第33鮫 タコ半魚人VSサメイカ! 世界最強生物決定戦第2ラウンド
シャークラーケンが完成すると、彩華はすぐ頭の上に跨ったのじゃ。
流石に10mはある巨体で、彼自身はちっぽけに見えてしまうのう。
気づけば海へとダイブし、この海上決戦へと参入していったぞい。
「言ってもこいつの力をブーストできるのは3分40秒だけだ、早いとこ倒すぞ!」
「SHA、SHARK(あんな怪物、とっとと倒さないと正気じゃいられないわね)」
「クソ、サメ語がわかる自分が嫌だ」
そうそう、アレから有象無象の魔獣たち相手に試行錯誤を繰り返した結果、セレデリナのサメ変身能力は大体5mを超えるとサメ語しか話せなくなる不思議な作用があると判明したのじゃ。
幸い、わしはドクター・サメトルでもある故にサメ語が分かるから問題はなく、彩華も何故か意思疎通が可能。
サメ語はサラムトロスの言語ではないはずなので、サラムトロス人やら鯱崎兄弟のようなサメへのライバル意識がある訳でもない一般指示者には有効かもしれんのう。
「うむ、こうなるとわしはやることがない!」
一方、わしは操縦室に戻り、船を掴まれないように立ち回ることにしたのじゃ。
2人の健闘を見守ることも立派な仕事じゃわい。
「SHARK!(まずは動きを止めて確実に当てる!)」
そうして、まずはセレデリナが怪物に向かって海を走っていった。
一見すると愚かで当てずっぽうな戦術じゃが、彼女に限って何も考えがないということはないじゃろう。
「えーと、このサメは何が出来るんだ……? なるほど、そういうことだな。全口サメスミレーザー!」
更に、後ろで動いていた彩華がそう叫ぶと、シャークラーケンは海上で全ての口を開け、そこから真っ黒な光線が放たれたのじゃ。
口の数を合計すれば11門、それこそタコになっている怪物の触手の数などはるかに超える量じゃ。
その黒い光の線は8本ある触手を全て切断、更には頭部と胴体、そして両手に直撃しどの部位も大火傷で故障させることが出来た。
「……」
しかし、不自然にも怪物は動じてはおらんかった。
考えてみれば、オー・イシイ・ヴァンガードの船員達を捕食していた時もただただ無表情で不気味じゃった。
痛みにも快楽にも動じないこの怪物は一体なんなんじゃ……?
「SHARK!(どりゃぁ!)」
疑問を感じている場合はないと言わんばかりにセレデリナは怪物の身体を掴んで巴投げを行い、海面へと叩きつけた。
「SHARK、SHARK!(消えなさい、サード・アイレイ!)」
そして、追撃するように魔法を放ち、今度こそと言わんばかりの一撃が怪物のタコな頭部を消滅させたぞい。
「とりあえずお前の姿は金輪際見たくねぇ! いち早く消えてくれ!」
トドメに、シャークラーケンが海中で怪物の身体をその10本の手足で拘束し、それぞれ先端の口から上半身の頭部の口まですべてを使ってバリバリと捕食していったのじゃ。
「なんで倒す時までこんなグロテスクなんだよ……」
「SHARK(勝てたんだから、そこは妥協しなさい)」
こうして、1分もしないうちに怪物はシャークラーケンの餌となり、この世から消え去った。爽快じゃな。
結果、〈ガレオス・サメオス〉は怪物を相手に勝利した。
犠牲も大きかったがある意味自業自得でしかなく、どうでもいいじゃろう。
「おふたりさん、お疲れ様じゃな」
そして、わしはまた船上へ戻った。
セレデリナもサメから人の姿へと戻り、彩華と共に帰ってきたぞい。
「限定的な上に自分だけでどうにかなるわけじゃないが、それでもサラムトロスに来た初日に比べて俺が足手まといじゃないって分かっているのは嬉しい所だぜ」
「実際、一番頼りになるのは彩華が乗ったサメなのよね」
「て、照れるな〜」
「何を照れておるんじゃ、それはわしの造ったサメじゃ。手柄を横取りするでない」
じゃが、嬉しい話ばかりではない。
戦いが終わり少し時間が経った所、シャークラーケンはその肉体がボロボロと崩れ落ちるように崩壊してしまったのじゃ。
そう、シャーチネード事件以降いろいろと実験をしていたのじゃが、彩華の〈鮫の騎乗者〉の力を適用させるとどうにも対象のサメは一定時間後に壊れてしまうようで、極端な負荷がかかったり、カツカツに注入したりしない限りは最低でも3時間40分持つ〈シャークゲージ〉の効力も無視して元の素材ごと消えてしまう事がわかったのじゃ。
「わしのシャークラーケンが……ッ!」
「その、なんかすまん」
正直不便極まりないが、その分強力であると妥協しかないのう。
また、戦いという嵐が去ったからか魔王もひょっこり船上にやってきたのじゃ。
オー・イシイ・ヴァンガードは全滅して魔王の乗る船を襲った海賊船の存在は闇へと消えた。おかげで、安心して起きたことの話もできるぞい。
「ついに新たな〈指示者〉が出てきてしまったようなのだな……。それに、この被害から考えれば、破壊者として活動を始めていると断定する他ない。ならば、お主らのゼンチーエでの行動方針を変えるべきであると思うのだ」
彼女は出てきてすぐさま、状況に合わせた今後を提示してきたのじゃ。
流石は人の上に立っているだけあって、判断力で頼りになるのう。
そして、彩華もまたその件について意見がある様子。
「そうだ、戦いが終わってから帰る時に触手の断片を確保しておいておいたんだ。例えばだが、これを使って魔獣について知っていることを街で聞いて回るってのはどうだ? 明日の朝には到着するし、鮮度的にも腐らないだろう」
彼はそう言うと、さっきから何故か右手で掴んでいた1mほどのタコの触手の断片をわしらの前に叩きつけたのじゃ。
確かに、タコやそれに類似する生物は本来サラムトロスにはおらん。
であれば、これは決定的な証拠になるのう。ゼンチーエ付近にあるこの海域であの怪物が出てきたとなれば漁師あたりに知っておる者も多そうな訳で、ナイスアイデアじゃ。
「当然だが、余は明日以降ラッターバの隣国で外交の仕事があるのだ。協力はできんぞ」
「えー、もっとご飯作りなさいよ」
「人に任せてばかりいないでいい加減自分で料理は覚えるのだ!」
「……まあまあ落ち着いてくれ。それなら、メンツは3人だから台所で3つに切り分けてくるよ」
そうして、タコの触手をそれぞれ約33cmに切り分けて持ち歩くことになったのじゃ。
もちろん、手提げかばんにこれを入れるとなると中身がヌメヌメしてしまうので、急いで事前に作っておいた異世界サメ19号"サメのロゴ入りジップロック"を皆に配ったぞい。
「じゃあ、今夜の晩飯は……と思ったけど、クラーケンはもういないんだよな……」
「なら、もう一度釣りをすればいいのだ」
「それもうそうね。魔獣が釣れた時に即死させる担当は任せなさい!」
「ほっほ、そろそろ夕日も出てきて夜釣りになるが、手短に終わらせたいところじゃのう」
こうして、わしらの1日が終わった。
明日は魚人種の国ラッターバの王都ゼンチーエ。
どんなサメ情報が手に入るか楽しみで眠れそうにないわい。
次回は9月7日(月)からです、またサメな三日間になりますがよろしくおねがいします。