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外伝 エイプリルシャーク

何でも許せる人向けです。

***

SIDE:鮫川彩華?

***


 俺の名前は鮫川彩華さめかわ あやか、顔の良さ以外取り柄のない全教科オール3な凡人女子高生だ。

 せめて一人称を俺にすることで個性を確保して何となく生きている。

 ここ最近、世間では栃木のとある石が盗難されただのと非現実的な話が話題で物騒極まりないものの、当の俺は友達の家でお泊まり会をして菓子やスイーツを食べたりみんなで一緒にゲームをしたりして休日を満喫していた。

 そして、皆と一緒に眠りへとついたことまでは確かな記憶だ。



***


 朝起きると、真っ白な部屋にいた。

 何がなんだと思えば目の前には神話に出てくる神様のような薄い布を纏う筋肉質でハンサムな男性。

 そして、衣装こそは水色のカッターシャツの上に安全用の白衣を羽織っており研究者然としているが、背は小学生程で水色の髪にサメの背ビレにも見える角めいて一箇所だけ盛り上がったヘアスタイルで、白衣も腕の長さが足りないダボダボな所謂萌え袖な少女が並んでいる。

 これはアニメの世界を体感する夢か何かか?


「おお、お前も目覚めたのか、ワシの名前は鮫沢理恵さめざわ りえじゃ。普段はサメの研究をしており、皆には鮫沢博士と呼ばれておるぞい。ここへはサメにある七つのヒレに科学反応を起こすことで神鮫サメロンを召喚し、そしてサメに関する願いを叶えてもらうという実験をしていたらいつの間にか来ていたのじゃ」


 少女はいきなり声をかけてきた。

 喋りからして二次元っぽく現実味がない。

 子供みたいな外見に反して喋り口調は老人そのものだ。

 所謂のじゃロリ属性という奴だろうか、最近はファンタジー色の強いスマホゲームなどで一人は見かけるので妙に馴染みがある。

 

「俺は鮫川彩華だ……。なんか今日の夢はすごいな」

「どうにも夢ではないみたいじゃぞ、わしらは異世界に行けるみたいじゃ。つまりは異世界だけのサメに会えるのじゃ!」


 ついでに彼女について理解が進んできた。さっきから異様に"サメ"というワードを強調している。通称が博士なら恐らく……マッドサイエンティストと見るが妥当だろう。


「こほん、そろそろ真面目な話を致します」


 それから、神様みたいな人が口を開いて話を始めた。

 どうやら俺は鮫沢博士と共にシーディールベーマという異世界へと向かい、〈救済者達〉と呼ばれる者たちとの戦いをしなければならないらしい。

 また、そうだと断定するには話の辻褄も合わない事から、彼女は俺の世界の人間らしい。マジかよ。

 しかも、頬をつねる痛みが現実と変わらないことからこれは夢ではないと見る方が良さそうだ。情報量についていけない。

 

「では御二方、旅へ向かってください」


 そして気がつけば、俺達は異世界へと飛ばされていた。



***


 床に穴が空いて落ちるような感覚が続いていたが、大きく尻餅をついたと思うと視界の先には広大な緑の草原が広がっていた。

 辺り一面、如何にもなファンタジー世界ですよと言わんばかりに行商をしている馬車などが見え、文明力などが見て取れる。

 流石に散歩をしている人などは見当たらず、走る馬車も多い事からこの近辺は街から街への通り道と見て正解だろう。

 馬車の護衛に鬼みたいな単眼の巨漢がいたり、周囲を歩く三人組は耳の尖ったスマートな体つきで弓を背負う者や小さな妖精が飛んでついて行っていなど種族も多種多様な様子。もちろん外見的特徴が俺の知るザ・人間な奴もいる。


「ほう、ここが異世界のシーディールベーマか! 地をかけるサメが居そうな雰囲気じゃわい」


 サメの存在はともかく、何かワクワクするのは事実だ。

 ただ、正直俺は幼い頃に海で食われかけた経験もあってサメ自体にトラウマがある、この狂人が相棒なのは少し気が引ける。

 それに、文明力から逆算すると飯の味を期待できないことは明白。つまりは鮫沢博士とセットで地獄へ来たと考えるべきだろう。

 思えばお泊まり会から目が覚めたらここにいる。本当に天国から地獄状態だ。

 しかも、問題はそう何となく予想がつく範囲を遥かに超えており……。


「彩華や、わしは実は3日徹夜続きで歩くのもやっとなぐらいなんじゃ。ひとまず今日の間は〈救済者達〉とやらの情報を集めるだけになるじゃろうし、おんぶしてくれんか」


 両手を拝むようなぶりっ子ポーズでそんなことをほざいてきた。

 ここ最近の担がれ系ヒロイン路線でも狙っているのか?

 自分が可愛い生き物なのだという自覚がなければこんな行動には至れない、非常に腹が立つ。

 確かに俺が単純な可愛い物好きなら即答だったが、ここは無視しよう。

 ……そもそも、まともな行動指針すら定まっていないのだ。


「75の老人に鞭を打つというのか!? とんだ悪女じゃな!」

「おんぶすると見せかけて背負い投げに移行していい?」


 こいつ、とんでもないクソババアだな!?

 もうイライラしたまま揉め合うのも疲れるので、ひとまずはおんぶ背負いで運ぶことにした。


「こりゃ楽じゃわい」

「こ、こいつ……」


 はみ出ている袖が胸に当たってイライラが募る。



***


 それからこの草原を2時間ほどさまよっていたのだが……迷った。

 周囲こそ草原だが、近くには1度入れば出てこれなさそうな深い森が見え、落ち着くためにも一旦足を止めている。


「zzz……」


 あと、背負っている鮫沢博士はいびきをかきながら眠りについていた。

 大体、〈救済者達〉がなんなのか告げもしないでこんな世界に使えない老人をセットにして送り込むなんて、神様も何を考えてこの取り合わせにしたんだか。

 俺は凡人なんだぞ、何ができると言うんだ?

 結果、精神的にも疲れてきたのでその辺で休憩をとる事にした。

 太陽の位置を見る限り時間はまだ昼頃、日が暮れない内にあの森で薪を集めつつ一晩過ごそう。

 火起こしにせよ何にせよ、友達とキャンプをした経験で今日ぐらいはやり過ごせるはずだ。

 3日も寝ていない老人の事だ、環境はどうあれしっかり寝かせてやらねば。

 そう思いながら、人気が少なくなった芝生の上に鮫沢博士を寝転がらせた。

 一見すると少女を1人草原にテントもなしに放置する悪いお姉さんかもしれないが、そればかりは申し訳ない。トラブルに巻き込まれていないで欲しい所だ。


「むにゃむにゃ、そのフカヒレスープは全部ワシのものなのじゃ」


 寝言からして歳の割に食い意地がありそうに見える。

 異世界の生態系は完全に未知だが、食料確保も考えて森を探索することにした。



***


 それから3時間後、暗くなる直前を目処に鮫沢博士の元へと戻り、薪をくみ上げて火を起こし始めた。

 この世界には魔法があると予想でき、場合によっては誰かに助けて貰い楽をできた気はするものの、そもそもまともに人を見かけないエリアだ。安全が保証されていないからこの状態だと思うと……森の中で獣に襲われなかったのも本当に運が良かったと考えるべきか。

 それはそうと、まずは周囲の芝生に燃え移らないよう軽く草刈りを行い、木の枝を分解して縄上に重ねて木の枝に括り付け、それをぐるぐる回すことで板状の木片に摩擦をかけて火を起こすところから始めた。

 ……小さな木片が指に刺さって痛い。

 だが、お泊まりパーティーからそのまま飛ばされてきた訳であり、夜風に当たれば凍え死にかねない、ここで妥協はできないのだ。


「よし、火も付いた!」


 そして、火起こしに成功し焚き火が完了した。

 景色も暗くなり、近くで寝る鮫沢博士はまるで子供のようだ。喋らなければ普通に可愛いじゃないか。

 なお、森の中にはリンゴやミカンなど見た事のある果物が幾らかあったので、これを食料とするつもりだ。

 起きた時のためにちゃんと残しておいてやらないとな。

 ……結果、俺は安心しきっていた。


「Gyaoooooooo!!!!!」


 そう、ここは異世界だ。ゲームで見るようなモンスターがいないわけが無い。

 声に驚いて空を見ると、羽根を持つ大きなトカゲの影が月明かりに照らされて見えたのだ。


「お、終わった」


 どうしてこうなったのだろうか。

 俺はこんな理不尽で死にはたくない。

 アレはどう見てもドラゴンだ、おそらく夜闇を照らす焚き火が位置を知らせてしまったのだろう。


「鮫沢博士、ドラゴンが襲ってきた! 俺らではどうしようも無い、逃げるぞ!」


 あの神様に何かしらのチートパワーを貰った訳でもない俺に対抗手段なんて無い。

 そうなるともう可能な手段は逃亡のみだが、鮫沢博士を背負ったままだと逃げ遅れてしまう。

 せめて2人で並走したい。


「もう充分寝ただろ、起きろ!」

「うるさい若人じゃのう」


 鮫沢博士はその小さな体を起こしながら目を覚ました。

 まだ寝ぼけているようだがさっさと走ってもらうしかない。


「なんじゃ、やはり異世界らしくドラゴンはおるのじゃな。それならわしに任せんしゃい」

 

 だが、彼女には何か手があるようだ。

 確かに、こんな二次元的存在が俺と同じ凡人であるはずが無い。

 一体何をすると言うのだろうか。


「そうじゃ、今日は栃木から盗んだ石があるんじゃ」


 すると彼女は白衣の内ポケットから質量保存の法則を無視し、縄で祀られた人間の胴体程の大きさはある石を取りだした。

 これはどう見てもあの玉藻たまもまえが変異した石……殺生石せっしょうせきだ。

 そうだ、あの盗難された石は那須の殺生石だった。

 ニュースでも緊急速報が定期的に入る事件だが、その犯人がまさか鮫沢博士だったなんて……。

 このババア、まともじゃないぞ!?


「要約すると、わしは触れた物質をサメに変換する力を持っておるのじゃよ」

「は?」

「ついでにその焚き火も使わせてもらうぞい」


 そうこう言っているうちに長さが足りず垂れた袖が目立つ腕に握られた殺生石が神々しく発光。

 更に、粘土のようにぐにゃぐにゃと蠢きながら焚き火の中へ突っ込んで行った。

 そして、殺生石は夜闇を照らす炎をも取り込みその大いなる姿を露わにして行く。

 二重の層になったギザギザの無数の歯! 何より目立つ背ビレ! 10mの巨大ではあるが、赤と白で色がまとめられた神秘のホオジロザメであることは間違いないだろう!

 更に、サメの持つ7つのヒレは加えてしっぽが2本増えて9つ! その全てが炎で燃え盛っている!

 この降臨せし九鰭きゅうびれのサメの名は……!


「異世界サメ1号"タマモノサメ"じゃ!」

「罰当たりにも程があるわ!」


 そして、タマモノサメに向かいドラゴンは口から火球を吐き出す。

 だが、そんなものは火の神であるサメには通用しない。

 全身で受け止め更に己の九鰭きゅうびれに取り込み己の炎をさらに燃え上がらせる。

 戸惑うドラゴンは何度も火球を吐き出すが、その全てが継ぎ火となり炎を大きくさせるばかりだ。


「セッショウシャーク!」


 タマモノサメは口を開くと、敵へ向かって山の如き巨大な炎を吐き出した。

 それを喰らい、ドラゴンは一瞬にして体を焼き尽くされて消滅。更には炎の規模が大き過ぎたのか森にまで炎熱し、一瞬で大火事になった。


「これ、大惨事じゃないか……?」


 だが、それだけではない。

 火事をきっかけに森の主らしき10mはあるイノシシが目を覚ました。

 それに対し、タマモノサメは敵を見つけたと言わんばかりに己の炎を火山の如く燃え上がらせ飛びつきいていく。

 更に更に、目覚めたのはイノシシだけでなく亡者のような巨人や王の如く偉大さを放つ巨大なドラゴン! 有象無象のモンスター達がタマモノサメに向かって襲いかかるがその全てが炎の前に焼き尽くされ、その歯で噛み砕かれ返り討ちに遭う!

 そうなれば、あらゆる木々に火が燃え移り視界の全てが火の海。


「森が燃えておるぞーい! ()()が燃えておるぞーい! 愉快じゃ愉快じゃ〜!」


 そうだ、俺にとってこんな世界はどうでもいい。早く家に帰りたいだけだ。

 ならば、この世界をサメで破壊してしまえばいい。

 気がつけば鮫沢博士とそのサメを前に、俺の心に()()()()()()()()()()


「鮫沢博士、〈破壊者〉としてこの世界を共に歩もう」

「何を言っておるのか分からんが、面白そうじゃな」



***

作者コメント

***

 今日は4月1日です。







***

SIDE:鮫川彩華

***


 という夢を見た。

 これはきっと、鮫沢博士が可愛い少女になれば全て許されるという勝手な願望が産んだ幻想だったのだろう。

 だが、現実は普通にイラついていた、人間関係は外見より本質的な人格が最後に優先されるということだ。


「へぇ、面白い夢を見たじゃねぇか」


 今俺は、セレデリナや魔王様、ましてや鮫沢博士本人にこんな夢を見たのだと語る訳にはいかず、フレヒカにある行きつけのハンバーガー屋の店主であるヒト種のボブにせめてでもと語っていた。

 本当は俺の立場として秘匿すべきではあるが、陽気な口車に乗せられた結果シャーチネード事件までの俺達の存在を知ってしまっている。逆に言えば何かあった時の愚痴の場として機能しているが。


「面白い夢ねぇ、正直俺としては鮫沢博士は外見なんて関係なく合わない相手なんじゃないかと気付かされて嫌な気分だよ。相棒としては認めている訳だが」


 なお、サラムトロスの食文化が国による味付け等を除けばだが俺のいた世界に近いのもあり、元々ジャンクフードの本番ことアミキナ王国で修行した彼のハンバーガーは本当に美味い。

 一口では顎が上がらない程の大きいハンバーガーは絶妙な味付けだ。ハンズもトマトもレタスもピクルスもソースも、口の中で混ざりあった時が本当にたまらない。添えられたポテトも中々の塩加減で好み。故に、食べる日は他の食事をサラダだけにしてでもここに来ている。まともに3食に加えたら太るからな。


「まあ、女になっちまった上で世界を破壊するなんて、まるであの魚人モドキと同じ思想に至る夢は気分が悪いだろうな」

「ああそうだよ……と言っても性別が変わってた部分はむしろ楽しめていたまであるんだがな。問題は世界を破壊するところだよ、お前みたいな気のいい友人ができちまった中でそんな倫理のない虐殺思考を持ち合わせたくなんだ。本当に」


 ハンバーガーを頬張りながらそう返す。


「言ってくれるねぇ、サービスにドリンク代をまけておいてやるよ!」

「お、それはありがたいぜ」

「……ところで、ひとつ気になることがあるんだが」

「なんだ?」

 

 そんな他愛のない話をしている途中、ボブがひとつ質問をしたいようだ。

 一体何が気になると言うのだろうが。


「いや、聞くか迷ってたんだが、何で彩華あざかは女装してるんだ?」


 そういえば、昨日は魔王様の所で夕食を頂いたのだが、酒を飲みすぎた魔王様に何故か女装させられたんだった。

 加えて、その騒動で心身共に疲れ着衣したまま就寝。仕舞いにはファッションとして似合っていたからか着たまま店まで来てしまっていたようだ。

 エプロン風のドレスに大きなリボン、元々手入れを欠かせていないロングストレートの黒髪はかなり様になっている。


「なんだ、異性装は癖になるからやりすぎるなよ」

「それは気分次第かな」

一応ですが、彩華がクソみてェな夢を見たタイミングの時系列は1章と2章の間になります。


また、3章一節の投稿についてですが、4月上旬を目処に投稿できそうです。

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