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第36鮫 サメー・クッターと秘密のエラ

「では、荒事ついでにいくらか聞いて起きたいことがあるんじゃが、この触手の断片について知っていることはあるかのう? この街に来る途中の航海で見た事も聞いた事もない変な魔獣に襲われて気になっておったのじゃ」

「あんたより変な奴は魔獣にもいないと思うけど……知っていると言えば知っているってところになるかねぇ」


 おお、どうやらこの店を選んだのは正解じゃったみたいじゃな。

 それからも店主は話を続けてくれたのじゃが、


「とはいえ、ここで話す訳には行かない。それに、長話にもな……」

 

 突然店に2名の男女が来店してきたのじゃ。


「鮫沢博士は居るかぁ!」

「いきなり暴力沙汰はやめなさいよ!」


 それは、彩華とセレデリナじゃった。


「おお、タイミングよく来てくれたのう。そんなに焦ってどうしたんじゃ」

「ハァハァ、魚市場じゃ情報が集まらなくて街中の探索に切り替えたら傷だらけの人達がここから出ていったのが目に入ったんだよ! それで気になって話を聞いてみたら、『さめさめ言い出す老人にやられた』なんて言われて一旦合流しないとヤバいって思ったから急いでここまで来た! ていうか妙に既視感のあるゲームパッケージめいたその服は何!?」

「え、いや、お前さんらのオシャレに憧れて……」

「白衣を複製してでも着まわしてたのに今更それ!?」


 それからわしらは合流がてら色々と話を合わせておったのじゃが、どうやら店主も彼らがわしの仲間だと雰囲気で理解してくれたようじゃ。


「ああそうじゃ、今はここの店主から話を聞くところでな」

「そいつらは仲間って訳かい、せっかくだ、まとめて話してあげるさね。ちょっと着いてきな」

「鮫沢博士に情報収集バトルで負けただと!?」


 すると、早速と言わんばかりに店主はわしらをカウンターの奥にまで案内した。

 そして、酒棚の中で一番高そうな酒の奥に隠れていたレバーを引くと、少し窪みのある扉がぐるっと90°回転し、どこかへと通じる扉が開いたのじゃ。


「まるで忍者屋敷だな」

「入んな、ここは密会用の部屋になってるんだ」

「本当にすごい店を見つけてきたわね」

「わしの第三十四感だいさめかんにかかればちょちょいのちょいじゃ」


 彼女に案内された密会用の部屋は隠し扉から連なる階段を降りた先にあったのじゃが、そこは木造りの店内とは違い、白塗りで宝石を埋め込んだ装飾等が飾られている豪勢なまさしく王室とも言える部屋であった。

 ……何故あんな小洒落たBARの地下にこのような部屋があるのか不思議で仕方ないわい。


「凄い部屋ね……」

「この前に行った魔王城と瓜二つだ」

「凄いかい? これでもあたしはこの国を代表するムーン・ルーン女王なんだよ」

「「「女王!?」」」


 よりにもよって、何となく来店したBARの店主が誰よりも事情通そうな王族とは情報源として単発でSSR(サメシャークレア)な場所を引き当ててしまったのう。

 これには驚きサメの身シャークの胃じゃわい。

 というか魔王の愛人をやっとるセレデリナもこういう場面では驚くんじゃな。


「旦那の方が表向きな場面で顔を出しててね、国民ならともかく外の人間があたしのことを知らないのは当然さね。こういう場所で民の様子を確認するのも仕事の内って訳だ」

「とはいえ、わしらは怪物について知りたいだけじゃ、お前さんの身なりはどうでもいい。サメが好きなら別じゃが」

「鮫沢博士、不敬罪って知ってるか?」


 確かにわしの態度は不敬かもしれんが、そんなものは受け手の判断じゃ。


「えらく強情な奴でますます信用できそうだ。それじゃあ、怪物についての話をするよ」


 実際、店主……ではなく熊王は特に不愉快そうな顔をしておらんしな。

 そんなこんなで、自然と怪物についての話が始まったぞい。


「まず、ラッターバ全域の海で見たことのない巨人のような怪物によって漁師の船を襲撃される事件が最近多発してるってのが現状だねぇ、ようはその触手を持っている奴さ。何でも魔法が効かない上にフィジカルに定評のあるタイプの海守うみもりすら死者が多発している始末と来た」


 なるほど、あの怪物は1匹どころか沢山いて、漁師どころか国を困らせているということなんじゃな。

 タコオックの奴は一体何を考えておるんじゃろうか。



***


 全部彼女の口で説明すると長くなるので要約すると、前述の通り1ヶ月前に怪物が1匹出現、それ以降、1日に1隻ぐらいのペースで漁船が襲われるという事件が起きているのじゃとか。

 故に、漁師もその護衛に付いている海守も国の宝であることから非常に困っておる。

 製造技術に関するものは禁書として全て焼き払われて数百年経った中、今になって新種の、それも魔法が効かないという異質な特性を持つ魔獣が出てくるのは不自然で、「これは神の怒りではないか?」という疑問が出てきた。


 確かに根も葉もない神秘的な考えじゃが、サラムトロスはわしらの世界と違って神秘的な物に溢れている。

 それこそ、薬草を組み合わせて液状化させるだけでどんな酔いも一瞬で覚める薬があるぐらいには不思議なことがいっぱいじゃ。

 なので、この疑問を起点に国を総動員して過去の事象と照らし合わせてみると、何でも人魔統合戦争集結直後、当時は魔族の括りであった魚人種の中で、「昨日までの敵である人間を名乗りたくない」と主張し、「自分達だけの国を作る」と言い張って1000人以上が"ヒョウモン島"なる無人島へ移り住んだ事件が出てきたのじゃ。


 このヒョウモン島の事件は当時から忌むべき事件として隠されており、この事件が変な都市伝説を産まないようにと島も世界中の地図からヒッソリ消されていたのじゃ。

 魚人種の平均寿命はヒト種と同じなのもあり、それこそヒョウモン島の存在は今回の事件がなければ王族内の口伝でしか情報が残らない仕組みになっていた程には無かったことにされておる。

 そこで、歴史家から考古学者まで様々な研究家を呼んだ会議を行い、このヒョウモン島が亡霊としてラッターバ王国に復讐をしているのだと断定。

 王であるバーシャーケー・ペンサーモンは島の場所を知る数少ない個人として、亡霊たる怪物にこれ以上暴れてもらわないように拳で除霊しようと単身で島へ遠征したそうじゃ。

 なんじゃか最後の最後で何かおかしい話になっているが、いろいろな研究家を呼んでの結論なんじゃからそれがサラムトロス流なんじゃろう。


 女王がいるのにまた別に王がいる国の体制も少し引っかかるが、民視点での経済政治をムーン・ルーン女王の熊王が、フリーランス業の海守や国の兵士だったりと武について政治の責任者をしているのが王のバーシャーケーという仕組みだそうじゃ。

 どうせ結婚したのなら2人で国の代表をやろうということになったそうな。

 それと、夫婦別姓で通っているのは相互に関係がいいからこそ王が2人いる環境を自然化させるのが主な理由みたいじゃ。

 この話をしている時、セレデリナはそっぽを向いて聞き流そうとしていたのう。


 ただ、この話には1つ問題があるのじゃ。

 そう、遠征に出たバーシャーケー王が予定期間の1週間をとうに過ぎてるのに帰ってこないのじゃ!

 熊王も国の大臣達もカンカンという状態!

 なので"猛者"と呼ばれる1人の英傑を明日から島に向かわせ、王を救出しつつ怪物の問題を解決してもらおうというのが現状となる。



***

 

「てな感じで大変なのさ」

「思ってた以上に深刻な状況なのね……アノマーノはシャーチネード事件の後処理で外交に集中しきれなかったみたいだし知らなかった話だわ」

「お辛い状況なのじゃな」

「とはいえ、その猛者はうちの馬鹿旦那に匹敵する強さ、少なくとも死ぬようなことはないはずだ」


 ちなみに、サラムトロスは"強い個人"というのがそれこそ1人で100人分ぐらい強いというのがザラなようで、統合戦争を集結させる一騎打ちの舞台に立った経験のある魔王や、海をまるごと沸騰させるセレデリナを例にすればそりゃそうなんじゃか、普通なら100人ほど派兵するような遠征を1人に任せるというのはよくあることらしく、〈ビーストマーダー〉という仕事も基本1人行動でやるものなぐらい。

 だから、バーシャーケー王は単独で遠征をした訳じゃな。

 そう考えれば、例の"猛者"とやらはこの国で1位の〈ビーストマーダー〉、またはそれに相応する存在じゃと考えるのが妥当じゃろう。

 とはいえ、もしここで協力すれば国から機密資料の閲覧権を貰い、サメに関する何かを引き出せるかもしれん。

 魔王はその辺で融通を効かせてくれなかった。売れる媚は気持ち悪くても売っておいて損はない。

 媚、売るぞい。


「そのヒョウモン島についてなんじゃが……わしとこの愉快な仲間達を連れて行くというのはどうじゃ? チーム名を〈ガレオス・サメオス〉と言うのじゃが」

「お、聞いた事があるねぇ、フレヒカの特殊チームだったかい?」


 ほう、名前を知っておったか。

 そういえば、魔王がある程度名前で話が通じるようにと東の国を除く大国には大体話を通しておいてくれたのじゃったな。こりゃ魔王様様じゃ、手のひらは1秒に34回転させるぞい。


「あたしまで国から離れると政治が機能しなくてねぇ、正直"猛者"1人だけに行かせるのは不安でしか無かったのさ。なら、せっかくだからあんたらもヒョウモン島へ向かってもらおうかい。ひとまず集合場所はここってことにして明日の朝にはよろしく頼むよ。無事に連れ戻せたら、みんな可能な範囲で願いのひとつぐらい叶えてやるさね」

「その言葉を待っていた、サメ船に乗ったつもりで頼りにしてくれるといいぞい!」

「そろそろお前が消えて喜ぶ奴も増えてきた頃合いかも知れないな……」

「報酬はどうでもいいけど、アノマーノの苦労の種を減らせるならここでしておきたいし乗るわ。オールは任せたわよ、おじいさん」


 こうして、ヒョウモン島という新たな目的地も決まり、自由になったわしはまたBARのカウンター席へと戻り酒を追加で注文したのじゃ。

 当然、タダで出してくれる事になりつまみもいっぱい頼んだぞい!

 気持ちの悪い媚でも売ってみるもんじゃのう。


「二日酔いしたらぶん殴る」

「ギリ、ギリギリ飲むぐらいは許して」

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