第72鮫 サメルクロス
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SIDE:螃蟹飯炒
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ここは余程の生物が存在しない奇妙な無人島ヒョウモン島。
忌むべき歴史を持つ無人島の海岸に、国の未来を決めんとする未来を背負った6人の猛者達が集結していた。
「なんで2人も姿を隠しているんだい?」
「我輩は非常に嫌な予感がしてきたァ」
3対3、両者のチームが面を合わせて睨み合っているのだが、ショウコーのチームは以前と変わらぬボクサースタイルな衣装である彼を除いた2人が黒ずくめのフードで全身を覆い隠しており、試合が始まるギリギリまで見せるつもりは無い様子。
一人はヒト種基準だとちょうど平均ぐらいで、逆にもう一人は180cmを超えるヒト種視点なら大柄な人物に見える。
もちろん、ペンサーモン家&ルーン家チームは皆顔など隠していない故に、何か企みでもあるのかと不安になってしまう。
「それではルールを説明するゥ、王位奪還スリーマンセルは3対3で己の力をぶつけ合うものだァ! 皆が指輪やピアスやネックレスなどのアクセサリーとして身につけているこの生命連動石は致命傷ギリギリの負傷を受けた場合か本人が退場を希望した段階で光るゥ、そうなった者は即刻退場し以後の試合には関与できないィ。当然、生命連動石が光っている者を攻撃した場合も同様に光る仕組みを施してある、命の奪い合いなど絶対に起きてはならぬぞォ!」
バーシャーケーが大雑把なルールを説明した所で、各チームメンバーを軽く自己紹介することとなった。
しかし、それこそ世界でも上位の存在が拳を交わし合う都合上審判の配置などが厳しく、王位を狙われている側がルール説明や進行を選手がせねばならないのは皮肉でしかない。
「我輩はバーシャーケー・ペンサーモンゥ! ラッターバの王であるゥ!」
「あたしはムーン・ルーン、もう一人の王だよ」
「私は螃蟹飯炒デース、カニデース」
「俺はショウコー・エビデンスキー、元〈ビーストマーダー〉の漁師協会会長ってところだな」
そして、ペンサーモン家&ルーン家チームの自己紹介が終わり、ショウコーが自身の自己紹介を済ませると、彼は突然指を弾いた。
「さて、俺からのサプライズを堪能してくれ」
すると、黒で覆い隠された平均的な身長の人物の姿が顕になる。
「わしじゃよ」
その正体は、鮫沢だった。
……なんでだ?
「フ○ック!」
「流石に敵に回るなんて考えてなかったよ」
正直呆れてものも言えず、ムーンと共にため息を付いてしまった。
ただ、バーシャーケーは妙に興奮気味だ。
「我輩としては困惑半分ゥ、しかしてセレデリナだけでなく鮫沢と拳を交えることができるのは楽しみでしかたないぞォ!」
そういえば、あの魔王厨サメ厨兼ビーム厨のセレデリナはサミットでの2戦目では負けたのだった。
1戦目で勝てたのはあくまでタコオックの手によって心身ともに負荷がかかっていた事で勝機があったに過ぎない。
逆に考えると、相棒なしの真っ向な力比べではセレデリナ以下の彼が相手というのはむしろ好機かもしれない。
「あの後上手く合流して三次会まで呑んだんじゃがな、少々好都合な話が舞い込んで来たのでこちらのチームで戦わせてもらうぞい」
「そういう訳だ、まあ趣味は合わずとも酒の力があれば分かり合えるものなのさ」
「「ガッハッハッ!」」
共に肩を組んで高笑いする2人。
もしこの場に彩華がいれば鮫沢は死んでいただろう。
「俺は勝てる勝負以外しない主義だ。次もその信念に基づいたゲストがご登場!」
そして、ショウコーは高笑いしながらもう一度指を弾くと、次は大柄な人物がその姿を露わにする。
爬虫類的な緑色で鱗が並ぶ素肌に筋肉質で鍛え抜かれた肉体がすけ通るピッチリとしたドレスのような何かを纏い、顔がフルフェイスのサメ型ヘルメットで覆い隠されたおそらく蜴人種……ファンタジーモノでいえばリザードマンの女性なのだろうか。
全体的に筋肉がガッシリしており、日頃から果てしない鍛錬を積んでいることは目に見えてわかる。油断ならない相手なのは間違いないだろう。
……いや、本当に誰だ!?
バーシャーケーに相手チームの詮索はご法度だと言われ、〈螃蟹勇者団〉に調査を頼めていないせいで本当に脈絡もなく現れた謎の覆面レスラーとしか言いようがない。
しかも、透視カメラ機能で仮面の底を見てみようにも、鮫沢が造ったヘルメットなのか一切見えないでいる。
流石に会ったことの無い人物となると遠隔指紋認証も不可能で困った。
「この場に呼んでいただいて光栄ですわ。わたくしはマスクド・アミキナー、以後お見知りおきを」
「お嬢様なんデスネー……」
何がともあれ、自己紹介は終わった、あとは試合を始めるだけだ。
「それでは、各チームは指定ポイントへ移動であるゥ!」
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王位奪還スリーマンセルバトルは、一般市民を巻き込まない保証のある大きなフィールドで行われ、各チームがフィールドの指定ポイントに着いた時点で始まる。
その合図として、各チームは到着時点で携帯信号砲……要は信号弾で、拳銃のような形状のものを空に向けて放ち、色の着いた煙幕が縦に伸びるのを確認するのだ。
……実はこれを普及させたのは元〈女神教〉の裏工作であることは内緒だ。
昔からラッターバにはお世話になっていたが、試合がある度にあの手この手で魔法を使って確認をしていた様子にイライラしてしまっただけで何も悪くは無いだろう。
そういう訳で、あっという間に携帯信号砲の煙幕が空に伸び勝負は始まった。
「作戦はさっき立てた通りだね」
「ハンチャン殿はショウコーを狙って一直線ゥ、我輩らはほかの2人が相手であるゥ」
「エビにリベンジ! ロブスターなんて引き連れてやりマース!」
ペンサーモン家&ルーン家は最初にいた海岸、ショウコーチームはそこから真っ直ぐ行った先の島の端の岸辺が指定ポイント。
始まればすぐ様に3人は走り出し、それぞれが行動を開始する。
作戦はシンプルだ、そもそもとして鮫沢は臨機応変に多勢に無勢から1体1までなんでもこなせてしまう。誰かとコンビで動かれてはどうしようもない。
反面彼は彩華無しだと力押しには弱い、だからバーシャーケーとムーンで挟み撃ちを狙って一気に叩き潰させる。
また、仮にショウコーや謎マスクトカゲと共に居ても上手く鮫沢だけを倒して一旦離脱して立て直す戦術を取ればいいだけの話だ。
「それじゃあ散開シマース、ご武運ヲー」
「負けるつもりは無いィ」
「あの蜴人も中々の手練だろう、楽しみになってきた!」