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第46鮫 一寸鮫は鮭

***

SIDE:鮫沢博士

***


 それからわしらは、陸へと上がって一旦肩を伸ばすことにしたのじゃ。

 その光景を、謎のシャケ巨人が見守っているのは不気味じゃが。

 とは言っても、助けてくれた以上は敵ではなさそうなので、色々話を聞いてみるべきじゃろう。

 スーパーに陳列されている魚の代表格たるシャケに助けられるというのは非常に不服じゃが、仕方がない。


「貴方は何者なの?」

「そうじゃな、教えて欲しい所じゃぞい」


 すると、シャケ巨人の体が発光し、みるみる内に2m程の普通の魚人種へと戻っていく。

 彼は湖をクロールで渡り、わしらの元へ来てこう答えたのじゃ。


「我輩こそはァ、ラッターバ王国の国王ゥ! バーシャーケー・ペンサーモンであるゥ!」


 なんと、彼こそわしらがこの島に来た当初の目的である救出対象の王じゃった。

 そういえば、王はシャケ科で声が大きいから直ぐにわかると聞いておったのを忘れてたわい。

 ただなんというか、普通に喋るだけでも声量が平均の4.5倍ぐらいはあり、いちいち耳に響くせいであまり関わりたくない類の人物とすら感じてしまうのう。


「うるさい、それに名前も長いし鮭王と呼んでええかのう?」

「おじいさん、彩華にも言われてたけどもう一度言うわね。不敬罪って知ってるかしら?」

「ハッハッハァッ! 面白い老人だァ。我輩を前にそのような態度を取れる者でなければこの狂気の島で生き残ることなど不可能であろうゥ!」


 なにか気にいられてしまったぞい。

 これなら、事情を話せば同行してもらえそうじゃ。

 とりあえず、名前だけでもと自己紹介をした訳なのじゃが、向こうも色々聞きたいことがあるみたいじゃのう。


「鮫沢にセレデーナァ、その名はしかと覚えたぞォ。所で貴公らは何故にこの島に来たァ? 迷子の旅人かァ?」

「ノンノンじゃ、わしは女王からの命令により、お前さんを助けるために来た救出部隊じゃ。実力をお前さんの妻に認めてもらい、追加の人員として採用されたんじゃぞい」

「なるほど、ならばハンチャン殿に並ぶ実力者という訳であるなァ、頼りにさせてもらおうゥ。実際ィ、我輩は絶賛どうすれば国を襲う怪物を止められるのか分からぬままこの島で迷子なのであるゥ! それとォ、そちらの立場こそ理解したがァ、あの我輩も知らぬ外見の魚の力はなんだァ?」


 おお、シャケの分際ながらサメに興味を持ってくれたみたいじゃな。

 それなら、サメについて存分に教えてやるとするぞい。


「サメじゃ。異界の王たる最強の魚じゃぞい」

「なんてたって、このおじいさんは触ったものを何でもサメにしちゃうシャークパワーの持ち主なの」

「なるほど、アレだけの強さだァ。サメはそれこそォ、いずれ手合わせしたい我輩の好敵手ライバルと認める強さであるなァ」


 好敵手ライバル……じゃと。

 サメ観はそれぞれであるし、十鮫十餌じゅっさめとえさなことは忘れてはいかん。

 じゃが、シャケがサメの好敵手ライバル!?

 それだけは、それだけは認めんぞい!


「スーパーに並んでいるようなシャケの分際で何を言っとるんじゃ」

「当て身!」


 怒りのあまり興奮したのもつかの間、セレデリナがわしの背後から首元を狙ってエルボーをぶつけてきたのじゃ。

 ある程度鍛えてはおるが、この老体で不意打ちを受けて立っていられるはずもなく、視界が真っ暗になっていた。

 ただ、最後に鮭王とセレデリナの会話だけは聞こえたぞい。

 

「おお、どうした鮫沢よォ!」

「このおじいさん、歳だから突然寝ちゃうことがあるのよ」

「なるほどォ、それは仕方ないィ。では、我輩と貴公らは協力関係であり好敵手ライバルという関係だァ、よろしく頼むぞォ」

「その時が来たら、手合わせも期待しているわ」



***


 目が覚めると、わしはセレデリナと共に歩く鮭王に米俵のように担がれていた。

 どうやら、鮭王は救出対象であれど、巨大化して物理で殴れ、〈サラムトロス・キャンセラー〉の影響を受けない強力な戦力になりうることからただの保護対象としては扱わないことになったみたいじゃ。

 確か、強化魔法を付与した物理攻撃は〈サラムトロス・キャンセラー〉に対しては普通の魔法と同様にダメージが入らんはずなんじゃが、国の王たる人物で、それもシャケが〈指示者オーダー〉とは思えんし、深いことは考えんぞ。


 それで今は、鮭王がこの島で生き延びるための拠点を自ら構えているようで、そこへ向かうために彼の案内を辿って森を歩いている最中。

 相変わらず景色は薄暗く、霧が立ち込める場所にも幾度と遭遇することもあって視界が常に悪い。

 何より、この景色になってから、生物1匹とていない森の中に動物が現れるようになったのじゃ。

 ……顔がタコの、動物だった何かが。


「いつこいつらを見ても思うのだがァ、本来ィ、魔獣とはゼロから兵器として生命を生み出されたモノのことを言うゥ……しかし、この冒涜的な合成生物は当時の魔族サイドの邪悪すら超える嫌悪感があって気に入らんゥ!」

「同感ね……本当に酷いとしか言いようがないわ」

「セレデリナ、今日はもうサメになれんのじゃから、ここは鮭王とわしに任せてほしいぞい。好敵手ライバルと共に戦うのは癪鮫しゃーくじゃがな」

「サメになるどころかMR(マジック・リソース)も切れてるのは痛手ね……」

 

 なお、森の動物たちは、わしらの周囲で目を光らせ、今か今かと襲うタイミングを待ち構えておる。

 ただ、この動物達は狩りをすることが目的ではない。

 5mもの大きさを持つ本来よりも明らかに肥大化したイノシシ、顔だけでなく足まで触手に変貌しているオオカミ、海に現れた怪鳥と同じ触手でできた羽根を持つタカ。

 この全てが、信徒ではない部外者のわしらを殺すタコなのじゃ。

 狩りではない一方的な殺戮、自然界の法則に反する行為を目的としたタコ共は、気がつけばわしらの四方八方を囲んでいる。

 戦いは避けられないじゃろう。

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