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第34鮫 フカヒレ・サメスタン

 翌朝、船が無数に並ぶ港に迎えられながらゼンチーエへとたどり着いた。

 シャークルーザーについては、魔王が事前に手配してくれた隠れ港へ入港させる形となり、場所を知る者が少ない事から今後の集合場所として活用することにもなったのじゃ。

 それで、到着したのなら次はどう手分けして情報収集を行うかになるんじゃが、セレデリナが勢いでその場を仕切り、


・セレデリナ&彩華のフカヒレさんチーム

・わしだけのキャビアさんチーム


 に決まったのじゃ。

 何? キャビアの元であるチョウザメは厳密にはサメではないって? 

 それは大丈夫じゃ。チョウザメは漢字にすると超鮫――つまりスーパーシャークなのでセーフじゃぞ。(※諸説もありません)


「……ということで、このチーム分けにすべきね」

「鮫沢博士を1人にしたくねぇ」

「サメジンたるわしを信じて」

「せめて魔法の絨毯じゅうたんに乗ってそのセリフを言ってくれ……」

「私は1人だと小回りが効かなくて町中は危険、でもペンライトを携帯している彩華がその穴を埋めるのは容易、そして彩華本人を単独行動させるのは制限時間がネックになっちゃうのよ。だからこれは必然だわ」

「でもやっぱり、鮫沢博士を1人にするのは不安だ」

「悪いが、諦めるんじゃ」


 それから、フカヒレさんチームは魚市場を中心に、キャビアさんチームのわしは街中での情報収集をすることになったのじゃ。



***


 このゼンチーエの街並みなんじゃが、並ぶ家や施設の材質こそフレヒカと変わらんのものの、歩く人々がどれもマグロだったりイワシだったり、はてまたエイどころか甲殻類のエビだったりと多種多様な魚人種が9割を締めており、魚人種ではない者はせいぜい1割と言った魚人社会なのが特徴的じゃ。それ故に、街全体が妙に磯臭い。

 また、自由に入れるプールのような場所が常に開放されており、水に浸かっているときが一番落ち着く魚人種中心の設備が揃っているのが海洋学者として面白いと思えるのう。

 サメの魚人種がおれば更によかったのじゃが、"海は二餌にえさを与えず"というのが現実。


 しかし、情報を集める前にまずは服を買いたいところじゃ。

 というのもシャーチネード事件後、魔王は家を与えたついでに半年分ぐらいの生活費を小遣いとしてわしらにくれたのじゃが、わしがその小遣いを異世界サメ開発につぎ込む一方彩華はオタク趣味の代用としての本だけでなく、この世界流のファッションを楽しみたいからと服を買い込んでおり、今日は船での生活が終わったからかスカした服を来ておる。

 短くまとめた髪に目立つベレー帽が上下長袖で硬い印象になる服全体のバランスを整えているのが印象的。

 じゃが、そんな異世界ファッションを楽しむ彩華を見ておると、妙に羨ましく感じてしまう。

 しかも、セレデリナもまた長袖のブラウスに足元ギリギリまであるスカートとおしゃれな雰囲気を出しておる始末。


 そこで、わしは『ハント・ブラッド』というオシャレそうな服屋に寄ったのじゃが、狩人をイメージに黒をベースとした革製の服でふくらはぎの位置まで垂れる大きなコートを羽織るのが特徴的なセットの装束を見つけ、それを買ったぞい。

 特に、マスクの付いた三角帽子はひときわ目立つ。これは少し彩華のファッションセンスに近づけた気がするのう!

 なんじゃか獣サメの夜が始まりそうでいい気分じゃわい。

 それに、ラッターバという国全体の文化として、魚人種ではない種族は顔以外の肌の露出は少ない衣装が好まれるそうなので、これは正解のファッションかもしれんな。

 というか、服屋の店主がその話をしながらオススメしてくれたコーナーにこれがあったのじゃ。



***


 店を出てから次に向かう場所を考えたところ、何かめぼしい話を聞けそうな施設に絞り込みここから一番近いBARへ向かうこととした。

 やることも、酔っ払い達と喧嘩して生き残るだけでいいからのう。

 それで辿り着いたのが、木製の建築で店名が刻まれた屋根看板にスイングドアが印象的で、西部劇な雰囲気を漂わせておる『サモサモ』じゃ。


「ハローシャーク!」


 わしはスイングドアを バン! と叩き開けて店へとエントリーした。

 店の中は、獣人種クマ科――要するに肌の露出が少ない服を着たクマが二足歩行してBARの切り盛りをしていると表現するのが適切な店主がグラスを拭いて待機しているカウンター席と、6人ほどのゴロツキ達がわいわいやっておるテーブル席とで雰囲気が分かれておる店じゃった。

 何より、そのテーブル席は1人のマグロ顔な魚人がゴロツキ共に囲まれておりなかなかに不穏じゃ。

 昨日の海賊団から颯爽と逃げ出した者に服のセンスが似ておるが、彼はテーブルに頭を突伏して現実逃避しているようにも見える。

 しっかし、魚人の街なだけあってゴロツキもサンマやらイワシやらエビなわけで、それらに囲まれておるとはB級映画みたい光景じゃわい。

 いきなり絡むのも事を荒立てるだけじゃし、とりあえずはカウンター席に座ったぞい。


「お客さん、注文はなんだい?」


 おっと、店主が注文を促してきたな、これはちゃんと答えねば冷やかしになってしまう。

 それはそうと、声を聞く限り女性みたいじゃな。背が180cmはあり、身長で性別を判別するのが一般的なクマ故に外見だけでは分からんかったわい。


「ウイスキーをロックじゃ」


 そんなこんなで、グラスに注がれたウイスキーがやって来たのじゃ。

 サラムトロスは機械文明の発達が弱い分魔法のおかげで文明のレベルが現代と比べて過度に劣ることも無く、氷も魔法で出せば一発と気軽にロックを頼めるいい世界じゃわい。

 そうでなくとも、魔法式の冷凍庫は技術的にもある程度普及しておる。

 酒は味も問題なし、気持ちよく酔えるのう。


「カァーッ、昼間っから飲む酒は最高じゃなぁー!」


 ああ、酒については、そこそこ希少とされる薬草を使った酔いを一発で覚ます薬を手に入れた故にいくら飲んでも大丈夫なのじゃ。

 魔王がため息を付きながら購入ルートを教えてくれたのをよく覚えておる。


「あんた、ただの旅行客って雰囲気じゃないねぇ」


 そうして酒を飲んでおると、店主がわしに話しかけてきた。

 これは情報を集めるチャンスになりそうじゃし、ちゃんと話を聞いてやるべきじゃな。


「ふむ、何かある物言いじゃがどういう用件じゃ?」

「よく分かってるじゃないか。早い話だけど、あそこにいるのはマグロ含めて海守うみもりなのさ」


 そうそう、ゼンチーエに限らず港町の多いラッターバでは〈ビーストマーダー〉だけでは当然手が回らないのもあって、どの街でも、それこそ船の数だけ海守がいる。

 免許制度で簡単にはなれないみたいじゃが、あんなゴロツキだらけなのは治安的に大丈夫なんじゃろうか?


「それで、あのマグロは報酬がいいからと犯罪者でしかない海賊から護衛業を引き受けた上に、バレなきゃ良かったものを特に漁船を襲うことすらなく怪物に襲われたとかで自分以外全滅。証拠ありありで帰ってきたのもあってゼンチーエの海守の信頼に関わるからとカンカンに怒られてるのさね。馬鹿だねぇ」


 彼は、やはりあの時のマグロだったんじゃな。

 サメ魚人なら言われなくとも助けたが、相手がマグロ故に状況を飲み込んだ上で冷静に対処出来て今回はいい結果になったわい。

 それと、何故かシャークルーザーを襲っていなかったような情報改変がなされておるが、何かしら魔王が裏で手配した黒服の怖い人達が口止めをしておるのかのう。


「つまり、内輪での揉め事を自分の店でやられているのが迷惑なんじゃな?」

「そうなんだ、最悪私だけでも対処できるし、何なら警察を呼ぶのも悪くないんだけどね。今はあんたに頼んだ方が早く終わる気がしたのさ」


 それはそうと、ここで店主の仕事を引き受ければタコの話も色々聞きやすくなる、やるしかないじゃろうな。

 ここに居る全員にサメの凄さを見せびらかすチャンスでもあるわい。


「少し店が痛むことになっても構わんかのう?」

「問題ないさ、こういう時は喧嘩両成敗。揉め事なんて起こされるだけ困るんだ。手早くで頼むよ」


 話も終わった所で、早速わしは新しい異世界サメを思いついた。

 なので、店主から"ソレ"を借りることにしたぞい。


「なら、ちょっとやりたいことがある。工具箱を貸してくれんか?」

「それぐらいならあるけど、何に使うんだい?」

「サメにするんじゃよ」


 店主はカウンターの下から工具箱を取り出してくれたのでわしは颯爽とそれを引き取った。

 さあ、サメタイムの始まりじゃ!

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