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第3鯱 シャチジャンロッド

 その一言を告げられると、村人達は突然驚く。

 そもそもさっきの回転すら理解しきれていない者が殆どの中、皆の心まで蝕む病の病原菌がそこにあると言うのだ。

 突然現れた流れ者が村を救うというあまりにも出来すぎた物語は相当に不信感を煽ってしまうようだ。

 

「ど、どういうことですか!」

「そうだそうだー!」

「そんな簡単にわかったら苦労しないわよ!」

「なんなんだよシャチって!」


 村人達は石こそ投げないが皆あれよあれよと抗議を始める。

 だが、鯱崎兄弟はまるで話を中途半端にしか聞いてないかのようにマイペースな返事をした。


「じゃあ、俺達だけで問題を解決してやるシャチ、そうしたら認めてくれるシャチね?」

「何言ってるんだ!!!」

「そうよそうよ!」


 埒が明かない。

 ここは、鯱崎兄弟に加勢しよう。


「皆さん落ち着いてください。彼らの言うことに疑問を感じているのは仕方ないと思います。何を言っているのか分からない変わり者ですしね。だけど、ほら、〈毒型〉に噛まれた毒の治療を行った上に使えなくなった私の右腕を義肢に変えてくれた。それも全て無償だそうです」


 私は、その場で見繕った手袋と長袖の白衣で隠していた義肢をその場で村人達に見せつけた。

 皆が困惑や疑問に満ちた表情で黙り始める中、続けてこう話を広げる。


「なので、私も恩はあれど彼らを未だに信用してはいない。だからこそ、彼らについて行き、そこで何をしたのか皆に伝えようではありませんか!」


 本音を言えば、やはりシャチへの興味が強く、鯱崎兄弟が何をするのか一部始終この目で見ておきたいということになるのだが、ここはあくまで村の代表として立候補したということにしよう。


「確かに、マコト様がそう言うならお任せするのじゃ」


 村長からの許諾も得た。

 あとは出発するだけだったのだが……。


「次はこいつを打つシャチ!」

「移動力の確保は大事オルカらね」


 鯱一郎は魔獣への変身が解除された途端、また新たに例の注射を打った。

 よく見ると液体の色が違う、次は何に変わるというのだ!?

 だが、時が過ぎれば結果はすぐに出る。

 鯱一郎の体が白く発光すると、荷馬車とそれを押す馬なシルエットが現れ出す!

 光が消えると、そこに現れたのは木製の荷馬車! そしてその先には白黒カラーの馬……では無い、馬に近い四足歩行な身体的進化を遂げた鯱一郎がそこにいたのだ!

 更に、荷馬車へ向かい鯱二郎が御者として飛び乗ると、それは完成する!


「魔獣シャチ3号"ホワイト・シャチオット"だシャチ!」


 恐らくあれは、熟練の槍術を用いて戦車チャリオットを駆る魔獣"チャリオット・ライダー"が元なのだろうか。

 如何せん疑問が増えるばかりだが、今すぐにでも出発しそうだ。

 私は、シャチ魔獣が完成してからすぐ様に荷馬車へと飛び乗った。


「私も連れて行って貰えますか?」

「話は聞いているオルカ、見物客がいるのは大歓迎オルカ」


 よし、了承も貰えた。


「では、出発するシャチ、しっかりどこかに掴まっていないと飛ばされるから注意するシャチ」


 すると、そのシャチ魔獣は走り出した。

 馬などとは比べ物にならないほど高速、瞬間最大速度はマッハ級とも言える速度でだ!

 ただし、何かの魔力による仕掛けがあるのか降りかかるGは『ギリギリ耐えられる』と表現できる程度には抑えられている。それでも、堪えていたほんの数分程度の移動時間が何倍にも長く感じてしまうほど負担は大きかったが。



***


 辿り着いた先は、林に囲まれたどこかへ繋がる洞窟の入口だった。

 この近辺に洞窟があったこと自体が驚きだが、彼らの反応を伺おう。


「本当にここに、〈ヘビ吐き病〉の病原菌とやらがあるのですか?」

「シャチは嘘をつかないシャチ」

「信じろオルカ」


 何がともあれ、入るしかないようだ。

 まあいい、もしそれで問題が解決するなら医者としては好都合。

 そして、中へ入ると、そこは囲まれ暗くて狭い、まさしく洞窟とも言える様相だった。

 どうやら彼らは"かいちゅうでんとう"なるものを持ち歩いているようで、光源に困ることはない。

 だが、この洞窟はそれだけでは無い。

 なんと、壁や地面にヘビがうじゃうじゃと這いずっているのだ!

 当然、〈感染型〉も〈毒型〉も、双方共に大量におり、探索に集中している場合ではない。準備不足として撤退すべきだ。

 私はこの状況を前にそう考えていたのだが、鯱崎兄弟はシャチであり、そのような凡人的考えはしていなかった。


「そうだ、ここはマコトにやらせてみようシャチ」


 そう、私にやれと言い出したのだ。

 

「確かに、あの腕は魔力増幅機能を付けた試験型シャチからね」


 どういう言い分なんだ、理解できない。抗議させてもらう。


「待ってください、私じゃ力不足では? せいぜい適性のある雷魔法ぐらいしか攻める手段もないんですよ?」


 だが、それに対する返答は更に予想を超えるものであった。


「それはどうかなシャチ。お前はどうにも以前俺達を苦しめた強敵セレデリナ・セレデーナに似た何かを感じるシャチ。だから、一旦右手を触媒にして魔法を撃ってみるシャチ」


 セレデリナ・セレデーナといえばフレヒカ王国最強の〈ビーストマーダー〉じゃないか!?

 私が彼女のような強者と肩を並べる存在だとは到底思えないが、さっきも嘘をつかないと言っていた、やれる限りのことを尽くそう。


「アォーーーーーン!」


 そこで、私はまず吠えた。

 種族としては半獣人種のオオカミ科。

 基本的にはヒト種として生きていたいため控えているが、オオカミのように吠え、敵に自分の居場所を伝えることが可能なのだ。

 そして、鳴き声に反応してかヘビ達は一斉に私の元へと飛びかかった。

 四方八方というよりは一直線、であれば計画通り。

 

「そろそろ来る、パラライズトリカブト!」


 そう、私は吠えるのに合わせて携帯カバンから緑色に変色した液体瓶を3つ取り出していたのだ。

 この中身は麻痺毒が何倍にも希釈されたモノで、余程毒耐性のある生物でなければ素肌に1滴触れるだけでも全身が痺れて動けなくなる。

 これをヘビに向かって投擲することで、大多数の動きを止めることに成功した。


「では、トドメを刺しましょう」


 サラムトロスにおいて、魔法を使う適性がある者は更にそれを安定させるために"触媒"を使うことがある。

 「この杖から魔法は出るものなのだ」という形でイメージを固める手段としては有用で、熟練の〈ビーストマーダー〉でも使うことがあるぐらいだ。また、使用の有無が天才性を表すなんてことも無く、本当に個々の魔法を唱える際に込める魔力のイメージを整えるための相性の問題でしかない。

 そして、私は触媒を普段から持ち歩かないのだが、これは何時いかなる時も人を魔法で治癒する際に困らないためだ。

 サラムトロスの医者は皆、魔法で人を治癒する。故に、これは必須の能力とまで言えるだろう。

 だが、私は今から己自身の右腕を触媒に魔法を唱える。

 確かにそれは、()()()()()()()()()()()()()()()()からこそ可能だ。

 詠唱時間からしても間に合う、行くぞ!


「セカンド・サンダーカラミティ!」


 ……!?

 私は今、セカンド級のサンダー・カラミティを唱えた。

 だが、何故だ、詠唱を行わないで速攻で発動に成功している!

 一体何が起きていると言うんだ!?


「ええい、やぶれかぶれですよ!」


 私は右手の掌を広げた状態でバン!と岩壁に叩きつけると、あえて狙いを外した鯱崎兄弟を除き、洞窟の壁や床や天井などを伝って半径4m20cm以内にいる全ての生物に10万ボルトはある高圧電流が流れた。


「「「キシャアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」」」


 それにより、たった一瞬で私達を取り囲んだいた蛇共は丸焦げになり全滅。

 荒波を切り開いた神話の物語な如く、我々は安全な道を確保することが出来たのだ。


「さあ、先へいくシャチよ」

「オルカ」



***


「何なんですか貴方達は!」


 ヘビの駆除を完了させた私は、鯱崎兄弟に抗議した。

 命の恩人ではあるが、この腕は謎が多すぎる。


「そもそも義肢としての運用を想定しているモノではなかったんだシャチよ、それ」

「はぁ」

「そう、シャーチネーター・ソーサラーという新型のオートマシンを造るための試作腕だったんだシャチ!」


 まずい、ますます何を言っているのか理解できない。

 しかも、そのよく分からない兵器の腕を持つ私自身、ある種シャチになのでは?

 という新たな疑問まで浮上してきた。

 増え続ける疑問が晴れる日が来るのだろうか不安で仕方ないが、今は村のために前に進むとしよう。

【大事なお知らせ】

作者として様々な統計を取った結果、「投稿時間を変更することで多くの方に当作を楽しんでいただけるのでは?」という考えに至りました。

そこで、3章2節を更新している期間中は試験的に投稿時間が『平日は17時~20時の間不定周期(基本19時前後投稿目標)、土日祝は12時~15時の間不定周期(基本13時前後投稿目標)』に変更されます。

いつも朝の投稿を楽しみにしていただいている読者の皆様には申し訳ございませんが、作者の我儘に付き合って頂けると幸いです。

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