第114鮫 トリニティシャーク
一方、鯱崎三兄弟はそんなことなど知ったことではないと言わんばかりにアクアギガントオルカによるタックル突進を行っていた。
「くらえシャチー!」
そこから追撃するように口から凄まじい勢いの水流を放つが、それでもダメージは届いていないようじゃ。
「私の電撃を混ぜてもやはりダメですか」
「反撃が来る、一旦後退するオルカ!」
鯱二郎は何かに勘づいたのか指示を送った。
すると、怪獣の全身が発光していくではないか!
何かのエネルギーをチャージしているのは間違いない。
そうなれば、次の行動は間違いなく……。
「ギャオオオオオオン!!!!」
怪獣の口から、ワールド・カジノ・シャークが放った電磁砲よりも更なる質量、規模、破壊力を持つ高濃度の光線が放たれた。
チャージ段階で全員がその攻撃による死を予期し、それぞれの手段で射線から離れることには成功していたが、果てしなくどこまでも続くその光は怪獣の持つ圧倒的力を示すに十分なモノじゃった。
確かに、これこそが世界を破壊し尽くす存在であることなのは間違いないじゃろう。
これは間違いなくハスターを超える脅威であり、放置する訳にはいかないが勝ち目がない。まさに、わしらの心境は絶望そのものじゃ。
『ええいィ、皆の衆ゥよォ、諦めるでないわァ!』
そんな中でも1人叫んだのは鮭王じゃった。
王都中に響くその声はハッキリに言って耳鳴りそのものであったが、少なくとも諦めることを選択肢に入れてしまうとわしは本当にキャビアを食すチャンスを失ってしまうと気付かされた。
あの怪獣の攻撃や移動によって王城が破壊されてはならない、その為にはいち早く倒さねば意味が無い。
その現実によって、わしの心にやる気の炎が付いた。
「キャビアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」
わしは叫んだ。共にワールド・カジノ・シャークに乗る蜴王女と彩華が嫌そうに耳を塞ぐぐらいには。
覚悟は決まった、あとはどう勝ち筋を作るかだけが問題じゃ。
そんな最中、わしらのサメが飛ぶ空にある人物が飛翔して現れる。
「思ったより遠くに飛ばしすぎたのだ」
どうやら魔王がわしらに追いついたようで、声をかけに来たようじゃ。
なにか話があるのじゃろう、聞いてやるとするかのう。
「あれは余が本気を出せば勝つことは現実的《《だった》》怪獣になる。が、問題として奴には〈サラムトロスキャンセラー〉があって魔法は通用せぬ。余が出来るのは妨害がせいぜいであるが、何か勝算はあるのだ?」
じゃが、彼女の話は真面目に聞けば聞くほど気分が悪くなるものじゃった。
〈サラムトロスキャンセラー〉、未だわしが至れぬその技術はいつもわしらの邪魔をしおる。
とはいえ、話の通りなら時間稼ぎは出来そうではあるのう。
流石はサラムトロス最強の女というべきか、いついかなる時も足でまといになるようなことは決してないところが〈サラムトロスキャンセラー〉を前にしても輝く。
「まあまあまあ、魔王様でもそうなのですわね」
「悲しいなぁ。ただ、そうは言っても、制限時間は過ぎていく、何もかもが良くない方向に進んでるな……現実逃避してぇ」
「イヤー、担い手が現れるまではサーモンキングと共に攻撃して手応えも感じていたのデスガー、合体されてからはダメダメデスネー」
魔王との合流に気付いたのか、ハンチャンは少々弱音を吐きおった。
そうは言うがここまで敵を抑えてくれていたのは事実、弱音のひとつでも吐きたくなるじゃろう。まあサメは吐かない、つまりサメの方が優れているということにしておこう。
そんな中、その言葉を聞いた彩華が何かをひらめく。
「そうか、合体か!」
何を言っとるんじゃこいつは。
一見すると画期的なアイデアに聞こえるが、それはどうしようもなく〈指示者〉というエゴイスト達にとって不都合な言葉じゃ。
即ち、このような罵声だけが返事になる。
「嫌じゃぞ」
「キャンセルデース」
「意地でもやりたくないシャチ」
「オルカ」
おうおう、可哀想に両手で頭を抱え込んでおるのう。
じゃが、これもまた不可逆的な現実なのじゃな。
「悪いが、諦めるんじゃ。操作権は一旦わしが肩を持つから、次の手を考えるぞい」
「何となく予想はついてたけどさ、こんな土壇場でハンチャンまで断ってくるとは思わないじゃん! っていうか前は普通に合体して変な大仏になってたじゃんか!?」
「あの時はまだミスターサメザワだけだったので良かったのデスガネー、ちょっと鯱崎兄弟については生理的に嫌デース」
「なんなんだよ〈指示者〉って!」
提案した当の彩華が非常に困っておるな、ここは助け舟を出してやろう。
「誰よりも賢いバカの総称じゃぞい」
「自分で言うなサメバカ博士!」
恩を仇で返しおった、なんという態度なんじゃ。
そして、その光景を前に、一旦変身を解除しつつ地上で様子見に入っておるセレデリナまでもが頭を抱え始めた。鮭王まで呆れた顔をしておる始末じゃ。
しかし、見るに見兼ねた蜴王女が放ったその一言が、このなんとも言えない空気を変える。
「何を言っていますの、貴方の言うキャビアは確かバタフライの卵の塩漬け……そうですわね、もしここでその合体とやらをやらなければ約束は完全に破談とさせて頂きますわ! 例えそれ以外の勝ち筋を見つけようと知ったことではありません!」
まずい、それだけは困る、絶対に嫌じゃ!
「分かった! 合体するからそれだけはやめて欲しいのじゃ!」
「よし、その意気だぞ姫様!」
「これでも帝王学を学んでいますの、人の扱いは慣れていましてよ」
その言葉を聞いた瞬間、魔王もピンときた表情を見せながらこう言い放つ。
「そうなのだ! 鯱崎兄弟共も罪を緩和する予定だったが無かったことにするぞ!」
なんと、思い切ったことを言いおった。
「な、何だとシャチ」
「確かに合体しないのは損オルカね……」
「どうしますか、兄様方」
その言葉を前に、鯱三郎はニコニコしておる。
おそらく、彼は鯱崎兄弟の新入りでありながら比較的まともなのか正常な判断をしながらもあくまで彼らの思考や行動を優先しているように見えるのう。
また、他の者達もどんどん声を上げていくぞい。
「鮫沢ァ! 合体とやらをしなれけば二度と『サモサモ』には入れてやらん! 出禁であるゥ!」
どんどんと痛いところを突かれておる。
今までにない大ピンチじゃ。
しかもじゃ、そのまま鯱王はその手で地上で人間の姿になり変身時間の節約をしておったセレデリナを掴み、ワールド・カジノ・シャークの元まで投げた。
これが何を意味するかと言えば、セレデリナが直接わしらの乗るサメの上に立つということを意味する。
つまり、それが意味することとは……。
「いい? 私はどれだけ好きでも〈指示者〉のプライドに付き合えるのはレースの時みたいに緊急事態じゃない余裕がある場面ぐらいなの。ええ、合体しないなら〈ガレオス・サメオス〉なんて抜けてやるわ!」
こんな形でチーム解散の危機が来るとは最悪じゃ。
「いくら主と言えど世界の危機を前にそのような行動は許せません」
「「「「そうだそうだー!」」」」
更には、忠誠心を捨てると言い出す〈螃蟹勇者団〉の組織員まで現れ、わしら〈指示者〉は非難轟々かつ非常に困った状況に追い詰められた。
つまり、ブーブー言っておったわしらは、いつの間にか合体しなければあらゆる意味で不利になる絶体絶命に立たされてしまったのじゃ。
そうなれば、もはや答えはひとつしかない。
「しょうがない……サメ、カニ、シャチで合体を行うぞい」
「流石にこればかりは仕方ないデース」
「プ、プライドにも限度があるシャチ」