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第76鮫 さめざわがほざく頃に 鮫明し編

***

SIDE:鮫沢博士

***


 遡ること3日前。BARの地下で王位奪還スリーマンセルバトルの話を終えた後、わしはふらっと寄った2軒目で偶然にもエビマンと出くわした。


「エビマンが何故ここにおるんじゃ?」

「ここはお気に入りの店でねぇ、もっと落ち着いて呑みたかったのさ」

「それなら仕方ないのう」


 店こそ『サモサモ』と似たような雰囲気であるが、ここは出す酒がまた別の美味さで気に入っておるのじゃ。

 特にウイスキーが良い。


「そういえば、お前は参加しないんだったな」

「悔しい話じゃが、ハンデなしの1対1で戦う分にはわしよりハンチャンの方が強い上に2人の王が確定枠。そうなると、わしは今日と変わらず研究と酒に勤しんでおけば良い」

「ふむふむ。名前は鮫沢だったか、あんたは体を動かすことには慣れていてもインドア派のようだな、良くも悪くも戦士ではなく学者なのは見て取れる」


 勝手に分析しよって、何なんじゃこのエビマンは。

 しかも、いつの間にか相席で酒を飲み始めることとなった。

 なお、あの酔い覚ましの薬を使えば無限に飲めることに気がついたわしは、こうやって毎日酒豪の如くのんでおるぞ。サラムトロスにもいいところはあるもんじゃわい。

 そうして、最初の1杯目で乾杯した所、エビマンが何やら興味深いことを聞いてきよった。


「ところで鮫沢、ここだけの話なんだが、実は俺のチームは1人分の枠がまだ埋まってないんだ。俺の元で戦ってみないか?」


 くっ、こやつは最初から勧誘が狙いじゃったか。

 国と直接話が出来る程度には大きい漁師協会の会長じゃ、まだ各国のお偉いさんぐらいしか詳しく知らんであろう事も伝わっていて、その中でもわしのサメは当然知っておると考えるべき。


「こっちとしては確実な支援を得られる鮭王と熊王が国を統一していてくれていなければ困る、お断りじゃわい」


 なので、ウイスキーを1口飲んだあとそう答えてやったぞい。

 じゃが、彼はその返答すらお見通しなのかとんでもないことをわしに小さな声で耳打ちしてきた。


「ちなみに確定している1枠は、あんたが会いたがっていたアミキナ王国の女王の娘、ルーイダ・アミキナーだ」


 ……その話を聞くと全てが変わってくる。

 わしの今の目的は本質的にサラムトロスの平和など正直どうでもよく、アミキナ王国にいる異世界チョウザメに会うことじゃ。

 最悪勝負に勝てなかろうが、上手いことその王女からシャーク好感度を確保することが出来れば目的達成は容易いかもしれん。


「その話、詳しく聞かせてもらおうかのう」


 わしは、悪鮫の誘い(サメフィスト・サメス)に乗ることにした。

 別に、最初から勝ちに貢献してやるつもりも無いぞい。


***


 翌日、エビマンの家にてティータイムをしておった。彩華にはいつも通り豪遊と告げておるからアリバイも完璧じゃ。

 和風の屋敷に置かれた丸椅子の上へ振る舞われる洋菓子に紅茶といろいろなものがミスマッチしている空間にて、トカゲ王女も交えて優雅なひとときを過ごすことになったぞい。

 彼女は鱗状の皮膚で、瞳孔が開ききった瞳に割れた舌先とまさしくトカゲな顔であるが、手入れを欠かせていないのか鱗自体が美しく優雅。衣装もお淑やかなドレスを身にまとっており育ちの良さが伝わるわい。

 なお、貿易関係でエビマンは彼女と知り合い、武闘家として意気投合。現在は友人同士顔を合わせる機会があれば上手く時間を作って手合わせする仲みたいじゃ。

 わしの周り、拳で繋がる仲の者たちが多すぎやせんか?


「で、彼は何者ですの?」

「あー、母親は教えてくれなかったみたいだな。こいつは鮫沢悠一、ざっくり言えば異世界から来た勇者だ」

「お偉いさんの間でプロパガンダ的にそうなっておるそうじゃ」


 さて、早速サメの話と行くべきじゃろう。

 まだお互いに自己紹介もしておらんから都合が良い。


「そうじゃな、まずは自己紹介がてらサメを知ってもらおうかのう」

「ひとまず聞いて差し上げますわ」

「ほう、こちらも伝号の情報でしか理解していなくてね、興味深い」


 わしはタブレットを起動し、原点にして頂点とも言えるあの有名監督のサメ映画を再生したぞい。


「これが異世界の技術ですのね」

「魔法がないんだ、これぐらい科学が発達して創作物の表現がこれなるのは自然に思えるねぇ」

「確かに、そのご意見には同感ですの」


 セレデリナや鮭王に比べて食い付きが悪い。

 思えばシャークルーザーで上映会をした時も魔王は似たような反応じゃった。

 これはつまり、シャーク好感度は2人とも望み薄で、エビマンもあくまでビジネスシャーク(ライクな?)な対応をしておるだけじゃろう。


 それから約2時間後、上映が終わった。


「これがサメじゃ」

「うーん、この市長は問題管理がガサツ過ぎませんこと?」

「いや、せいぜい並の政治家として教育を受けたやつや庶民から出世したエリート気取りはこんな奴ばかりだ、若い間に勉強出来て良かったんじゃないか」


 予想はできておったが、なんとも言えん雰囲気になってきた。

 こうなると、本番では実質5対1でエビマンを倒す内部工作を妥協してトカゲ女王は上手く負けてくれることを祈るべきじゃろう。

 その過程でのトカゲ王女のシャーク好感度だけでなくヒューマン好感度を上げる形で戦えばいいのじゃ。



***


 また時は進み翌日。

 明日の王位奪還スリーマンセルバトルに備えたミーティングをしており、そこでエビマンが席を外している間、わしはトカゲ王女と少し話をしていた。

 

「そういえば疑問だったのじゃが、どうしてお前さんはこんなクーデターまがいの戦いに望むのじゃ?」

「そんなもの、ムーン・ルーンやバーシャーケー・ペンサーモンと闘える機会などそう無いからですわ。それに、どの道お母様はあまりフレヒカやラッターバが好きではありませんし、大した問題にはなりませんの」


 気になったことを質問しただけじゃがサラリととんでもないことを言いよったな。


「そうじゃ、3分40秒ほど待ってくれんか、いいものを造れそうじゃ」

「そういえばおじいさまは異世界の技術者でしたわね。実力をよくわかっておりませんでした、楽しみに待ちましょう」


 とはいえ、ここは上手く受け流しつつ実益を兼ねた媚びを売ろう。

 わしも少し席を外し、彼女が元々する予定であった変装とは別にサメ頭のフルフェイスヘルメットを作ってやったのじゃ。

 彼女がどれだけ屁理屈をこねようと、正体を晒して戦われると今後国際問題になってその余波をわしが受けかねんからのう。

 

「異世界サメ52号"サメット"じゃ、顔が全て隠れる上に布のように軽く、しかも視界に影響が一切出ないハイテク品よ」


 元々買い込んでいた資材を携帯しておったので、その中のガラスや鋼材を携帯はんだやとんかちで錬成して作った奴じゃぞい。

 しかし、それを試しに装着し空中を殴る蹴るなどして体を動かした彼女の返答は以下のようじゃった。


「性能は素晴らしいですわね……見た目のセンスねぇなこのジジイ」


 後半がよく聞き取れんかったが、非常に苛立つ顔をしておったのはよく覚えておる。

 そこから先の彼女のわしへの対応がやけに悪くなっていった気もするが、考えすぎじゃろう。

 その後わしらはわし自身を囮にした作戦などを考案しつつ、念の為屁理屈を捏ねてエビマンをハンチャンと一騎打ちさせることにしたぞい。サンタ・クロースに勝てなくてエビにも負けておるなんぞ、ハンチャンにとっては許せない事じゃ。こういう時ぐらいチャンスを与えてやってもええじゃろう。

 まあ本音を言えば、三人同時襲撃を下手にやると勝ってしまいかねん気がしたからじゃなんじゃがな。



***


 そして、ちょうどトカゲ王女が敗北した直後に戻る。

 正直勝負が始まったぐらいで鮭王をサメで倒せるチャンスを得たことに気づいてしまい、完全に勝つつもりで立ち回っておった。

 そろそろ正気に戻らねばならん。

 まず、現状としてシャーク・インパクト・アイシクルが落ち着くのを待っている間に勝負が終わり、元々彼女の魔法で結晶化したサメなのもあって気絶した途端魔力が途切れ、みるみるうちにただのサメゴリラに戻ってしまった。

 更に、この海も同様に底の方から本来地面だったものに修復を始めていて、また舞台を地上に移さねばならぬ。

 ただ、鮭王は熊王どころかトカゲ王女まで抱えてどんどん海から上昇しておるが、この隙を狙えば美味しくシャケよりサメの方が強いということを証明出来てしまいそうで欲が出る。

 ……いかんいかん、このタイミングで不意打ちして勝とうものならあやつは「サメなど所詮そのような卑劣生物だったんだなァ!?」とキレてシャーク好感度はわしとサメの社会地位ごと地の底じゃ。

 というか、この勝負はもう根っからエビサイドだったトカゲ女王が退場した以上、エビマンを全員で囲い叩くべきなんじゃよ。



***


 しばらく時間が経つと海は消え、芝生の上にわしと2人を抱えた鮭王が対面している状態となった。

 なお、サメゴリラことシャーク・インパクト・フォレストはボロボロと崩壊して粉になり消えた。もう少しぐらい持ってくれても良かったじゃろう……。

 さすがにそろそろ茶番も終わりと諦めて…いや、正直鮭王を倒したいがトカゲ王女からそれらしい好感度を得られなかった以上、チョウザメは一旦諦めて今の環境を継続するために現状を語るのが先決じゃろう。


「鮭王や、ひとつ話を聞いてくれんか?」

「なんだというのだ、鮫沢ァ?」

「実はわし、ひれひれさめさめなのじゃ」


 ひとまずは惜しみなくこれまでの経緯を語ってやったぞい。

 さあ、一緒にエビマンを叩きに行くのじゃ。


「卑怯ゥ! 悪逆非道ゥ! この神聖な場でそのような手を打つかァ!」


 ……いや、こりゃ大失敗じゃ!

 わしは根本的な部分を見逃しておった。

 元々からして鮭王は真剣勝負を好む奴じゃ。

 なら、わしが裏で回って勝負に確実に勝つ作戦など気に入るはずがない。

 もっといえば、『チョウザメに会うための媚び売り』と『クーデター紛いを食い止める』の2つの考えは本来天秤にかけてどちらかを選ぶものであり、両方を選んだ欲張りなわしはこのままだとどちらも為さらぬまま、二鮫にざめ追うものは一鮫いっさめも得ずなことになってしまうぞい。

 これはもうヒレ上げじゃ。


「ゆ、許して欲しいのじゃ」


 もはや震えた声で土下座する以外の選択肢はない。

 ラッターバ人に誠意が伝わるかは分からんが、これ以外の選択肢は無いのじゃ。


「落ち着けェ、そして頭を上げろ鮫沢ァ」

「えっ」


 しかし、実は鮭王の言葉には続きがあったみたいじゃ。ちゃんと聞くぞい。


「今回の勝負はそもそも鮫沢がアミキナ王国とのコネクションを求めていることを突いてェ、味方が敵に回ってしまったことによる精神攻撃を狙った行動と見て間違いないィ! それは半場善意での行動であるお前に対して圧倒的な悪意ィ! ならばァ、今回だけは許すゥ!」


 な、なぜか許された。

 ここは余計な発言は控え、許されておくべきじゃろう。


「よし、それじゃあエビマンの元へ向かうぞ鮭王!」


 であれば返事はこれしかない。

 じゃが、そう事が上手く運ぶという訳にも行かんみたいじゃ。


「残念ながらァ、我輩も鮫沢との戦いで体力を消耗しきっているゥ! なのでェ、我輩の代わりにハンチャン殿の元へと向かうバトンタッチということにしてくれないかァ! 本当は根気で立って鮫沢と1分戦うことは可能であったがァ、この説明をしている間に尽きたァ!」


 鮭王はそう告げると、バタンとほかの2人と川の字になって倒れたのじゃ。指輪型の生命連動石も青く光っておる。

 何がしたいんじゃこやつは!

 とはいえ、許しも貰ったわけじゃ、ハンチャンの元へ向かって加勢するのがいいじゃろう。

 問題は、あのシャーク・インパクト・フォレストがスタート地点にあった森林を同サイズ規模分皆で集めて作ったもの故に、今から作り直しは極めて厳しい。

 上手いこと短時間で完成させられるサメで走って向かうしかないじゃろうが……。


「ハンチャンは一体どこにいるんじゃ! なんにも考えておらんかったぞい!」

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