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第80鮫 シャークマンサー

 組織員達もやる気の充ちた表情で会釈を返した。

 彼らもまた、サメばかりにいい格好をさせられないプライドがあるのだ。


「ルールとしてはお前さんの部下が全滅したらサメの勝ち、わしの石が光ればカニの勝ちじゃ」

「やってやるデース」

「「「「「了解!」」」」」


 こうして、最後のサドンデスファイトが始まった。



***


「歌うはこの曲、キャンサーボンバー!」

「私この曲好き!」


 SEとして細かく爆発音が入る曲が流れると、少しだけ鮫沢が距離を離した。

 懐から何かを取り出したかと思うと腕に装着。

 そして、横から見たサメの顔な形状の装置ギアは、彼が叫んだ途端に目を発光させる!


「シャークチェンジャー!」


 すると、彼の体を鉄の物質が包み込み、雷が落ちたかのように周囲から煙が立ちこめると、最後にはその姿を現す。

 シャープに尖った線のボディ! 足には加速を促す胸ヒレモチーフの刃! サメの口を袖にして人の手が出ている両腕! サメな頭部! これは、アーマードなシャークか!?

 いや、違う! これこそは……!


「異世界サメ36号"シャークマンサー"! ここに見参じゃ」

 

 実は、このサメは以前彼の研究室に立ち寄った際に設計図を盗み見て写真として敵技術フォルダに保存したので知っている。

 彩華が使っていたサラムトロスの携帯式展開鎧技術の応用品を更に強化した、鮫沢悠一専用パワードシャーク。

 まだ試作品で34分という制限時間がある上、一度装着すれば時間切れまで解除不能と不安定要素の塊。それが理由で今回の試合では使用を控えていたのだろうが、正しく最終決戦とも言える今ではそのデメリットはあってないようなものだ。

 ――何せ、半径34mにある全ての物質に向けて〈シャークゲージ〉を飛ばして付着、そして鮫に変換することが出来るのができるのだから。


「まずは先制攻撃。異世界サメ1号"ウッドシャーク"じゃ」


 彼の背後にある木々が怒涛の勢いで34cmの木製コバンザメへと変質し、軍隊が斉射する銃の如くサメ弾幕を張り出した。

 ここまで試合開始からわずか3.4秒、人並み以上の日頃の運動と技術力の合わせ技としてはある種非サラムトロス人の限界地点かもしれない業だ。


「俺が守りますぜ」


 このサメ弾幕を前に、タイラントが前に出て大剣型青蟹刀を回転させながらカニ達へ攻撃が飛ばないよう防御に出る。


「残念じゃが、大男が盾になるなど予測済み、半径34m全方向サメを舐めるんじゃないぞい」

「なんだとぉ!?」


 彼の説明の通りなら敵に回した途端理不尽極まりなく厄介な能力を持つが、デメリットも当然存在する。

 それは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というものだ。

 既に変換したイメージ元があるものに限定する事で遠隔付着変質を可能にしているからだ。

 当然、〈シャークゲージ〉を使用せず〈指示者オーダー〉の素材さえあれば何でも造れる特性で生み出されたサメも適用外。

 彩華がいない際に使うことを想定してるいる限定的〈シャークゲージ〉特化型パワードシャークであると設計図に書いてあった。


「異世界サメ18号"リーフ・シャークネーク"、毒は未実装じゃ」


 あれは確か、セレデーナの仕事を手伝った際に生み出したらしいサメ。

 草を蛇のような細長い体のサメに変え、相手を絡め取りながら喰らい尽くすモノ。

 地面に生えた草の数だけ作り放題で射程範囲の対象は全て絡め取る厄介なサメ、今日という日のために造らないでいて欲しかった。


「身動きが取れない……やめろ、噛み付くな!」

「こんな束縛ありか!?」

「サメ、厄介ね」


 魔法使いのサンタナ、剣士のクレハが拘束された。

 上手く後ろに下がっていたスペイカーとレールは無問題のようだ。

 こうなると、今の小さい体を逆手に取ってすばしっこく回避をしつつまずはスペイカーの元へ飛び込もう。


「師匠!?」

『武器と合体 最適デース〜♪』

「主はやはり賢い、後で爪に来てください!」


 やけに食いつくレールは無視してワイヤー鎌型青蟹刀のオプションアタッチメントへ変形して合体。

 持ち主とは別の意志を持って動く第二のワイヤーカニ爪鎌が付着した。


「なるほど、鎌だけに草刈りと行けばよろしいわけね」

「YES!」


 スペイカーは遠くからブンブンとワイヤーで伸びる鎌を振り回してリーフ・シャークネークを伐採していく。

 アタッチメントとなった第二のワイヤーカニ爪鎌もまた自立してそれに協力、ものの数秒で組織員達を絡め取り噛み付いていた草サメ達は刈り尽くされた。


『キャンサー・ボンバー 敵を殲滅〜♪』

「これは快適」


 彼はレールとほぼ同期で、鎖鎌を使った武術の一家生まれ、そして、暗月長耳種という漆黒の素肌を持つ種族だ。

 当時はヒト種換算だと16歳(つまり160歳)と若く、その上で鎖鎌術を免許皆伝まで極めており家族思いの兄ちゃんであったが、街ぐるみのマフィア騒動で家を地上げされ門下生も泣く泣く全て破門という不幸に遭っていた。

 確か、奴隷オークションの参加者を虱潰しに消す仕事を受け持っていた時期なのもあって、被害確認時に彼を確認してピンと来たのか鎖鎌を応用すればバレずに暗殺ができるとカニの仮面を付けた師匠として現れ暗殺術を教えてやったという経緯だ。

 その結果、地上げマフィアのボスを殺害、加えて元〈女神教〉の裏工作で組織ごと壊滅したのだが、家の道場が復活したものの彼は組織に入りたいと言ってきた。

 その結果、今では鎖鎌の進化系として伸縮式のワイヤーまで使いこなして戦うアサシンとなったのだ。


「師匠のおかげで隙が見えた、鮫沢さん、覚悟!」


 そんなスペイカーは、ワイヤー鎌を鮫沢の元へ伸ばすと鎧の肩部へ引っ掛けることに成功していた。

 そして、そのままワイヤーを収縮させて即座に鮫沢との距離を肉薄状態にまで詰めた。


「うぐぐ、クモみたいなカニで厄介じゃ」


 また、こちらも草刈りが終わり、アタッチメントととして援護攻撃に入った。

 自律して動くカニ爪型ワイヤー鎌は、鮫沢の造るあらゆるサメを通さない。


「所詮武術では素人、至近戦で勝てるわけが無いよね」

「ああ、その分頭はいいんじゃよ、お前さんらの戦い方は先程横で戦っておったからなんとなく把握済み、勝てない勝負を挑むほどわしは愚鮫ぐシャークではないぞい」


 鮫沢は突如として指を弾くと、彼の目の前を通り過ぎるように茶色く巨大な何かが走っていった。

 よく見れば、クジラのように大きい丸太! しっぽと7本のヒレ! 先端にはサメの頭部が生えた丸太型のサメが! スペイカーを咥えているではないか!


「異世界サメ19号"ひのきのさめ"、大物なら大物で事前にサメを作り置きしておくことも可能なのじゃ。ようはウッドシャークのジンベイザメバージョンと言ったところかのう」


 轢き逃げの為の車を作り置きするとは小手先まで効いている。

 あのままではスペイカーも丸呑みまで抵抗したとして持つのは1分程度、今のアタッチメント形態では小手先が効く分彼をサポートするにはパワー不足だ。

 一旦タカアシガニへと変形して横走りで素早く別の組織員のサポートへ切り替えよう。


「残念ながら俺たちはハンチャン好き好き集団に見えて足の引っ張り合いは禁止でね。何よりただで退場するつもりないよ」


 一方、当のスペイカーはワイヤー鎌を引っ掛けたままの状態にしており、伸びたワイヤーが50mほど離れた場所にいるひのきのさめの口元から引っ張り続けている状態を作ることで移動妨害を成立させた。


「そういうことですよ、次は僕の番だ」


 そして、鮫沢の背後にはレールが待ち構えていた。

 背後からの蟹爪による攻撃、設計図から考えられる鎧の硬度で防ぎきれる攻撃ではない。


「攻撃の瞬間は足が止まる。そのような近接攻撃はサメのエサ用カモじゃ」


 しかし、鮫沢の足元後部の草がリーフ・シャークネークへと変質、彼の四肢を拘束してしまった。


「これも全部狙い通り。歳のせいで注意不足なのかもしれませんね、おじいさん」


 だが、後方に意識を向けたことで隙が生まれ、拘束が解けた残りの組織員達が総掛かりで鮫沢へと接近していた。

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