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第25鮫 -SharkLost-鮫失格

「タンマじゃ、彩華だけでも殺さないでおくれ」

「最後に仲間を庇うとは美しいシャチね。なら、ロケット、ミサイル、ガトリング、全部味わい2人揃ってあの世に行けシャチ!」


 そして鯱一郎は、自身の持ちうる全ての武装をわしにぶっぱなしたのじゃ。

 ならば、わしは彩華と共に死なないための抵抗をするまで。

 まず、しゃがんで地面に手のひらをのせ、あたりの砂を全てサメに変換! 次に、変換したサメは全てわしの周囲をグルグルと回るように行動させる! そのサメの数は340!


「異世界シャチ第12号"シャーク・サンドストーム"じゃ!」


 巻き起こるのは銃弾の雨を防がんとするシャーク密度と勢いの鮫砂嵐さめずなあらし

 サメ達は全滅したが防げたぞい! 多少の防御手段ぐらいはあるんじゃ!


「な、なんとか耐えれたわい」


 もちろん、わしがそれで有利になる訳では無いんじゃがな。


「その隙を待っていたんだシャチ、シャチパージ! 突撃ストライク形態フォームだシャチ!」


 鯱一郎は射撃武装を全てその場に捨てて身軽になり、時速100km以上の速度でサメを使い切ったわしに接的してきたのじゃ。


「死ねよや、鮫沢シャチ!」


 サメを造る隙を与えず、生身のわしなど一瞬で殺しうる鉤爪が振るわれた。

 おそらくこれで、わしの人生は終わるのじゃろう。


 サメの多い生涯を送ってきました。

 わしには、他人に迷惑をかけないで生きてきたかについて、見当がつかないのじゃ。


 そう、人生の清算を終え、死を覚悟したその時じゃった。


「このサメバカ博士が! 俺のことを忘れんじゃねぇ!」


 なんと、彩華が起き上がり、ペンライトセイバーを振りかぶって鯱一郎の鉤爪を両手共バッサリと切り落としたのじゃ。


「いっでぇジャチィ!」

「何となく盾で凌いでた時ぐらいから意識はあった。鮫沢博士に俺を守る意思があるなら、俺もまた鮫沢博士を守らなきゃ義理を果たせねぇ!」


 おお、わしとしたことが、また彩華に助けられてしまったわい。


「お前はただの人間、どうしてあの状況で起きあがれるシャチ!? 再起不能ぐらいにはやったはずシャチよ!?」

「なんでかわかんねぇ。ただ、どんなクソ野郎だろうと、この立場で俺が何もしないのは割に合わないって思っただけだ」

「サラムトロス人でなければ魔法も使えない、その上でただの凡人以下のゴミごときがイキりやがってシャチ!」

「薄々気がついてたけどやっぱり魔法使えないのかよ俺! ああもう分かった! 俺は凡人以下のゴミだよ! なら、ゴミなりの抵抗を見せてやる!」


 そこまでネガティブにならんでもいいと思うのじゃが、彩華も彩華なりのコンプレックスとプライドがあるんじゃろう。


「なら、ゴミはゴミらしく死んでもらうシャチ!」


 そして、鯱一郎は鉤爪が無くともと彩華に対して反撃の蹴りを入れた。


「グゥハァ!」


 凡人故にそう簡単に避けられない彩華は胸に直撃して血反吐を吐いた。

 じゃが、姿勢を崩さぬようにペンライトセイバーを地面に突き刺しながら立ち、決してわしの前で膝をつくような姿だけは見せなかった。


「鉤爪無しだと案外攻め辛いシャチ」

「そうか、こっちはどう守りを固めればいいかわかってきた所だぜ」


 明らかな劣勢、これならわしも応戦すべきじゃろうと考えたが、そんなわしに対して彩華はとんでもないことを吹っ掛けてきた。


「ああもう、俺より頭がいいんだから無理矢理手伝わなくてもいいじゃん! あんたはあんたらしくあそこの石像をサメにでもしてろ!」


 それは、まさしく鮫台海暗し(さめだいうみくらし)な発想じゃった。

 まさか、彼の口からそのようなシャークセンスのある言葉が出てくるとは、予想外にもほどがある。

 じゃが、その一言を放ったことで何か吹っ切れたのか更に突拍子もない発言が続く。


「だめだ、鮫沢博士の対応をしてるとやっぱりなんつーかこう、イライラが止まらねぇ。何なら、この際今思っていることを全部言わないとまともに戦えない気がしてきた!」


 あろうことか、彩華は今まで溜まっていたのであろう怒りを全て吐き出そうとしたのじゃ。

 唐突に威圧感を放ち続ける彩華は凄まじく、鯱一郎まで立ちすくんでしまっておる。

 な、何を言うつもり何じゃ……。


「まず、俺はぶっちゃけあんたの事がそんなに好きじゃないんだよ! それこそ大怪盗サメバカクソジジイとしか思ってねぇからな! サメだってそこまで好きな生き物じゃねぇ!」

「ひぃ!」


 なんたる罵倒! じゃが、不思議と聞いていて嫌な気持ちがせず、むしろ素直に受け止めようとすら思えた。

 何故なら、こんな状況であろうがわしに本音を吐き出してくれているからじゃ!

 普通は相手のモチベーションを下げないようなにか言うにも言葉を選ぶじゃろうが、そんなことは決してしない。それが彩華だと今まさに思い知らされている。

 それに、まだ話は終わっていないようで、そこから続く言葉は更にわしの心を震わせる。


「だけどな、それでも一緒にサラムトロスに来た相棒ってことだけは認めてるんだ。だから……あらゆる手を惜しまずこいつを一緒にぶっ倒すぞ!」


 その言葉は、本当に、本当に予想外のモノじゃった。

 まさか、彩華がわしを相棒だと認めていたとは考えもしなかったことじゃ。


「お前さんの意思、しかと受け止めた!」


 ならば、彩華と共に奴をサメの餌にしてしまう以外の選択肢などない。

 

「もう早く行けよ! 時間ぐらい俺の手で稼ぐから、1分もありゃ行けるだろ!」


 ふふ、今のわしには《《希望の光が射しておる》》。

 なんてたって、最高の相棒と共にサラムトロスへ来た事に気づけたからじゃ!


「うむ、早速行ってくるぞい!」

「クソ、あの石像はかっこいいから放置していたシャチが、サメの素材として認識されるとは思わかなったシャチ」

「だが、止めさせねぇぜ。なんてったって、顔以外凡人以下のゴミな鮫川彩華がお前の前に立って悪あがきするからな!」


 そうしてわしは、海の方へと走っていったのじゃ。

***

引用改変元

***



著者:太宰治(1948年)作品名:『人間失格』青空文庫

https://www.aozora.gr.jp/cards/000035/files/301_14912.html

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