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第73鮫 情鮭(ナシャケ)は鮫の為ならず

***

SIDE:ムーン・ルーン

***


 あたしが今の場に立っているのは、自分で築き上げてきた今の国の環境を何処の馬の骨とも分からないエビ畜生一匹の物にさせないためだ。


 ラッターバは国王が国全体を治め、その下に各地を治める領主が領土毎に細かい政治を行うシステムになっていて、あたしは元々ルーン家という、"武を極める"、ただそれだけが家訓の結構野蛮な領主一族の生まれた。

 その家訓が性に合っていたのか昔からずっと鍛錬と戦いの日々に明け暮れていたぐらいさ。

 それこそ、家族が揉めていた一族が送ってきた尖兵共を愛用のブーメラン一本で壊滅させた経験だってある。

 魔獣と戦うのは趣味じゃなく、〈ビーストマーダー〉は目指さず武術大会で暴れ回るのが日常茶飯事だった。

 その結果、とある武器の使用すら認められた大会で闘ったのがバーシャーケーとの出会いだ。


「中々やるでは無いか、貴族の子よォ!」

「王族なのにこの程度なんて言うんじゃないだろうね、もっと本気を見せな!」


 まだあの頃のあたしは若かった、この国に自分より強い者なんて居ないと浮かれていた程に。

 結果、最後の最後で隙を突かれて負けた。

 でも、おかげで目が覚めた実感もあり、いい経験と今でも思ってる。

 何より、あの日負けてから彼に惚れてしまったのだ。

 きっと、それは恋愛感情もあるだろうが、彼の元にいれば毎日のように戦える、もっと強くなれる、そう思ったんだ。


「そういう訳さ、毎日あんたの側にいたい!」

「我輩も同じことを思っていたァ、お前といるともっと強くなれるとあの日確信したからなァ!」


 意外にもお互い考えていることは同じで、心の距離もあっという間に縮まった。

 結果、結婚を決意する時のも早かった。


「よし、じゃあ一つお願いがあるんだけどいいかい?」

「応ゥ! 何でも言うがよいィ!」

「あんたとあたしの政治家としての権利を同等にしな! そうでもしなきゃこの国がまともに続くか不安で仕方ないんだよ」


 ただ、譲れない問題点があった。

 それは、バーシャーケーの政治家としての適性が客観的に見て不安定だったことだ。

 地頭の良さやカリスマ性などを考えれば玉座に座ってふんぞりかえって実際に国を動かすのは賢い奴任せな形でも王として成り立つだろうが、少なからず傲慢な性格でもある、そう簡単に事が進む気もしない。

 王位継承権を持つ者である以上、近いうちに彼は王となるが、結婚できるならその問題をどうにかしたかった。

 結果、あえて名を変えないであたしはムーン・ルーンというバーシャーケー・ペンサーモンと同等の権力を持つ第2の王となり、今の通り〈百年の指示者ハンドレッド・オーダー〉やらに目をつぶれば安泰した国が成り立っている。

 まあ、言うだけ言った後、普段の鍛錬に加えて寝る間もない程の勉学で経済や税収関係の政治を回す能力を身につける地獄のような日々が始まったが、それもある意味夫は夫らしく活動して欲しいという愛でやった事と考えればいい思い出だ。


「今になって気になるのだがァ、実は半分ぐらい由緒正しきルーン家の名で生きたかっただけなのではァ?」

「それを言っちゃおしまいってもんさ」


 そして今、2人の王の1人としてこの場に立っている。

 王位奪還スリーマンセルバトル、本気で戦うよ。



***


 あたし達は、森を駆ける。

 クマ科のあたしはこういう森林地帯だと二足歩行で人の営みに従うより、両腕両足で四足歩行をした方が早い。

 そうなってくるとバーシャーケーより早く走れるので彼を背中に跨らせている。

 獣人でなく本来のクマならシャケなんて餌でしかないのに、つくづく奇妙な関係さね。


「そろそろ予定の地点に着くなァ!」

「ああ、ぶちかましちまいな!」


 そして、とある場所で急ブレーキをかけ停止した。

 目的はただ一つ。


「サード・ギガントォ!」


 辺りの木々をなぎ倒し、一匹の鮭人サーモンマンが体を巨大化させていく。

 その姿はまさしく巨人種! いや、それ以上の大きさで島に己の存在を顕にさせている!

 この作戦はシンプル、あえてバーシャーケーを巨大化させることで位置を知らせることが目的だ。

 大型の敵に対応するには鮫沢のサメが必要不可欠であり、彼をおびきだすにはこれ以上にない戦術。

 3対3の勝負では、複数人で1人を集中攻撃することより効率のいい立ち回りもないと考えれば残り2人のうちどちらかを引連れて攻めてくるのは間違いない。それを対応するのがあたしの役目だ。


「あのじいさんはこっちに来てくれるかねぇ」

『鮫沢は絶対に来るゥ! 奴は海産物に対抗心を抱く者だ、我輩を合法的に殴るチャンスを毎日伺っていたに違いないィ!』

「いや、いつも言うけど巨大化した時にそのまま喋るのは耳に響くから首で相槌を打つぐらいにしな」

『すまぬゥ!』

「話を聞いていたかい!?」


 そうこうしているウチに、時は来た……巨大なウマが!

 大きさにして34m! 木々や葉や花などをつむぎ合わせて形成された身体! 真っ直ぐに向いた胸ヒレ2枚を重ねて関節を持ったモノを前足に! 逆向きの胸ヒレを後ろ足に! だが、胴体や顔は明らかにサメ! むしろこれはサメのパーツだけで作られたウマだ!


「うひょひょひょーい、異世界サメ53号"シャーク・インパクト・フォレスト"じゃ!」


 敵の大きさに合わせて同サイズで戦える鮫沢はある意味ではバーシャーケーと似たような戦闘スタイル、ぶつけ合うには正しくうってつけだ。

 なお、当の彼自身はシャーク・インパクト・フォレストの頭部の先で腕を組んで直立している。


「シャケなどサメの前では無力ということを教えてやるぞい」


 シャーク・インパクトは木々を薙ぎ倒しながら全力でバーシャーケーに突進。

 対し、彼はその攻撃に対して両足を広げて踏み込み、両手で首を覆うように掴んで抑え込もうとした。

 だが、これは全速力のウマを素手で受け止めるような荒行。サメならば尚更だ。

 大地を削りながらジリジリと後ろへ押され続け、その姿勢も崩れかねない状態で見ていて心配になる。

 しかし、バーシャーケーはラッターバの王なのだ、馬鹿なようで戦いでは常に冷静、勝利に繋がらない判断をする奴じゃない。

 そもそもとして、首を掴むことで腕を噛ませないための対策まで実行している程には。


『おおおおおおう!』


 そして、その威厳に相応しい雄叫びを上げながら、ほんの一瞬発生したサメウマの速度が低下する瞬間に顔から全身を持ち上げて大地へと叩きつけた!


「シャーク・インパクトー!」


 馬の形状をとっている以上走行中の横転は立ち上がりに大きな時間を要する、後は追撃して決まりだ。

 こちらも背中に担いでいたあたしの武器、"月盧把ツキノワ"を取り出す。

 これは、ルーン家で代々受け継がれてきた中央にある持ち手以外が薄黄色い刃で形成されている1m50cmの大きなブーメランだ。

 すぐ様にぶん投げて鮫沢の手首でも落とせば石が光ってKO、あとは流れるように捌くだけさ。


「ま、そういうことにはならないと解ってはいたよ」

「オーホッホッホ、ムーン・ルーンがいますわー!」


 だが最初に予想していた通り、同行者がいた。サメ型のフルフェイスヘルメットを装着した蜴人エキジン種、マスクド・アミキナーがランナーフォームで全速力を出しあたしに向かって走ってきている。

 それなら標的変更、勢いよく彼女にブーメランを投げるまで。


「まずはあんたが刃の錆になるんだね!」


 全身でフルスイングするように構え、思いっきり月盧把ツキノワを投擲してやった。

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