあいシャチ魔獣が完成するという訳シャチね」

「そして俺は〈百年の担い手ハンドレッド・マスター〉……早い話は兄上の造るシャチを強化する能力の持ち主オルカ」


 その次については、魔法とは別の異能と科学の掛け合わせだと伝えられた。

 はっきり言って、ふらっと村にやってきた流れ者がここまで世界から見ても異端イレギュラーであることを受け入れきれないが、シャチは嘘をつかないらしい、シャチを信じよう。

 また、そこに加えてこのような話もされた。


「というか、今日までヘビをこの世界で見た記憶がなかったシャチ。……となると、これは〈指示者オーダー〉の仕業シャチか」

「えっええ!? ヘビはシャチと同じ異世界の生物なんですか!?」


 なんと、ヘビは元々〈サラムトロス〉には存在しないと言うのだ。

 それなら、〈ヘビ吐き病〉は本当にどういう病気なのか皆目見当もつかなくなってきた。

 だが、頭を冷やそう、そう難しい話でない。異世界がなんだと言うのだ、この問題が解決すれば全てどうでもいい話。大事なのは何が敵で何が味方かだ。

 そして、最後は問題の病原菌についての話になった。


「結局のところ、ダウジングガーディアン・オルカは問題の解決を図れる方角を示すことの出来る魔獣なんだシャチ」

「もはやダウジングガーディアンの性質を超えてませんか!?」

「それこそがシャチの力オルカ! そもそも魔獣自体がシャチに劣る生物兵器!」

「まあ早い話シャチが、何となくこの天才的頭脳が病原菌と言っておけば皆納得すると算出したんだシャチ。自分達で行動する分にも、ふんわりとした名称があるだけで変わるシャチからね」


 何となく言いたいことはわかった。

 話をまとめると、『鯱崎兄弟は信用に値する』、そう思っておいて問題ないだろう。

 ……それからまた歩き続けると、ついに岩に囲まれていながら、住宅なのかと見間違えるような開閉式のあからさまに怪しい扉を発見した。


「おお、絶対これシャチ」

「つ、疲れたおるかぁ」

「ようやくですか。何か黒幕がいるような雰囲気ですし、開けるしかないようですね」


 その中は洞窟同様岩壁に囲まれてこそいるものの、奥には机があり、見たことの無い薬品臥入った試験管が並んでいる。

 何かを研究していた一室と見ていいだろう。


「つまり、〈ヘビ吐き病〉は人工の……言わば生物兵器ということですか!?」

「そうなるシャチね」


 となると、今この部屋に事件の黒幕が戻ってくるのも時間の問題かもしれない。

 実際、入って部屋を見渡している間に背後から何か地を引きずるような……それこそ、ヘビがもし巨大な生物ならこのような足音(?)を立てるのだろうと考えられる気配がどんどんこちらに近づいてきている。


「一旦部屋の奥で待ち伏せするオルカ、兄上は次の変身準備をオルカ!」

「了解シャチ!」

「私もこの鯱腕しゃちわんがありますら同じシャチのようなものですよ」


 こんな時に自分でも何を言っているのか理解し難い発言をしてしまったが、その分不思議な連帯感も覚える。

 ならば、あとは敵の姿を拝見するだけだ。


「な、なんなんだその姿はシャチー!」


 部屋に入ってきた敵の姿は……上半身が豚人種(所謂オーク)で、下半身が大きな蛇の腹から尻尾と正しくキメラな、到底人間とは思えない怪物だった。


「ブヒィ! 人の研究室に土足で入り込むとは許せんぜぇ!」


 加えて、こちらには好戦的な態度を示している。

 そうなれば、先手必勝だ。


「セカンド・サンダーストリング!」


 私は、右手からピアノ線のように細い電流を何十本も発生させ、それを敵へ巻き付けるように攻撃と束縛を兼ねた牽制を行った。

 ……だが。


「効かねぇなぁ!」


 通らない!

 それこそ、まるで軽い風が吹いた程度の反応!


「お前はあの憐れな村医者のマコトだったかァ? こんな所までわざわざ仲間まで連れてきて、ご苦労さまだなァー!」


 黒幕はどうにもこちら側を認識しているらしい。

 そこから考えれば、何かの理由で村を直接狙って〈ヘビ吐き病〉の感染者を増やしていると考えるべきだ。

 それなら、何故〈感染型〉に噛みつかれてもいないのに感染する患者が現れかについても辻褄が合う。

 であれば、こいつを倒して村の平和を取り戻すべきではあるのだが……私では対策されてしまっている。

 神頼みならぬ鯱頼しゃちだのみな状態だ。


「えらく強情な豚もいたものシャチねぇ」

「兄上、あれは豚ヘビオルカよ」

「確かにそうシャチ」


 だが、肝心の鯱崎兄弟は呑気に雑談をしている。

 明らかに油断している場合では無いのだが、その緊張感を煽るかのように黒幕は指を弾き出した。

 すると、部屋の天井がパカッと開き、そこから彼の上半身にもなり得るほど大きいヘビに、下半身がまさかのカブトムシという歪なキメラが降下してきたのだ。


『キシャー!』

「これはこのドン・スネーク様が生み出した究極のヘビ魔獣、"スネークビートル"だァ! 俺もそうだが、こいつは魔法を通さない〈サラムトロス・キャンセラー〉で皮膚を構成していてなぁ、お前らに勝ち目なんてないぜぇ! じゃあ、俺は本拠地で村を陥落させるための研究に戻るから、お前らはせいぜいその怪物に食われてな」


 更に、彼は己の名前を残しながらこの場から退散し始めた。

 1度走り出すとその速度は人が走る程度では追いつかない程に早い。

 シャチの力ならば追いつくかもしれないが、目の前の新たな敵の対処が優先となる。諦めるしかない。

 

「シャーシャチシャチ、まさかこの程度の魔獣を完成系と奢るとは井の中の豚ヘビシャチ!」

「こんな駄作はさっさと倒して、アジトの特定をやればいいだけオルカ」


 なお、肝心の鯱崎兄弟はこの状況だろうと相変わらず余裕を持った態度で構えている。

 私としては一体どこからそんな自信が湧いてくるのかと困惑してしまうが、その精神性を支えるだけの実力があるのだと彼らを、シャチを信じよう。


『キシャー!』


 そうしているうちに、スネークビートルはカサカサと動きながら自身の首をカブトムシの角による突きの要領で刺突していた。

 普通にくらえばそのまま体を丸呑みにされかねず、私と鯱二郎は横にバク転して回避を行ったが、鯱一郎はその攻撃の最中に首へ注射を行っていた。

 そして、体が白く発光すると、バクっと口へ取り込まれる寸前にシルエットが縮小していきサイズ差で口から絶妙に離れて回避に成功していた。

 光が消えると、その姿を現す。


「魔獣シャチ4号"ゴースト・オルカ・ソード"!」


 それは、宙に浮く1本の直剣だった!

 厳密には、剣の先端がシャチの頭部であり、真っ白な刃に黒い点や大きい線が綺麗な模様になっている!

 宙に浮く直剣と言えば"ゴーストソード"という命を持つ剣として襲いかかる魔獣ではあるが、まさか己の姿を無機物に変えることにすら抵抗がないとは、シャチとは別に鯱一郎の精神性もかなり常識外れと言えるだろう!

 

「キャッチ成功オルカ」


 それから、皆が攻撃の回避を終えたところで鯱二郎がゴースト・オルカ・ソードを右手に掴んだ。


「早速攻撃に移るシャチよ」

「兄上、言われなくともオルカ。剣技はソードフィッシュ(シャチ)を作った過程で人力ラーニング済みオルカ」


 自信満々であにを両手に握る鯱二郎。

 そんな彼に向かってスネークビートルは羽根を広げて飛翔。距離をとって攻撃を待ち構えているようだ。

 魔法が効かない以上は接近戦を仕掛けるしかない、賢い立ち回りに見える。


「シャチを舐めるなオルカ、バインドオルカストーム!」


 対し、鯱二郎はシャチ特有の大きな口を開けると、そこから何かが回転し風を作りだして横向けの竜巻が放たれた。


『キシャー!?』


 それはスネークビートルに直撃し、風の螺旋により体をガリガリと削っていく。

 数秒経つとスネークビートルは地面へと落下し、怯む。

 そういえば鯱崎兄弟は揃って自らの体を魔獣に改造している上に、異世界の機械科学による全身義体フル・サイボーグと呼べる身体であった。

 であれば、機械式の竜巻は魔法では無いので通るという理屈だろう。

 だが、この程度の攻撃で完全に無防備になるという油断した考えは避けたい。

 敵は魔法を通さぬ皮膚を造る程の技術を持って造られたクリーチャーだ、念には念を入れて、私もしっかり支援しておこう。


「スリープリリィ!」


 私は、起き上がろうとしているスネークビートルに向かって白い液体瓶を投げつけた。

 これは、睡眠薬としても使われる特殊な花の作用を利用した超強力な睡眠薬だ。

 投擲自体は不安定だが、止まった的になら当てられる。


『キ、しゃ〜〜〜zzz』


 見事命中、完全な睡眠状態に入った。


「援護感謝チ、トドメを刺すシャチ!」


 すると、眠るスネークビートルに対し、鯱二郎は大きく飛び上がると、そのままあにを振り上げる。


「喰らえ、鯱一文字斬りしゃち・いちもんじぎりオルカー!」


 そして、スネークビートルの元へ落下する勢いのままそのあにで斬り裂いた!


『キシァァァァァーーーー!!!!!!!』


 正しく一撃必殺。

 シャチの力はこれほどまでに万能性と破壊力を両立しているというのか!?

 私は、その姿を前に呆然と見ているしか無かった。


「ふぅ、いい汗をかいたシャチ」


 そんな無様な顔を晒している間にも、鯱一郎は元の姿へと戻っていく。

 もはや彼らをどう受け止めるべきなのか分からない。

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