第84鮫 ハンバーガーシャーク
三章二節、今月投稿は不可能でした。
というのも、今月のGW~今にかけて1章~2.5章を全文大幅改稿していました。
理由やそれに伴う変更点については
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1659972/blogkey/2800797/
をご参照ください。
ただ、読者の皆様のご負担にならないよう、
・『鮫の乗り手』→『鮫の騎乗者』 に名称(あくまで鮫沢博士が適当な事を言っているだけなのでかっこいい言葉に思い切って置き換えました)
・彩華の『モテない』という性格・外見から見て不自然すぎる設定の削除
・第1鮫~第5鮫の内容が全3鮫に圧縮された関係で話数のナンバリングが2鮫分全話繰り下がりました。
・第64鮫にて、前後の会話から明らかに不自然な展開であったため彩華がコントロールしているサメによるトドメではなく、鮫沢博士に操作の主導権を譲ってトドメを刺す形に変更しました。
この4点の変更点はこちらでもあえて書かせていただきますが、その上で読み返す必要もなく、今後の読書に困らないように調整しましたのでご安心して楽しんでください。
なお、今回の短編は全3話で、3日かけていつもどおり朝8時に投稿されます。
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SIDE:鮫沢博士
***
……何故わしはハンバーガーを作ることになったのか。
だが、そうなった以上、究極のサメバーガーを造るしかあるまい。
***
王位奪還スリーマンセルバトルから3日後、わしは彩華に誘われてゼンチーエでリニューアルオープンしたハンバーガーショップ『ウミ☆キッチン』に来ておる。
『サモサモ』にも似たスイングドアに厨房と繋がったカウンター席があるなど、全体的にオシャレな雰囲気じゃ。
ここは、彼の友人であるボブという男がそのハンバーガーテクニックによって新メニュー考案を任され1週間ほど厨房に立っておるそうで、その経由での無料による試食が今回の用事となる。
なお、厳密にはプレオープン期間であり、わしらは事実上の貸切状態なんじゃぞい。
そして、店の扉を開くとボブの大きい挨拶が響く。
「ようこそ、ウミ☆キッチンへ!」
「よっ、俺だ」
「おお、来てくれたか彩華。噂のじいさんも居るようだな、食に厳しいらしいから助かるぜぇ」
わしの舌をなんだと思っておるじゃこいつは、サメを食すためにあるんじゃぞ?
とはいえ、お偉いさんとの会食も多く質の高い料理の味を誰よりも理解しておるつもりではある、来てしまった以上は美味しく頂くのが礼儀じゃな。
「この店のオススメはなんなのじゃ?」
「よく聞いてくれた! 俺が考案した新メニューを振舞ってやるぜぇ!」
「俺も同じのを頼む」
ボブは褐色のヒト種で、恐らくは調理衛生のためスキンヘッドにしているようなのじゃが、それも様になっておる。
彼はわしらの座るカウンター席からよく見える厨房に立つと、颯爽とバンズを切り分けながら網で軽く焼き、それと並行して野菜を切り何かを揚げ始めた。
奥には店主もいるようで、サポートに回っている様子。
「完成したぜぇ、海鮮スペシャルバーガーだ!」
そして、調理が終わりテーブルに置かれたのは手のひら大のサイズで、トマトやレタスと共に挟まれた揚げ衣に包まれている物体が目立つハンバーガーじゃった。
同じ皿の上には付け合せのポテトも乗っており、ジャンキーな見た目が凄まじい。
とてもじゃないがわしのような老人の胃に合うジャンクフードには見えないぞい。
「考えてみたら、これは鮫沢博士の老いた体に合うのか……」
「文句言う前に食べてみなって、俺の腕を信用しな」
そうして、わしは胃のことを諦め口に頬張ったのじゃが……その時世界が変わった。
「これは美味しいぞい!」
「う、美味い! それでいて新しい!」
揚げ衣の正体は動物肉ではなく魚肉! それもフライに合うアジじゃ!
まるでパティのように円形に加工されているから騙されたぞい。
また、バンズは一見普通なようで、鰹節の風味が効いており味のアクセントになっておる。
野菜も醤油ベースのソースが上手く絡んでいるのかアジと喧嘩せず、それぞれの味がひとつに合わさった時口の中が幸福で包まれるまろやかな味わいじゃ。
しかも、気がつけばペロリと完食してしまったものの、胃もたれを全然感じないのじゃ。
「ボブじゃったか、これは中々に良い油を使っておるな?」
これは、カラクリを聞いておくのが礼儀と言える。
「よく気づいたなじいさん、俺はいつもお客様第一を考えて料理をしているからそりゃ当然よ! 何せ、この油は自作の胃に優しいモノを使ってるんだぜぇ。それと、当然俺が離れた後も大丈夫なようにレシピは店主の頭の中に入ってる、味は俺が離れようがいつ来ても変わらねぇ」
こやつ、実力だけではない本当にすごいコックなのじゃな。
ただ、どうにも饒舌なようで余計な話が広がり始めたのは面倒な所じゃのう。
「この店は接客や店のレイアウトとかは問題ないんだが、料理がワンアクセント足りなくてなぁ。それでリニュアールのタイミングを見てアドバイザーとしてフレヒカからわざわざ来たんだが、ラッターバ王国で普通のハンバーガーを出しても売れねぇって根本的な部分が抜けてたんだよ。魚料理が主流のこの国で無理に動物肉を食わせようとするのは悪手って訳だ。なんで、俺は今後の目玉にこのアジフライバーガーを考案してやったのさ」
何がともあれ、さっきのハンバーガーの誕生秘話は理解出来た。
彼の人間性あっての料理というものなのじゃろう。
***
それからしばらく食後の雑談を彩華やボブとしておった。
「で、やっぱりじいさんのサメは凄いのか?」
「バチアタリなことを除けばな……」
「失礼な!」
追加で注文したフライドオニオンに、キンキンに冷えたビールをジョッキでいただきながらと非常に充実した時間じゃった。
――奴が来る前では。
わしが1杯目のビールを飲み干した時、団らんとした空気を裂くように突然と貸切状態のこの店のスイングドアが蹴破られたのじゃ。
「ようやく見つけたっす! お前が噂のボブっすね!」
彼は所謂ドワーフにあたる、大体が成人で120cm〜150cmと小さな背で、その分筋肉質な体格で力も強く手先が器用な種族の中身種なのは間違いない。
若く童顔で丸刈りが特徴の男性であるが、何をしに来たのじゃろうか。
「おう、俺が噂のボブだぜぇ」
「俺っちは、腕に自信のあるコックの店で料理対決を挑み、勝てば物理的に看板を持ち帰ることで生計を立てている旅の料理人……人呼んで料理人狩りのヴァンっす!」
思いのほかめちゃくちゃはた迷惑な奴が来たのう。
「フレヒカ王都にあるお前の店に行ったらラッターバに出張中だなんて聞いて対戦拒否されたからここまで来てやったんだ、俺っちと勝負しな!」
目的も予想通りと言える。
はたして、ボブはどう返事するのか。
「いいな! なら、審査員はそこにいる2人で、さっき食べたばかりだから夜にここで料理を出して、お前が出したモノが俺のより美味しかったか判定してもらうってのはどうだ?」
おっと、何故か流れ弾が飛んできたぞい、抗議せねば。
「おいまて、勝手に巻き込むな!」
「そうじゃそうじゃ!」
「すまねぇ、こういうバイタリティ溢れる奴は逆らったら何をしでかすか予想がつかないんだ、ここは話に乗ってくれねぇか?」
くっ、そう言われるとどうしようも無い。それもそのはず、わしなんて正しくそのバイタリティが溢れ何をしでかすか分からん奴じゃから容易く理解できる理論となる。
どの道晩飯がハンバーガーになるだけじゃろう、ここで産んだ恩が何かのサメに繋がると信じ引き受けてやるぞい。
「そこまで言われるなら、いいぜ」
「料理の審査はこのわしにお任せなのじゃ」
すると、料理人狩りは突然飛び上がりこう叫んだ。
「ひゃっほう! フレヒカ最強のハンバーガー職人と勝負できるぅ!」
***
夕飯時、わしらはまた『ウミ☆キッチン』へと訪れた。
リニューアル直後の招待制プレオープンな今、昼以外は店を開けていないはずじゃが、今日という日に限ってはこの時間にも入ることが出来る。
そこでは、料理人狩りが腕を組んでわしらを待ち構えており、店に足を踏み入れるとすぐ様に料理を始めた。
「いらっしゃい! 俺っちのハンバーガーを楽しみにしてて欲しいっす!」
「マジで何が来るか予想出来ねぇ」
それから10分後、わしらの前にソレは振る舞われた。
見た目だけならシンプルにバンズに野菜と合い挽き肉のパティを挟み込んだハンバーガーで、付け合せのポテトも普通。
強いて特徴いえば、盛り付けにせよハンバーガーの形状にせよ、乱れがなくジャンクフードとは感じれない……いわば高級レストランに並んでいてもおかしくないほどに上品な雰囲気を放っておるぐらいかのう。
これであのアジフライバーガーに対抗するとは、1周まわって全然味の予想が付かんぞい。
「いただきます」
「いただきますじゃ」
「俺も頂くぜ」
じゃが、そのハンバーガーを口につけると全ては一変する。
そう、一言で言えば全てがバランスよく整っている、口の中で混ざりあった時、そんなひとつの味がしたのじゃ。
「う、美味い……」
「なんなんじゃこのハンバーガーは! こんなに美味いハンバーガー、初めてじゃぞい!」
「おいおい、とんでもねぇのが来たな」
とにかく上品、程よく硬く肉厚を感じられるパティも、それと混じり合うレタスにオニオンも、その全てが合わさる事で光カネモチも闇カネモチも皆が美味しく会食でいただくような、そんな高級感溢れる味わいになっておった。
ボブのハンバーガーを正当に進化させたようなソレは、わしの舌をも唸れせた。
そんなわしらの感想に対して、料理人狩りは解説を始める。
「俺っちの料理人狩りバーガーはとにかく統一感を重視してるんだ、特にパティはマグロ肉を混ぜ合わて作ったオリジナル品っす! 後は魚介に合う手製オイスターソースで味を整えてやればそれになる訳っす」
解説で尚理解した。
このハンバーガーは本当に美味い料理じゃ。
何より高級な味付けはわし好みで、素直にボブのアジフライバーガーよりこの料理人狩りバーガーの方が良かったと言える。
こりゃ、彼の勝ちじゃわい。
強いてボブのハンバーガーに勝っている要素があるとすれば、食後の胃もたれの有無ぐらいじゃ。
少しながら胃がしんどいぞい。
「どうっすか、俺っちのハンバーガーは」
「ああ……ボブのより美味い」
「うむ、これに適うハンバーガーなんぞ出会える気がせんわい」
しかし、これで勝負は決まってしまった。ほぼ蚊帳の外である店主は、可哀想な事に自分に関わりにのない話で物理的に看板を奪われてしまうのじゃろう。
――だが、ボブだけは素直に勝敗を決めなかった。
「おい、待ってくれ、明日だ!」
その一言に、皆が困惑したが話は続くぞい。
「明日の同じ時間、このハンバーガーより美味いのを出す。それまでこの勝負の結果に白黒を付けないでくれるか?」