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第75鮫 シャーク・ダイバー

 そう言うと、バーシャーケーは巨大化したまま魔法製の海へと飛び込んだ。

 あたしもその姿を前にすぐ様頭を切り替えて飛び込む。

 こちとら魔法に疎い代わりに水中では10分間行動に支障なく呼吸できるよう水中戦の鍛錬を積んでいるのさ、考えてみれば特に不利になったわけでもない。

 独自の呼吸法もあって会話もある程度は可能だ。


「お二人が見えないねぇ」

『何となく居るのは分かるのだがァ』

「あんたの声はうるさいからこっちは隠れようがないんだよ!」


 ただ、2人で敵を探して潜り続けていても水中は太陽の光が通らない深さになると途端に暗闇になるもので、敵をうっすらとした影でしか視認できないのが厄介だ。

 

「来ましたわ」


 ルーイダの声だ。

 向こうが先に索敵で勝ってしまった以上は防御に回るのが先決。


「ゴポゴポー!(異世界サメ54号"シャーク・インパクト・アイシクル"!)」


 だが、構えているうちに巨大物体がバーシャーケーを轢いて奥へとふっ飛ばした。

 それは、全身が氷の結晶で出来た巨大な海の怪物! 結晶の中にはコアとして収納されているサメゴリラが見える! あれは正しく、氷というダイヤモンドで生成された鮫沢が新たに造りしサメだ!


「まさかわたくしの氷魔法すら取り込んで木々の鮫獣さめものを巨大な氷塊に変えてしまうとは、凄まじいおじいさまですわ」


 あの氷は水魔法の一種、それも果てしなく厄介なものだ。

 発生させた水を瞬時に氷に変換することで物理的な攻撃力を増し、冷気を活用した拘束までもを可能とする、というのが大雑費に括られる氷魔法だが、ここは全てが海水で構成されたフィールド。

 つまり、周囲の空間全てが氷になり得るという訳だ。

 この姫様はセカンド級までの魔法は殆ど無詠唱、サード級の魔法も使えるものがあるレベルの武魔両道で玄人以上。水魔法とそれを応用した氷魔法の使い方だけを見ても〈ビーストマーダー〉クラスかそれ以上なのは間違いない。


「奥の手を何枚隠してるんだい?」

「勝つ為には思いつく手段を全て実行せよ、お母様の教えでしてよ。故に、勝つ為に教えません」


 しかも、吹っ飛ばされたバーシャーケーが見当たらず、よく見れば彼の手だけが口の中からはみでている。

 捕食されてしまったと言うのかい!?


「あらあら、夫にばかり目を向けてないでわたくしに構ってくれませんこと? セカンド・アイスバインド、ですわ」


 加えて、ルーイダはあたしの足元を直接凍らせる魔法を唱えた。

 それ自体は予測済み、避けるだけなら口が動いた瞬間に移動すればどうにかなる。

 ただ、これはあの時のあたしみたいに陽動と考えるのがいいだろう、その次の攻撃こそが本命!


「やっぱり来たか!」

「おねんねなさい。アミキナ流古武術"ナイルの風"!」


 水を思いっきり蹴ってあたしの前まで突進を仕掛けてきた。

 距離は20mあるが、こちらへ到達するのに一秒もかからない縮地の域だ。

 しかも、こいつの古武術は読めない動きをする。だから、喰らう訳には行かない。


「ええい、あえて攻めるよ!」


 ならば、こちらも水中を蹴って己の爪で刺突攻撃を狙う。

 そうして、お互いの拳がぶつかり合った。

 続くように右足を思いっきり振り上げるが同じように相手も足を振り上げてそれを止めてくる。

 四肢のどこかを下げるなら別の四肢を振るう、さすれば相手は同じ四肢でそれを防ぐ、そんな剣幕の如き攻防戦だ。


「茶番ですわね……セカンド・アイスブロック、ですわ」


 こんなことをしていれば、氷魔法を唱えられるのも当然。

 すぐさまに一歩下がったが、目の前にはあたしと同サイズの氷塊が現れた。


「こいつを食らってたら即刻芸術品になっていたね」

 

 これは狙った周辺を氷結させる魔法。その中に人間を入れればオブジェの出来上がりな厄介なモノだ。

 今回のルールを考えれば、全身を氷結されようものならすぐに石が光ってリタイア、効率優先なら即死の最強魔法かもしれない。

 魔法の効果時間が一定時間を超えるのなら、致命傷を受けたのと変わらないまであるわけで。

 だが、避けたことまで相手の思うつぼだったのは痛手だ。


「いえいえ、その行動は好都合でしてよ。アミキナ流古武術"ミシシッピブレイク"!」


 彼女は目の前の氷塊を膝打ちで思いっきり砕いた。

 すると、その衝撃で水中でありながら大きな爆発が発生。あたしは遠くへ吹き飛ばされてしまった。

 しかも、身体中に氷の破片が突き刺さっている状態で。


「まずいねぇ、このお姫様は只者じゃないよ」

「ご理解ありがとうございます、この距離なら詠唱にも一安心ですから。『我が魔の力よ、その凍てつく水で敵を蝕み続け給え』サード・アイスイロウシェン、ですわ」


 ――彼女が魔法を唱え終えると、あたしに突き刺さっている破片が体内へと入って広がっていった。

 なんだこれは、まさしく即死の氷結攻撃じゃないか。

 


***


 バーシャーケーの奴は大丈夫なのだろうか。

 もはや食われ尽くされているようにも見える。

 いや違う、彼は魔法を解除して元の身長に戻っているだけだ。

 なら、そろそろこっちも奥の手を使う時が来たみたいだね。


「勝負が終わる前に聞いておきたかったのですが、貴方が背負っていた得物はどうしたのですの?」

「忘れてきたってことにしてくれないかい? 水中だと扱いづらいんだよ」


 そう質問する彼女は明らかにその場から動こうとしない。

 記憶の限りではあの魔法は発動が終わるまでずっと集中する必要があり、隙も多くて1対1の勝負専用とも言える一撃必殺だ。

 それなら、まだ勝機はあるってものさ。


「お待ちなさい、どうして石が光りませんの!?」

「さあ? 愛の力って奴じゃないかい」


 そうそう、この手の攻撃を喰らえば本来すぐに石が光って終わってしまうものなのは間違いない。

 心臓が一秒でも凍ってしまえばアウト。

 ただ、世の中なんにでも例外があり、あたしの場合は闘志を燃やすことで全身に力を込めて己の代謝を一時的に3倍まで引き上げ、体温を果てしなく上昇させることで対抗しているのさ。

 リタイアまでは30秒、体がある程度動くのは20秒ってところだけどね。


「それと、忘れてきたってのは当然嘘だよ、戻ってこい、月盧把ツキノワ!」


 あたしが叫ぶと、海面に浮かべておいたブーメランが大きく回転しながら近づいてくる。

 そう、あたしの背後の直線上にいるサメに向かって。


「なんという奇天烈な戦法ですの!?」

「かく言うあたしもこのルールで戦うのはもう3回目なんだよ。まだタネはあるから楽しみな」


 ブーメランはサメの大きな口の中へするっと入り込む。

 そして、一瞬動きが止まったかと思うと、


「ありがたいぞムーンよォ!」


 誰かさんの大きな声と共に胴体からブーメランとそれを掴み続けるシャケ魚人らしき物体が回転し続けながらこちらへと近づいてくる。

 その衝撃でシャーク・インパクト・アイシクルは激しくじたばたと痛みに悶えているがそれは無視。

 そして、最初に呼んでから10秒程で月盧把ツキノワと共にバーシャーケーが私の前に現れた。


「チィ、一旦魔法を解除しますわ、2対1は流石に分が悪すぎますの……早く来いや、クソジジイ!」

 

 都合よく盤面が動いてきた、そんな中で相手が距離を取ろうとする一瞬を見逃す訳にはいかない。

 そうしてあたしは両手で月盧把ツキノワ持ち手を握りしめ、その上にバーシャーケーが更に両手を重ねた。

 あとは海の中で踊る人魚の如く、二人でぐるぐると回転し、二人の力を同時に込めて、


「ラッターバ二大王にだいおう奥義"サーモンベアカッター!"」


 思いっきり投擲する!

 それにより、回転速度は通常の2倍を超えて3倍! いや、これはもう月を超えた回転する円は太陽そのもの!

 そんな太陽がルーイダ・アミキナーへと降りかかる!


「こんなのモロに食らうとお陀仏ですわ! セカンド・アイスウォールですの!」


 自身を中心に球体型の氷壁を貼ったようだがそれも無駄。

 

「何が氷魔法だ、2人のアッツアツな炎をくらっちまいな」

「以下同文ゥ!」


 太陽は氷壁を砕き、彼女の右肩をバッサリと切り裂き突き抜ける!


「いってぇですわァ!」

 

 これにより、致命傷スレスレのダメージを受けたことで彼女が身に付けていたネックレス型の生命連動石が青く発光。

 鮫沢を最初に潰す作戦からはズレてしまったがこれで1人撃破だ。


「……ムーンよォ、お前も限界のようだなァ」


 だけど、あたしが指輪にしていた生命連動石も光っていた。

 あの体内への侵食氷結攻撃は本当に必殺だったみたいだ、バーシャーケーの手を借りた上で相打ちとはざまあ無いねぇ。

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